昨日(2008/04/11)東京高等裁判所で、2001年1月31日に焼津市上空で起きた、日本航空機同士(747とDC10)の異常接近と回避操作によって、747機内で乗客7名及び客室乗務員2名が重傷を負い、乗客81名及び客室乗務員10名が軽傷を負った、事件で管制官の刑事裁判の控訴審が開かれました。
事故の詳細については「航空事故一覧/2001年」に詳しく出ています。
サンケイ新聞、東京新聞、朝日新聞、読売新聞の記事を並べてみました。
新聞記事にもあるように、地裁判決は管制官だけの責任とは言えないとしたのですが、高等裁判所は管制官に責任があるとしました。
この場合の責任とは刑事責任のことです。
サンケイ新聞は、地裁判決と高裁判決の違いについて説明しています。
東京新聞は、事故調査と刑事責任追及が対立する問題について説明しています。
朝日新聞は、個人に対す類似責任追及よりも事故原因の解明に重点を置くべきだという主張のようです。
読売新聞は、高裁判決があった事実だけを伝えているように見えます。
わたしの意見は、この高裁判決は社会的に意味がないと思います。
高裁判決そのものが、事故原因が複合的であるとしているのですから、その上で管制官の刑事責任を認めて罰することは、法的な意味しかなく社会的には法律が見捨てられような結果しか引き起こさないでしょう。
その意味では、真に必要な法的な判断は、事故調査と刑事責任追及のあり方というより高いレベルの判断であるべきでした。
地裁判決は、そこに踏み込んだ判断であったのだと考えますが、高裁判決は「そういう高級なことを裁判所は考えない」とメッセージしたわけで、世間は「裁判所は信用ならない」と考えるでしょう。
被告が上告するのも当たり前だと思います。
サンケイ新聞より「ニアミス事故で管制官2人に逆転有罪」
静岡県上空で平成13年、乗客57人が重軽傷を負った日航機同士のニアミス事故で、便名を言い間違えて事故を起こしたとして業務上過失傷害罪に問われた管制官、蜂谷秀樹(33)、籾井(もみい)康子(38)両被告の控訴審判決公判が11日、東京高裁で開かれた。須田● (=賢の又が忠)裁判長は1審東京地裁の無罪判決を破棄し、蜂谷被告に禁固1年、執行猶予3年、籾井被告に禁固1年6月、執行猶予3年を言い渡した。
便名言い間違いと事故との因果関係などが争点となったが、1審判決は「誤指示は不適切ではあったが、言い間違いがニアミスを招いたとはいえない」と判断。その上で「事故の刑事責任を管制官や機長という個人に追及するのは相当でない」として、2人に無罪を言い渡していた。
検察側は「管制官が重大な人為的ミスを犯しているのに、1審判決は個人の過失責任の追及を放棄している」として控訴。弁護側は控訴棄却を求めていた。
事故は13年1月31日午後3時55分ごろに発生。実地訓練中だった蜂谷被告は、日航958便を降下させようとしたが、誤って同907便に指示。訓練監督者だった籾井被告も誤指示を聞き逃し、907便が緊急回避行動を取ったために乗客57人がけがをした。
「
管制官、「業務」負担大きく」
管制官の指示をめぐる航空機のトラブルは、昨年から今年にかけても各地で相次いで発生した。聞き違いや勘違いといった単純なミスが原因とみられているが、管制業務の負担の大きさが背景にあると危惧(きぐ)する声もある。
今年2月、新千歳空港で日航機が無許可で離陸を開始するトラブルが発生。管制官が指示の中で「テークオフ(離陸)」という用語を使用したのを、乗員が離陸許可を受けたと誤解した可能性が高まっている。
昨年11月には、中部国際空港で中国南方航空機が管制官の指示に従わず、停止線を越えて滑走路に無断進入。直後に着陸予定だった全日空機が着陸をやり直している。
昨年9月には、大阪(伊丹)空港で着陸した日航機が、別機への管制官の指示を誤認して、無許可で滑走路を横断。同空港では翌10月にも、全日空機が管制官の指示とは異なる滑走路に着陸している。
航空評論家の青木謙知さんは「システムがいくら更新されても、管制官の業務は軽減されていない。本来なら管制指示は復唱が当然だが、忙しさの中でなおざりになることもある。人間のミスを百パーセントなくせない以上、バックアップするシステムの構築が必要」と指摘している。
「
管制官の単純ミスは「危険行為」 ニアミス公判解説」
降下を指示すべき便名を言い間違えた管制官2人を逆転有罪とした11日の東京高裁判決。1審判決とは正反対の結論になったのは、便名言い間違いというミスを「実質的に危険な行為」ととらえたか否か、その認定の差に尽きる。
1審判決は、たとえ907便が誤指示により降下しても、958便は航空機衝突防止装置(TCAS)が作動しなければ水平飛行を続けていた-という前提で判断。「その段階では衝突を招く危険な指示ではなかった」として、言い間違いミスには実質的な危険性はなかったと判断した。
しかし高裁判決は、TCASによって907便には上昇指示が、958便には降下指示が現実に出ていた点を重視。958便が水平飛行する前提で判断した1審判決を「両機が急接近しているという切迫した状況を踏まえておらず、事実から目を背けた空論」と批判した。
その上で、管制官が907便に誤って降下指示を出したことこそが、958便とニアミスを起こし、急激な回避措置によって乗客がけがをする恐れのある「実質的に極めて危険な管制指示」と明確に認定した。
管制官による誤った指示、TCASによる指示、機長判断による緊急回避措置-と、このニアミスは複雑な要素がからみ合って発生している。ただ判決は、管制官の単純ミスは大惨事につながりかねないということを厳格に示した点で、航空行政に携わる者への大きな戒めとなろう。(福田哲士)
東京新聞より「2管制官に逆転有罪 日航ニアミス 東京高裁『誤った指示が原因』」
静岡県焼津市沖の上空で二〇〇一年に起きた日航機同士のニアミス事故で、業務上過失傷害罪に問われた管制官の蜂谷秀樹(33)、監督役の籾井(もみい)康子(39)両被告の控訴審判決が十一日、東京高裁であった。
須田賢裁判長は両被告を無罪とした一審の東京地裁判決を破棄、籾井被告に禁固一年六月、執行猶予三年(求刑禁固一年六月)、蜂谷被告に同一年、同三年(同一年)の逆転有罪を言い渡した。
管制官の刑事責任を問えるかが焦点だったが、判決は「便名を間違え危険な管制指示を出した初歩的誤りで、指示と乗客の負傷との間には因果関係が認められる」と、ニアミス事故で刑事責任を初めて認定した。
航空機事故では、刑事責任より原因究明の重視が世界的な流れだが、今回の判決はそれに逆行する形となった。
一審は「管制指示は不適切だったが(管制官の)指示通りなら両機の間隔は保たれ、危険性はなかった」と判断した。
事故空域では当時、最低二千フィート(約六百十メートル)が安全な垂直間隔の基準だったが、事故後に千フィートに変更された。
須田裁判長は「便名を間違え、二千フィートを切ったから衝突防止装置(TCAS)が作動した。誤った指示がなければ事故は起こり得ず、刑法上の注意義務に違反する」と述べた。
両被告は上告する方針。
■再発防止より責任追及
<解説>日航機ニアミス事故で、管制官に有罪を言い渡した十一日の東京高裁判決は、航空機事故で個人の責任を追及するより、原因追及によって再発防止につなげることを重視する世界的な流れに逆らう格好となった。
判決は、ニアミスに至るまでの流れを(1)管制官の誤指示(2)指示後に両機の衝突防止装置が作動(3)一機の機長が装置の指示に従わず両機が接近-と認定。
弁護側は「管制官は装置の作動を予見できなかった」として(1)と(2)(3)に関連はないと主張したが、判決は(1)がなければ(2)(3)はなかったとして管制官の刑事責任を認定した。
航空機事故は複雑な要因で生じる。個人に責任を負わせるだけでは、裁判に不利になるとの理由で証言を拒まれて事故防止策には生かされない。国際的に原因究明を重視する背景にはそうした事情がある。
一九九七年に三重県上空で日航機が乱高下し乗客らが負傷した事故の刑事裁判で、原因究明を目的とした運輸省(当時)の調査報告書が証拠採用された是非が問題になったのも同じ理由からだ。
ある管制官は「人為的ミスを完全に防ぐことは難しいが、事故を教訓にするには責任の追及よりも優先して取り組むべきことがある」と指摘。実際、事故後に管制官の指示ではなく装置の指示に従うとのルールに改められ、再発防止に生かされている。
航空需要が増大する中、日本の空は安全を確保しつつ便数の増加が求められている。ニアミス回避の管制業務をどう行うのか。個人に責任を帰した判決が現場を萎縮(いしゅく)させないか。判決が及ぼす影響を見守る必要がある。(寺岡秀樹)
<日航機ニアミス事故>2001年1月31日午後3時55分ごろ、静岡県焼津市上空で羽田発那覇行き日航907便と韓国・釜山発成田行き日航958便が接近、管制官が便名を取り違えて907便に降下を指示した。直後、907便の機体に取り付けられたTCASが上昇を、958便のTCASは下降をそれぞれ指示。907便の機長はTCASの指示に反して管制官の指示に従ったため両機は異常接近し、907便が回避のため急降下した際、乗客乗員計100人が重軽傷を負った。
朝日新聞より「「もう管制できない」ニアミス逆転有罪、現場に衝撃」
「危険は決して生じさせてはならない」――。01年に起きた日本航空機のニアミス事故訴訟で、東京高裁は管制官の職務上の義務を厳しく指摘し、管制官2人に有罪判決を言い渡した。様々な要因が絡む航空事故で、個人の刑事責任が認定されたことで、関係者に驚きと不安が広がった。
「明日からというか、今日から管制業務はできない」。籾井康子被告は判決後の会見で、現場への影響をこう語った。一瞬の「言い間違い」が厳しく断じられた点について、「現場に不安と緊張を強いるもの。安全にとって有害」と声を詰まらせた。
国土交通省航空局の幹部は「実務への影響が心配」と話す。日本上空の交通量は、事故当時の年間約410万機(全空域の延べ数)から現在約500万機と約22%増加。だが管制官は1732人から1950人と約13%しか増えていない。今後成田空港の滑走路延伸や羽田の再拡張などで、より多くの機体をギリギリの間隔でさばくことが求められている。
今回の事故は、同省航空・鉄道事故調査委員会の報告書でも、システムの不備や運用の不徹底など複数の要因が指摘された。こうした状況を踏まえ、一審・東京地裁は、個人への刑事責任追及は「相当でない」としていた。
欧米では影響が大きい事故の場合、当事者を免責したうえで真実をすべて語らせ、再発防止に役立てる考え方が主流になりつつある。過度な責任追及は、原因究明に支障をきたす恐れもある。処罰を逃れようと、当事者が真実を語らなくなる可能性があるからだ。この点で、今回の高裁判決は国際的な流れに逆行する形となった。
管制官ら運輸行政に携わる労働者で構成される全運輸労働組合(組合員約9千人)も「再発防止より個人の責任追及を優先する対応は問題」と批判する声明を出した。
管制交信ミスによるトラブルは最近も多発。ほとんどが「聞き間違い」や「誤解」だ。ベテランの事故調査官も「声だけに頼る交信に誤りはつきもの」と言う。国交省も「人間は間違える」ことを前提に、二重三重の安全策の構築に乗り出したところだった。
10月から事故調査委は「運輸安全委員会」となり、海難も扱う総合的な機関として調査力の向上が期待される。同委が当事者から再発防止の核心に迫る証言を引き出すことが必須で、航空関係者には「免責」を含めた検討が必要とする意見もある。
一方で、多くの犠牲者が出たり、過失が明らかだったりした場合には「刑事責任は当然」という意見が強くなる。被害者感情もある。再発防止と刑事責任追及のどちらに重きを置くか、議論を求める声が高まっている。(佐々木学)
読売新聞より「日航機ニアミス事故の控訴審、管制官2人に逆転有罪判決」
静岡県焼津市上空で2001年、日本航空機同士が異常接近(ニアミス)して乗客57人が重軽傷を負った事故で、業務上過失傷害罪に問われた国土交通省東京航空交通管制部の管制官、籾井(もみい)康子(39)、蜂谷(はちたに)秀樹(33)両被告の控訴審判決が11日、東京高裁であった。
須田賢裁判長は「便名を言い間違えるなど、管制官に要求される最も基本的で重要な注意義務に違反し、多数の乗客に傷害を負わせた」と述べ、無罪とした1審・東京地裁判決を破棄し、籾井被告に禁固1年6月、執行猶予3年(求刑・禁固1年6月)、蜂谷被告に禁固1年、執行猶予3年(求刑・禁固1年)の逆転有罪判決を言い渡した。
ニアミス事故で管制官が有罪となったのは初めて。両被告は上告する方針。
判決によると、蜂谷被告は01年1月、焼津市上空を上昇中の日航907便と水平飛行中の同958便が急接近した際、誤って907便に降下を指示し、両機を異常接近させた。監督していた籾井被告も間違いに気付かず、衝突回避のため急降下した907便の乗客57人にけがをさせた。
判決はまず、「2人が958便を降下させる管制指示をしていれば、事故は起こりえなかった」と指摘。管制ミスと事故の因果関係を認め、「極めて危険な管制指示で、刑法上の注意義務に違反することは明らか」と述べた。
1審判決は、管制ミスの後、907便の機長が衝突防止装置(TCAS)に従わずに降下したことなど複数の要因が事故につながった点を考慮し、「管制官の誤った指示が直接の事故原因とはいえない」としたが、この日の判決は「誤った指示が機長の急降下を余儀なくさせた」と認定した。
一方で、判決は「当時の管制システムには、管制官の人為ミスを事故に結びつけないようにする観点から、不備があったことは否めない」と述べた。