円高じゃないだろう、という指摘
FujiSankei Business iより「【日本の未来を考える】東京大・大学院教授 伊藤元重 「貨幣錯覚」に陥るなかれ」
為替レートの動向に注目が集まっている。最近になって1ドル=80円台まで円高が進む中で、経済界などにも円高警戒論が出てきているようだ。
為替レートが経済の実体に及ぼす影響は大きいので、経済界などが円高を気にすることはよく分かるが、いろいろなお話を伺っていると多くの人が「貨幣錯覚」に陥っているように思えてならない。
大学で経済学を教えるときは、名目為替レートと実質為替レートをきちっと区別すべきことを強調する。
円ドルレートで言えば、今の1ドル=89円と1995年のそれとはまったく意味が違うのだ。
この間、日本はデフレなどもあったので物価はほとんど変化していない。
しかし米国では穏やかな物価上昇が続いたので、2008年の消費者物価は95年のおおよそ1・4倍になっている。これだけ物価の動きに乖離(かいり)があれば、為替レートの意味が違ってくる。
2009年の89円という名目でみた円ドルレートを、95年の物価を基準にして同じ実質為替レートになるように調整すると、115円という数字になる。
95年の物価をベースに計算しなおせば、1ドル=115円となり、この状況を円高と呼ぶことはできないだろう。ちなみに95年という年をとりあげたのは、この年に日本が超円高を経験したからだ。この時、名目レートは1ドル=80円をきった。
この95年の80円の円高と(実質レートでみた)同じ状況を今経験するとなれば、それは57円となる。
つまり、現在の物価を前提として過去最高の円高を経験したとすれば、それは1ドル=57円であるのだ。
それに比べればこの原稿の執筆時の1ドル=89円では、過去のピークに比べて50%以上も円安になっている。名目と実質を混同して経済を見ることを、経済学では「貨幣錯覚」(マネー・イリュージョン)と呼ぶ。
貨幣錯覚はしばしば人々の誤った対応を引き起こし、結果として経済に深刻な影響を及ぼすことがある。
そのもっとも有名な事例は1930年代の大恐慌の時代の賃金交渉である。
当時、多くの国では深刻なデフレが生じていて、物価が下がっていった。たとえば物価が2%下がっていれば、賃金が2%下がっても、実質賃金は同じ水準になる。
これが貨幣錯覚のない世界の話だ。しかし現実には、多くの労働者は賃金を1%でも下げられることは自分の損失となると考え、賃金引き下げに大きく抵抗した。この結果、経済全体としても賃金は下がりにくい状態が続いた。
大量の失業が発生しており、物価が下がり続けているにもかかわらず(名目)賃金が下がらなければ何が起こるか明らかだ。
企業から見れば物価に対する賃金がますます割高になっている。
ようするに実質賃金が上がっているのだ。その結果、解雇はさらに進み、企業倒産も増え、新規雇用は生まれない。
失業はさらに増えていった。
物価が下がれば賃金を下げても実質的に賃金は変わらないということを理解できない人々の貨幣錯覚が不況をさらに深刻な状況にしていった。為替レートで貨幣錯覚に陥らないことが肝心だ。「円高」と勘違いして過剰に反応するようなことがあってはならない。(いとう もとしげ)
なるほど、と思う。
日本は、少子高齢化による経済規模の急激な縮小のさなかにあって、今のところ比較的に世界をリード出来る、技術力のある国といったところでしょう。
つまりは、国際的に日本は以前よりは弱くなりつつあります。
この中には、もちろんデフレ的な物価下落、賃金下落もあります。
対する、アメリカ(ドル)は、相変わらずの消費大国であって消費の規模を拡大することが経済成長そのものなのでしょうが、消費するべきものは石油も輸入する国です。
これでは、ドルは下落するのが当然で、ドルでの物価は上昇します。
円安、ドル安といった言葉が「何に対して」を示したり考えたりしないと、よく分からなくなりますが、円・ドル・物の価値で考えると、円もドルも価値が下がっています。
その結果、円高になってもガソリン代が下がらない・・・・・。
財界の一部が「円高放置は問題・・・」のようなことを言っているのは、誤誘導というべきでしょう。
現在注目するべきなのは、円の対ユーロレートなのでは無いでしょうか?
10月 6, 2009 at 09:53 午前 経済 | Permalink | コメント (2) | トラックバック (0)