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2011.03.31

裁判員裁判制度の意味について高裁はどう考えているのか?

読売新聞より「裁判員裁判判決破棄した高裁判決、被告側が上告

東京都葛飾区で2009年9月、アパートに侵入して現金を盗み放火したとして、窃盗や現住建造物等放火罪などに問われた被告(40)の弁護側は30日、放火について無罪とした東京地裁の裁判員裁判の判決を破棄し、審理の差し戻しを命じた29日の東京高裁判決を不服として最高裁に上告した。

同高裁は「前科に関する立証を認めなかった1審の判断は違法」としていた。

(2011年3月30日21時51分 読売新聞)

なんとも地味な記事ですが、元の報道はこちらです。
読売新聞より「裁判員裁判の無罪破棄、初の差し戻し…東京高裁

東京都葛飾区で2009年9月、アパートに侵入して現金を盗み放火したとして窃盗と現住建造物等放火などの罪に問われ、1審・東京地裁の裁判員裁判で放火について無罪となった被告(40)の控訴審判決が29日、東京高裁であった。

飯田喜信裁判長は

「放火の前科に関する立証を認めなかった1審の判断は違法」
と述べ、懲役1年6月(求刑・懲役7年)とした1審判決を破棄し、審理を同地裁に差し戻した。高裁が裁判員裁判の判決を破棄し、差し戻しを命じたのは初めて。被告側は上告を検討する。

検察側は1審で、放火について無罪を主張した被告の11件の放火の前科について、犯罪を証明するための

「特殊な手口の前科」
にあたるとして判決謄本などを証拠請求したが、同地裁は
「特殊な手口とはいえず、裁判員の予断を生む」
として却下した。そのうえで地裁判決は「被告が放火の犯人の可能性は高いが、第三者の犯行の可能性も否定できない」として、無罪を言い渡した。

しかし、この日の判決は

「窃盗で得た現金が少ないことに腹を立て、室内に灯油をまいて放火する前科の手口は、今回と類似性が認められる」
と指摘し、事実認定に必要な前科の立証は裁判員裁判でも認められると判断した。

(2011年3月29日16時47分 読売新聞)

一言で言えば、「地裁の裁判進行そのものが違法だからやり直せ」ということなのですが、なぜ高裁は自判しなかったのだろう?
裁判員裁判を否定するために、差し戻ししたのではないのか?とも思えます。

さらに、被告側が最高裁に上告したものだから、一つの事件について地裁と最高裁で別々に争うことになる。
しかも内容が、判決では無くて裁判の進行の是非になってしまった。

最初の判決は次の通り、読売新聞より「裁判員裁判 窃盗被告、放火は「無罪」 東京地裁「第三者犯行否定できず」

盗み目的で侵入したアパートに放火したとして、現住建造物等放火罪などに問われた被告(40)の裁判員裁判の判決が8日、東京地裁であった。

河合健司裁判長は「第三者が放火に及んだ可能性を否定できない」として放火の事実を認めず、窃盗罪と住居侵入罪について懲役1年6月(求刑・懲役7年)を言い渡した。
事実上の一部無罪判決で、検察側は控訴も視野に対応を検討する方針。

被告は昨年9月8日、東京都葛飾区のアパートの一室に窓ガラスを割って侵入、現金1000円を盗み、室内にあったストーブの灯油を床にまいて放火したなどとして起訴された。

被告は住居侵入と窃盗は認めたが、放火は捜査段階から一貫して否認。
部屋に住む女性が外出したのは同日午前6時30分頃で、出火したのは、それから5時間20分が経過した同日午前11時50分頃。
被告は「午前7時30分から40分頃に侵入し、約10分で立ち去った」と主張していた。

判決はまず、被告が出火前に室内に侵入したことや、ライターを所持していたことなどを踏まえ、

「被告が放火の犯人である可能性はかなり高い」
とした。

しかし、検察側が

「わずかな時間に第三者が放火したとは考えられない」
と主張したのに対し、判決は
「約5時間20分は『わずか』とは言えない。社会常識に照らせば第三者が侵入して放火した可能性を完全には否定できない」
と判断した。

検察側は5日の初公判で、被告に放火の前科があることを指摘しようとしたが、河合裁判長は

「裁判員の予断と偏見を生む」
とした弁護側の異議を認め、有罪・無罪を判断する証拠から除外。

検察側は、情状に関する事情でのみ言及していた。

判決後に記者会見した裁判員経験者の男性は

「本当に正しかったのかという思いはある」
としながらも、
「前科に関する証拠が消え、検察側の立証から核がなくなった印象を受けた。採用されていれば反対の結論になっただろう」
と話した。
判決で
「被告が放火した可能性が高い」
としたことについては
「白か黒ではなく、グレーだと伝えることに何ら問題はないと思う」
と述べた。

大鶴基成・東京地検次席検事の話

「訴訟手続きと判決内容を検討し、上級庁とも協議して対応を決めたい」

◆前科での立証認められず

「厳しすぎる認定だ」。判決を受け、検察幹部らは一様に驚きを隠さなかった。

放火事件では目撃者がいるケースはまれで、火災で証拠が失われる場合も多いため、被告が否認した場合の有罪立証は困難となる。
しかし、今回は被告が放火現場に盗みに入ったことを認めており、「証拠は厚い」との見方が強かっただけに、ある検察幹部は

「犯人と100%断定できない事件では、自白がないと有罪が得られないのか」
と険しい表情を浮かべた。

被告には過去に同様の手口での放火の前科があった。前科による犯罪の立証は、

「特殊な手口による前科」の場合には例外的に許される
とされており、検察側は公判前整理手続きで、被告人質問の中で前科に言及する方針を示していた。

しかし、公判で裁判長は

「特殊な手口ではなく、前科の言及は許されない」
としたことから、検察側は
「公判前整理手続きの段階では被告人質問での立証は制限されておらず、違法な訴訟手続きだ」
と強く反発している。

読売新聞より「放火「無罪」 検察控訴へ 裁判員裁判2例目 「事実認定に誤り」

盗み目的で侵入したアパートに放火したとして、現住建造物等放火罪などに問われた被告(40)について、同罪の成立を認めず、窃盗と住居侵入罪で懲役1年6月(求刑・懲役7年)とした東京地裁の裁判員裁判の判決について、東京地検は16日、

「事実認定に誤りがある上、訴訟手続きに法令違反があった」
として、東京高裁に控訴する方針を固めた。
週明けに上級庁と協議し、最終的に判断する。裁判員裁判で、検察側による控訴は2例目となる。

被告は昨年9月、東京都葛飾区のアパートに侵入して現金1000円を盗み、灯油を床にまいて放火したなどとして起訴された。8日の判決は、被告が「放火の犯人である可能性はかなり高い」としながらも、「第三者が侵入して放火した可能性を否定できない」とした。

検察側は公判で、同様の手口による放火の前科があることを示そうとしたが、同地裁は「裁判員の予断を生む」として認めなかった。

東京地検は
  1. 〈1〉第三者が侵入した形跡はなく、侵入の可能性があるとした認定は誤り
  2. 〈2〉放火の間接証拠である前科を証拠から排除したのは法令違反
とした。

このような経過で、今回高裁が差し戻しの判決を出し、被告が上告しました。
落合洋司弁護士は「[刑事事件]’11裁判員:「無罪」を破棄、差し戻し 東京高裁「訴訟手続きに誤り」 10:51」で次のように意見を述べています。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110330ddm041040034000c.html

飯田裁判長は「起訴内容と被告の前科10件は、放火の手段方法に特徴的な類似性がある」と指摘。検察側が証拠請求した前科事件の判決書や供述調書の一部を起訴内容と関連する証拠と認め、「地裁が公判前整理手続きで証拠採用しなかったのは違法」とした。

被告は09年、東京都内のアパートで現金を盗み、室内に放火したとして起訴された。放火の直接証拠はなく、1審は「第三者による放火の可能性を否定できない」とし、放火罪成立を認めず懲役1年6月を言い渡した。

この件については、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20100707#1278433207

とコメントしたことがありますが、問題は、例外として前科による立証が許容されるほどの、犯行手口に特殊性があるかどうかでしょうね。

記事で、高裁は「起訴内容と被告の前科10件は、放火の手段方法に特徴的な類似性がある」と指摘、とありますが、前科に特徴的な類似性があっても、それ自体に特殊性がなければ、そういった手段方法で犯行に及ぶ人は他にも存在する蓋然性が高く、そういった証拠を事実認定の資料にすることは、裁判所の判断を誤らせることにつながりかねません。特に、判断するのが裁判員であればなおさらでしょう。

裁判員制度下で、差戻審が行われるることになれば、初めてのケースということですが、既に取調べられている証拠を、どのようにして新たな裁判員に理解してもらうのか、審理の進め方をどうするのかなど、手続面でも今後について興味を感じます。

前科を証拠とすることに、制限があるのは当然だと思いますが、裁判員裁判だから最初から証拠採用しないというのはどうかなと思います。
裁判員は証拠採用には関わらないからということなのでしょうか?

もし、前科を証拠採用する特殊性がないとして、証拠採用しなかった場合、高裁はどのような判決を出したのでしょうか?
やはり、差し戻しではなくて自判するべきだったではないか?

非常に興味深い裁判になってきました。

3月 31, 2011 at 09:39 午前 裁判員裁判 |

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