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2010.02.27

学校だけではない

apj さんが取り上げていました。
読売新聞より「【学力考 いわての危機・上】社員に「引き算」研修」

小学3年生用の計算ドリルや高学年用の漢字ドリル。
これらの教材を、携帯電話などの関連部品を作る沿岸部のある企業では、新人研修で使っている。

もう10年になる。「かけ算九九さえ満足にできない若者がいる」との悲鳴が以前から現場で上がっていたからだ。

「102―69=941」、「107―48=152」。
研修の場で、小学校レベルの引き算ができない高卒の新入社員を見て、社長(63)は、あぜんとした。

研修では、できない社員に対し、上司が付きっきりでマスターするまで指導している。
この社長は「学校は何をしていたのか。そう思わずにいられない」と、深いため息をつく。

「ゆとり教育」導入以後、全国的な問題となった子どもの学力低下。だが、本県の現状はとりわけ厳しい。

文部科学省が昨年4月に全国の中学生に実施した学力テストで、中3は、数学Aが全国ワースト3、Bが同4位となるなど国数2教科4科目中、国語A以外で全国平均を下回った。数学Aは2007年の全国学力テスト復活後、3年連続でワースト3に低迷する。

高校生はさらに深刻だ。

17日、花巻市内で県内小中高の教諭らが集まって開かれた県教育研究発表会で、昨春実施の大学入試センター試験の平均点が主要13科目中9科目で最下位かワースト2という結果が示された。

加えて、同じ場で、県教委の佐々木修一教育次長は、昨春卒業した東北6県の高校生の高校3年間の全国模試について、英数国3教科合計の平均偏差値がどう推移したか、民間業者が作った県別のデータを紹介した。

1年生の7月時点で、本県は47・1で最下位。5位の県とは1・7ポイントの開きがある。その後一時回復するが2年生の2月から下降し始め、卒業近い3年生の11月時点では45・5。

東北トップの県でも49・3で平均を下回っているが、トップから5位(48・1)まで1・2ポイント差でひしめき合っているのに、5位と本県との差は2・6ポイントもあった。

偏差値は、1ポイント違うと合格が見込める大学の難易度が一段違ってくるとも言われている。2・6ポイントの開きは、あまりにも大きい。

東北の残る5県からも引き離されている岩手の高校生の学力について、ある高校教諭は「『みちのく一人旅』だ」と自嘲(じちょう)気味に話す。

他方、小6は、昨年4月の全国学力テストで、算数、国語の2教科4科目とも全国平均を上回り、国語Aが全国12位、Bが同9位といずれも上位だ。本県の学力低迷は、中学から始まっている。

佐々木次長は「基礎学力は進学だけでなく、生きていくのに必要なもの。まず、中学の学力を何とかしないといけない」と、焦燥感をあらわにする。

岩手の子どもの学力が危機的な状況になっている。現状と課題を問う。
(2010年2月20日 読売新聞)

読売新聞より「【学力考 いわての危機 中】数学の理解 中3最低

54・4%――。

アンケートで県内の中学3年生が「数学の授業を理解している」と答えた割合だ。
昨年4月の全国学力テストの一環で実施され、全国平均は64・9%だった。

開きは10ポイントを超す。2007年の全国学力テスト復活以来、本県の中学生は、数学の授業が「わかる」あるいは「どちらかというとわかる」と肯定的に回答した割合が3年連続で全国最低だった。
中学3年生のほぼ半分が、よくわからないまま数学の授業に臨んでいる。

このデータは、現場の数学教諭にも衝撃的だった。盛岡市立上田中の佃拓生教諭(40)は、07年秋、全国学力テストの結果が出るのを心待ちにしていた。
手応えを感じていたからだ。だが、数学A、Bとも最下位クラスという順位に加え、理解度を尋ねるアンケートも最下位。佃教諭はがく然とした。

全国学力テストの結果を分析すると、正答率が低いグループと高いグループで、四則計算や文字式など小学校や中学1年で学習する基礎、基本を問う問題の正答率に大きな開きがあることがわかった。

そこで、佃教諭は、授業で、分数の割り算なら正解の出し方だけでなく、分数の仕組みも丁寧に説明するようにした。50分の授業中、10分は基礎の確認に充てる。そうすると今度は、授業時間が足りない。佃教諭は、「数学の授業時間は10年前より年に35時間減った。中学でやるべき数学の授業をなかなか進められない」ともどかしそうに話す。

県教委も、中学1年生でのつまずきをなくそうと、08年度、小学6年生と中学1年生向けに「中学校数学準備問題」という問題集を作った。昨年4月末時点の調査では、76%の小中学校が利用し、今後使いたいという回答は9割近かった。

また、小学校から、子どもたちに自分で知る喜びを知ってもらうため、積極的に辞書を活用し始めたところもある。陸前高田市立長部小は、昨年4月から、全児童95人に国語辞典を配り、全教科の授業中、わからない言葉を調べてもらうようにした。同校は読書も呼びかける。

授業内容の理解が進まない原因を県教委は、どうみているのか。

佐々木修一教育次長は、「前回習ったことと、その日学んだことの確認は基本中の基本。
だが、恥ずかしながら、できていない場合が多い」と授業の進め方に問題があると率直に認める。
(2010年2月23日 読売新聞)

読売新聞より「【学力考 いわての危機】〈下〉家では「ながら勉強」

大船渡市に住む中学1年生のタカシ君(12)(仮名)は、学校が休みの土曜夜、自宅の勉強部屋にあるこたつでノートを広げた。兄(15)の勉強机もあるが、テレビが目の前のこたつが指定席だ。

テレビからは、お笑いタレントの大きな声が響き、机の上には読みかけの漫画本。視線はテレビとノートを行ったり来たりする。1日約30分勉強するというタカシ君は「いつもこんな感じ」と屈託ない。家族からとがめられることもあまりないという。

「ながら勉強」が、ごく普通になっている。昨年8月に全国学力テストに併せて実施された学習状況のアンケートで裏付けられた。「テレビを見ながら家庭学習をしていた」と答えたのは、「ときどき」も含め、県内の小学6年生で76・9%に上る。高校受験を控えた中学3年生でさえ、半数を超す57・4%だった。

家庭学習の時間も短い。中学3年生の1日あたりの家庭学習時間(平日)は、「1時間未満」の合計が、ほぼ2人に1人の46・9%で、全国平均の34・6%を大きく上回る。県内の小学6年生が34・3%にとどまるということは、中学に入ると家庭学習がおろそかになる子どもが100人のうち12人も増える計算だ。

では、質はどうか。

「自主ノート」や「自学ノート」と呼ばれる手法が、家庭学習で中心的な役割を果たしてきた。教諭は「2ページ分」などと分量を指示する程度で、科目や内容は原則自由だ。
自主的な勉強習慣を身につけさせようと20年ほど前から広がり始め、教科担任が課題を指定する宿題に取って代わった。

ところが、県南部の中学校の数学教諭(45)は「自主ノートで数学をやってくる生徒は、ほとんどいません」と明かす。
ノートに同じ漢字の書き取りを繰り返すだけ、という生徒も少なくないという。

実際、県立総合教育センターが昨年11月に実施した調査では、県内中学の教科担任の63・6%が、自主ノートの学習効果に疑問を感じていた。

こうした現状から、県教委は、宿題に再び目を向け始めている。北上市立和賀東中では09年度から各教科できめ細かに宿題を出し、生徒の取り組みを4段階で評価している。すると、授業で積極的に質問する生徒が増えてきたという。

8年前に全国で本格導入された「ゆとり教育」の目的の一つも、自主性を育むことだった。しかし、学習塾「M進」盛岡本校の高橋栄一講師(35)は、「最近の生徒は、自分から学ぶ姿勢に乏しい」と分析する。

「自主」や「ゆとり」という言葉は耳には心地良く響く。
でも、その裏側で、見落としてきたものはなかったか。
基礎学力の低迷という厳しい現実は、学校と家庭に自らを見つめ直すよう迫っている。

(この連載は、中島幸平、吉田拓矢、工藤武人が担当しました)
(2010年2月24日 読売新聞)

小説や雑誌の特集記事などストーリーのある内容は、興味のある人にとってはかなり長文であっても面白く読むことが出来ます。

これに対して、国語辞典を最初から読むことが楽しいという人はほとんどいないでしょう。
しかし、国語辞典も百科事典も有益です。

教育がやってしまったのは、小説を読むのを後回しにして、国語辞典を読ませているようなモノではないのか?

その結果として、

面白くない → 教育の効果がない → 小説が読めない
となったのだとすると、なんとなく実感できます。

新聞記事ではゆとり教育の問題だと匂わせていますが、わたしにはゆとり教育は問題の一部であって、日本全体が「合理化こそ正義」と推し進めてきたことが原因でないかと強く思っています。

無駄だからいらないと、二次方程式の解の公式を教育から追放しようとしたのは、作家の曾野綾子氏です。

自分が使わなかったから、世界にとって不要である、というのはその逆の「効果があるから有用である」という代替医療の促進と同じような事で、いわゆる「トンデモ」に属する話しでしょうが、曾野綾子発言ぐらいから急速に「教育の合理化」が進んだように感じています。

それがピークに達して、世間から反発を食らったのが「円周率を3と教えて良い」でしょう。

曾野綾子氏が将来の日本国民をバカにするためにあえて発言したとは思いませんが、結果は二次方程式の解けない国民を量産したことは確実でしょう。

つまり、教育から無駄を省いてより洗練しようとする「合理化」そのものが、全体の質を低下させたのです。

これは、別に教育に特有の問題ではないですよ。
わたしが繰り返し指摘している派遣労働問題も同列です。

その時点での合理性は、全体の合理性とイコールではない、というのは生産管理などでは繰り返し注意されている点です。

派遣労働では「能力のある労働者を必要とする職場に機能的に配置する」が基本的な概念でしょう。問題は「能力のある労働者」を作っていたのも「職場」であることを忘れていることでした。

教育では「この程度のことはわざわざ教えなくても良かろう」というのから省いたのでしょう。
その結果、引き算ができない社会人が出来た。

わたしは、NPOの活動でもの作り教室の講師をやっています。
作らせているのは、主にイーケイジャパン製のスクローラー2です(動画)
極めて簡単な組立キットですが、電線をよじる、配線を正しく回す、ネジをドライバーで締める
といったことが6年生でもやったことがない子が大勢います。

単3電池を使うのですが、電池ボックスに電池を入れるのは、ご承知の通りけっこう力が必要です。
6年生は、電池を入れることは知っていても実際に交換したことがないから、力が必要な事にビックリするわけです。
こういう経験は「電池を入れます」と教えても知ることは出来ません。

子どもに限らず、人はそういう経験や苦労で覚えることも沢山あるから、教育ではそういう部分は合理化できないでしょう。

つまり、小説は楽しく読めるけど、国語辞典を楽しく読むことはできない。という当たり前のことを無視して「言葉を覚えるのなら国語辞典一冊で勉強できる」とやってきたのが、今の教育問題だと思うのです。

無駄の効用と、無駄の評価、といったことを真剣に考えないといけないですね。

2月 27, 2010 at 04:59 午後 教育問題各種 | | コメント (3) | トラックバック (0)

雑誌記事について第三者委員会を作ることになった

「NBL編集倫理に関する第三者委員会設置のお知らせ」(PDF)なる告示がありました。

NBLは法律関係専門の出版社、商事法務が発行している隔週間誌です。

この「告示」めぐって、わたしが読んでいる範囲で「ボ2ネタ [ボ2] 」、「落合弁護士のブログ」、「町村先生のブログ」で、一斉に取り上げられました。

Matimulog より「NBL第三者調査委員会発足

ボ2ネタコメント欄でも、落合ブログでも取り上げられており、また別の編集者からもビックリニュースとしてメールで教えてもらったものだが、NBL編集部名義の記事に以下のような問題があったということである。

①その内容が他誌の判例コメントの内容と著しく類似していること ②その内容は、編集部によって書かれたものとしては、不自然に当該訴訟の一方当事者の立場に偏りすぎている

この件については第三者の調査委員会が発足したということだ。

興味深いのは、編集部名義の記事が偏っていたということよりも、他誌の判例コメント内容と著しく類似している記事が、当該訴訟の一方当事者の立場に偏っていたということである。

漏れ聞こえるところでは、判例コメントは多くの場合、担当裁判官自身が書く、あるいは最高裁なら調査官が書く、担当裁判官自身ではなくとも別の裁判官が書く、というもののようである。

しかし、この問題から推測されるのは、訴訟の一方当事者(代理人)が書くということもあり得るということであろうか。

このことは、もし一般化できるとなると、時折見られる判決批判的なコメントの執筆者が誰か、推測できそうな気がするし、ほとんど理由を示さず「妥当であろう」とか「異論のないところと思われる」というコメントも担当裁判官自身ではなく勝訴した側の代理人という可能性もあるわけだ。

匿名コメントなんてのは、その程度の信憑性だと理解していればよいのだが、時折、判例評釈なんぞより判決のコメントが役に立つという人がいたり、また院生の判例評釈の練習で判例コメントに引用された判決をわけも分からず評釈の中に引用して支離滅裂なことになっている時があったり、とにかく判決雑誌の判例コメントは盲信される傾向があるのだ。

そう言う人に1つの警告となるような、徹底的な調査を望みたい。

ほ~、そういうことなのかと、「NBL編集倫理に関する第三者委員会設置のお知らせ」(PDF)を読んでみました。

平成22年2月23日

各 位

株式会社商事法務 代表取締役 大林 譲
NBL編集倫理に関する第三者委員会設置のお知らせ
当社は、平成 22 年2月23日付けで、下記のとおり第三者委員会を設置致しましたので、お知らせ致します。 記

1.第三者委員会設置までの経緯

当社が発行する法律雑誌「NBL」2010年1月1日号に掲載された編集部名義の「東証売買システムの不備によるみずほ証券の取消注文の不処理をめぐる損害賠償請求訴訟の検討」という題名の記事(以下「本件記事」といいます)について、①その内容が他誌の判例コメントの内容と著しく類似していること、及び②その内容は、編集部によって書かれたものとしては、不自然に当該訴訟の一方当事者の立場に偏りすぎていると思われたことから、当社は社内調査を実施致しました。 その結果、本件記事は、編集部名義となっているものの、実際には、当該訴訟の一方当事者の関係者が執筆していたことが判明致しました。 当社は、かかる事態を重大なものと受け止め、本件記事の掲載に至る経緯や原因、当社における責任の所在等を明らかにすべく、外部の専門家・有識者から構成される第三者委員会の設置を決定したものであります。 なお、第三者委員会からは、当社からの調査依頼の受諾にあたり、①調査報告書の起案権・編集権は第三者委員会にあること、②調査報告書は外部に公表すること、③第三者委員会の調査に当社は全面的に協力すること、を条件としたい旨の確認依頼があり、当社はこれらの事項について確認のうえ、第三者委員会に下記の調査事項をお願いするものであります。

2.第三者委員会の委員

  • 委員長 久保利英明(弁護士・大宮法科大学院大学教授)
  • 委 員 堀部政男(一橋大学名誉教授(情報法・メディア法))
  • 委 員 田中早苗(弁護士・マスコミ倫理懇談会「メディアと法」研究会アドバイザー)
  • 調査事務局長 野宮 拓(弁護士)

3.調査事項

  • (1) 本件記事の掲載に至る経緯・原因等の事実解明
  • (2) 本件記事の掲載に関する当社の責任
  • (3) 再発防止策の提言

4.第三者委員会の名称

第三者委員会の名称は、「NBL編集倫理に関する第三者委員会」に致しました。

5.報告スケジュール

第三者委員会からは1ヶ月程度を目途に調査報告書を提出・公表する見込みである旨の報告を受けております。
以上

ということでありました。

落合洋司弁護士は「[不祥事]NBL編集倫理に関する第三者委員会設置のお知らせ」でこのようなお考えを述べています。

http://www.shojihomu.co.jp/oshirase/20100223.pdf

ボ2ネタのコメント欄経由で知りました。

NBLの問題記事を読んでいないので、どういう内容であったかはわかりませんが、この「お知らせ」を見る限り

1 当該事件について、訴訟の一方当事者の関係者が記事を執筆し、その内容が不自然に当該訴訟の一方当事者の立場に偏りすぎていると思われるものであった
2 それにもかかわらず、「編集部」名義の記事になっていた
3 しかも、他誌の判例コメントの内容と著しく類似していた

という問題になっているようです。

特に問題なのは、おそらく1及び2で、偏った内容を「編集部」名義の記事として発表することで、あたかも中立、公平な立場からの見解のように偽装しつつ流布しようとしたと解する余地もあって、今後の調査結果如何によっては、NBLという雑誌の信頼性を大きく揺るがしかねないでしょう。

【後略】

この部分で「ハッ!」と思ったのです。

NBLは型式としては雑誌です。
例えば、問題になっている2010年1月1日号の目次がサイトに載っていますが、多くが署名記事です。その中に編集部名義の記事もある、という構造です。

もちろん「編集部名義では匿名だから信用できない」という乱暴な意見も可能ですが、それ言うのなら署名が偽名ではないのか?とかペンネームはどうなのだ?という議論にも展開するでしょう。

結局、商事法務は第三者委員会を設置するほどの深刻に受け止めているのでしょうが、なぜ信用ならない記事が紛れ込んだのか?と言えば、NBL(雑誌)自体に信用があるとするから、信用ならない記事も一旦発行されることになると、そのまま通過してしまった。
ということですね。

蟻の一穴とでも言うのでしょうか?強固な仕組みでも、どこか1ヵ所を突破されると全滅する、ということの代表例でしょう。

この「1ヵ所が壊れると」という問題に取り組んで出来たのが、インターネットであり、ネットワーク時代と言えます。

つまりは、雑誌を編集して発行するというモデル自体に、信用のならない情報が信用ありとされる危険性をはらんでいて、そのために堅固なダムを造るほど、決壊したときの被害大きい、と理解するべきでしょう。

2月 27, 2010 at 12:47 午後 事故と社会 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010.02.26

「政治主導」の電子書籍対応

朝日新聞より「電子書籍ビジネスの研究会設置へ 総務・文科・経産省

総務省と文部科学省、経済産業省は25日、電子書籍ビジネスを国内で普及させるための環境整備に向けた研究会を、3月中にも立ち上げる方針を決めた。

出版や通信、書店、新聞など関係業界の代表が参加し、普及のカギになる規格統一や著作権保護、流通のあり方などでの合意づくりを目指す。

研究会の仮称は「電子書籍ビジネス環境整備研究会」。

内藤正光総務副大臣、中川正春文部科学副大臣、近藤洋介経済産業政務官が推進役になり、書籍のデジタル化の制度設計などを政治主導で推し進めたいと考えている。
座長には学識経験者を迎える予定。

米国ではアマゾンの「キンドル」など電子書籍端末が人気を集めており、日本語版の発売も見込まれている。

25日に決めたって、2010年2月25日のことですよね(藁)

電子ブックは、日本ではけっこう以前からやっていて、松下のシグマブックなどハードウェアも発売されました。
しかしビジネスとして成功しなかった。

アマゾンが、キンデルで成功して日本にも上陸することになったから、慌てて「政府主導で」というのは分からないでもない。 なにしろ「業界主導」で放置していたら何回やっても失敗だったのだから。

しかし、これでは「泥縄」とか「黒船来航」としか言いようがないでしょう。
こんな「目と鼻の先にある目標」にすら対処が出来ない国になってしまったということなのでしょうか?

トヨタ問題にしても、ハーグ条約問題にしても「視野を広くして考えないと無理」としか言いようがありませんが、どうも国内のそれも現在にしか目を向けないですね。

少子高齢化で実際に人口減に転じているのですから、政策目標の基本から「成長」を外さざるを得ません。
良くて「静止」です。つまり、どこかが成長すれば、どこか縮小するということを政策の基本におかないと、長期戦略なんて描けません。
それを避けるために「ただ今現在」しか見ない政治。

こんな背景があるから、電子書籍対応も泥縄になるのでしょう。

2月 26, 2010 at 11:24 午前 国内の政治・行政・司法 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010.02.25

警察のやることが頼りない

読売新聞より「万引き誤認逮捕…目撃証言を過信、裏付け怠る

警視庁西新井署が今年1月、40歳代の女性を誤認逮捕した万引き事件。

警察は目撃証言を根拠に十分な裏付けを取らないまま逮捕状を請求し、裁判所も逮捕状を発付していた。

これまでの万引き事件の誤認逮捕は、現行犯などが大半で、捜査に1か月を費やした末に別人の身柄を拘束した今回のようなケースは異例だ。

同庁は全署に対し、「裏付け捜査の徹底」を指導する。

◆警備員証言

事件は、昨年12月20日午後7時20分頃、足立区の東武伊勢崎線・西新井駅前のスーパーで起きた。この日は日曜日で、売り場は師走の買い物客で混雑していた。万引きされたのは、アイロンなど15点(約3万2000円相当)。
犯行の一部始終を警備員が目撃していた。

警視庁幹部によると、警備員は西新井署員に対し、「品物を入れた手提げバッグを持って自転車で立ち去ろうとした女を呼び止めたら、女はバッグと自転車を置いて逃げた」と証言。

さらに、誤認逮捕することになる40歳代の女性を「犯人」と名指しした。

この女性はこのスーパーにたびたび来店していた。当日の防犯カメラの映像で確認を求めると、警備員は「間違いない」と強調したという。

同署はこの目撃証言を重視。

40歳代の女性に当日の明確なアリバイが確認できなかったため、犯人との見方を強めた。

さらに、自転車の所有者だった同区内の女(39)の夫から、「妻は自転車を盗まれたと言っていた」と説明されたことで、心証を固めてしまう。

この時、同署は、この女について調べることも、自転車の盗難届の有無を確認することもしていない。

◆逮捕状

同署が、警備員の証言と防犯カメラの映像を根拠に、窃盗容疑で40歳代の女性の逮捕状を請求したのは今年1月22日。
同日、東京簡裁が逮捕状を発付した。

その後、女性は同26日に通常逮捕されたが、一貫して否認した。

このため、同署で自転車の持ち主の女を捜査した結果、逮捕した女性と髪形や体形、顔つきが酷似していることが判明。

同署は誤認逮捕の可能性があるとして、翌27日に女性を釈放。

その後の捜査で、自転車の持ち主の女が容疑を認めたことから、今月23日に逮捕した。

今回の誤認逮捕について、警視庁の複数の幹部は「犯人は逃走していたため逮捕は必要と判断したが、裏付け捜査が甘すぎた」と反省する。

元検事の若狭勝弁護士も「自転車の持ち主を少なくとも1回調べるという基本に忠実な捜査をしていれば防げたはず」と指摘する。

一方、東京簡裁を管轄する東京地裁は「個々の裁判官の判断にかかわることなのでコメントできない」(総務課)としている。ただ、あるベテラン裁判官は「あくまで書面による審査なので、根拠となる証言内容などにおかしな点がなければ、逮捕状を出すことになる」としたうえで、「人違いはあってはならない。一層注意深く書類を見るしかない」と話した。

◆誤認逮捕後絶たず◆

警察庁によると、昨年1年間に全国の警察に届けられた万引きは前年より4463件増の14万9892件。摘発件数も2816件増の10万8802件に上った。
一方で、店の従業員の目撃証言を過信し、誤認逮捕するケースは後を絶たない。

昨年3月、警視庁大崎署が当時高校1年生の男子生徒を万引きで誤認逮捕した際も、被害にあったコンビニ店の店員の証言をうのみにしたのが原因だった。

同署は少年を現行犯逮捕したが、店内の防犯ビデオを分析した結果、万引きしたのは別の少年だったことがわかり、約1時間半後に釈放した。
(2010年2月25日14時41分 読売新聞)

非常に注目するのは、物的証拠の自転車より警備員の証言、容疑者の夫の証言を優先しているところですね。

40代の女性が自転車盗んで、その自転車で年中行っているスーパーにあらわれて万引きする。
なんて状況は小説にだって書けませんよ。

全体を考えないで、入ってきた情報に振り回されていた、ということでしょう。
警視庁でもこんな頼りない判断力で「捜査」しているというの大問題ではないのか?

その一方で、犯罪の広域化とか高度化という現実もあるのだから、地域警察と競争させる意味でも、日本版FBIを作るべきではないだろうか?

2月 25, 2010 at 05:13 午後 事件と裁判 | | コメント (0) | トラックバック (0)

検察官の取り調べに対して、国家賠償を認めた判決

小倉秀夫弁護士のブログ la_causette の記事「自分が覚えなくても,やったかもしれないって言ったら丸く終わるやん。」これは以前から気にしていた事件です。

平成19年(2007年)9月28日に、原告の少年を含む4人が京都のコンビニで万引きして、止めようとした店員に暴力をふるった事件が発端です。

読売新聞 2007.10.01 の記事「コンビニで強盗致傷 五条署、4容疑者逮捕=京都

五条署は30日、岐阜市、土木作業員派遣業(24)、同市、会社員(22)、岐阜県関市、無職(22)の3容疑者と岐阜市内の土木作業員の少年(19)の計4人を強盗致傷容疑などで逮捕したと発表した。

調べでは、容疑者らは共謀。
29日午前5時45分ごろ、中京区のコンビニエンスストアで、おにぎりなど7点(計1887円)を盗み、呼び止めた店員(24)に殴りかかった。
止めようとしたほかの店員2人にも暴行、3人に1週間のけがを負わせた疑い。

成人の刑事事件は、検察捜査 → 起訴 → 地裁 → 高裁 → 最高裁と進んでいきますが、少年の場合は検察捜査 → 家裁 → 処分であって、外見上は控訴がありません。
実際には、家裁の判断が刑事処分が必要であるとなる、検察に戻されて再度捜査が始まりますから、家裁だから問題だということでありません。

家裁も裁判所ですから、検察の手を離れることは明らかです。

また、家裁が普通の裁判ではないので、やり直しが利かない(上訴がない)ところが問題で、紹介する事件とは別にやはり成人と少年がそれぞれ通常の裁判と家庭裁判所に分かれて、審判があり。
成人は長年闘って、無罪が確定したのに、少年は家庭裁判所の決定が変わらない、という事件がありました。

読売新聞 2008.06.17 の記事「「検事が自白強要」元少年らが提訴 国に賠償求め/京都地裁

逮捕されて京都地検検事の取り調べを受けた際、自白を強要されるなどしたとして、当時少年だった男性(20)と弁護人を務めた京都弁護士会の谷山智光弁護士(32)が16日、国に660万円の損害賠償を求め、京都地裁に提訴した。

京都弁護士会の弁護士61人も「脅迫的な取り調べをなくしたい」と、原告側代理人として参加した。

訴状によると、男性は昨年9月、京都市内で、友人3人とコンビニ店員の顔などを殴ったとして、京都府警に傷害容疑で逮捕、強盗致傷容疑で送検された。

男性は容疑を否認したが、担当検事は机をけって「お前らは腐っている」と罵声(ばせい)を浴びせ、別の検事は「あんな弁護士が付いて運が悪いな。やったかもしれないと言えば丸く収まる」と虚偽の供述を迫ったという。男性は同11月の少年審判で、傷害の非行事実により保護観察処分になった。

大仲土和・京都地検次席検事の話「原告が主張するような事実はなかったと認識している」

この裁判に判決について、小倉秀夫弁護士が記事を書かれていたので、判例検索で判決文を引っ張って来ました

結構長いのですが、弁護士も頑張ったことよく分かるものです。
リンクはPDFで、しかも判決文そのものですから、改行が少ないとか、前の記述を文節を示す記号で示したりしているので、可能な限り html 化してみました。

本文は章番号も書き換えていないので、間違えないと思いますが、リンクは間違っていることがあるかもしれません。
また、PDFにはあらわれないインデントになっているのも、html 化によるものです。
赤文字・青文字・太文字といった変更もしています。

判決文を読んで興味深いのは、4人ですから「共謀して」となるわけですが、20代前半ぐらいだとなんとなくつるんでいる、といったノリなので「共謀して」ということ自体が、証拠上明らかになりにくい。
店員を負傷させていますから、傷害罪であり、万引きですから窃盗で、止められているから強盗である可能性があります。
そこに共謀が出て来るわけですが、コンビニの商品(おにぎりなど)を4人で一斉に万引きする、というのはなかなか無いことでしょう。
そうなると「万引きを共謀した」という証明も意外と難しい。

結局、

成人であって本件事件の端緒を作ったEが起訴猶予,
成人であるFとGが,とりわけFは原告Aよりも激しい暴行を振るったことが明らかであったのに,いずれも傷害罪で起訴,
少年である原告Aが強盗致傷罪で家裁送致
ということなりました。

ここで、先に書いた「家庭裁判所一度だけで検察逆送もあるから、より重い罪であるとして家裁に送付したのではないのか?」と問題になったわけです。
同時に、弁護士を「信用するな」と検事が言っちゃダメでしょう。

さらに、驚嘆したのは、防犯ビデオの扱いです。
最終的には、行方不明のようです。
そのために、今回の民事裁判で検察側(被告側)は「暴行しているビデを見せた」と主張し、弁護士側(原告側)は「ビデオを見せられたが、暴行しているところは確認出来なかった」供述しているのです。
つまり決定的な証拠が行方不明のままで、「言った言わない」という争いを検察官がやっている。

何とも粗雑な検察捜査だな、というのが印象でありました。

PS しかし、判決文の html 化は面白いけど、美しくは出来ない・・・・・。

以下、判決文です。


事件番号:平成20年(ワ)第1839号
事件名:慰謝料等請求事件
裁判年月日:H21.9.29
裁判所名:京都地方裁判所
:第1民事部
結果:一部認容

判示事項の要旨:

被疑者として逮捕勾留中の少年を取り調べた検察官の言動の中に,少年の尊厳や品位を傷つける言動,虚偽自白を誘発しかねない言動,及び少年と弁護人との間の信頼関係をみだりに破壊しようとする言動があり,違法であるとして,少年及び弁護人の国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求が一部認容された事例

主        文

  1. 1 被告は,原告Aに対し,金44万円及びこれに対する平成19年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 2 被告は,原告Bに対し,金22万円及びこれに対する平成19年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 3 原告らの被告に対するその余の各請求をいずれも棄却する。
  4. 4 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者が求めた裁判

    1 原告ら(請求の趣旨)

    1. (1) 被告は,原告Aに対し,金330万円及びこれに対する平成19年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
    2. (2) 被告は,原告Bに対し,金330万円及びこれに対する平成19年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
    3. (3) 訴訟費用は被告の負担とする。
    4. (4) 仮執行宣言

    2 被告(請求の趣旨に対する答弁)

    1. (1) 原告らの被告に対する各請求をいずれも棄却する。
    2. (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
    3. (3) 仮執行宣言を付する場合には,執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過した時とし,担保を条件とする仮執行免脱宣言

第2 事案の概要

    本件は,被疑者として逮捕勾留された原告A(当時19歳)が,①検察官が原告Aに対し,威嚇,侮辱及び脅迫を伴う取調べをしたこと,②検察官が取調べの場において原告Aに対し,原告Aと弁護人との信頼関係を破壊する言動をしたこと,③検察官が,原告Aについて,客観的には嫌疑がないのに,報復を目的として重い罪名で家裁送致したことが違法である等として,原告Aの弁護人であった原告Bが,検察官の上記②③の各行為は弁護人の弁護権を侵害する行為であって違法であるとして,それぞれ被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,各損害(原告Aについては,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円,原告Bについては,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円)及びこれらに対する最後の不法行為の日(家裁送致日)である平成19年10月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。なお,以下の文中の日付は,特に断らない限り,平成19年である。

    基礎となる事実(争いのない事実並びに各項末尾記載の証拠等によって容易に認定することのできる事実)

      (1) 当事者等

        原告A(昭和62年12月30日生)は,平成19年9月当時,岐阜市内で居住し,土木作業員として稼働していた。保護観察処分を受けた前歴はあるが,逮捕勾留された経験はなかった。〔乙91,原告A本人(38頁)〕
        原告Bは,平成18年10月に第59期司法修習を修了し,弁護士登録をした京都弁護士会所属の弁護士である。
        C検事及びD検事は,いずれも検事であり,平成19年9月及び10月当時,京都地方検察庁に配属されていた。

      (2) 本件事件の発生

        平成19年9月28日夜,原告Aは,知人ないし友人であったE(24歳),F(22歳),G(22歳)及びHと連れ立って自動車で岐阜市内を出発し,翌29日午前零時ないし午前1時ころ,京都市a区内の京阪b駅付近に到着し,駐車場に自動車を駐車させて,京都市内の著名な歓楽街であるいわゆるc付近で遊興した後,上記駐車場に戻ろうとした。
        同日午前5時40分ころ,原告A,E,F及びG(以下「原告Aら4名」という。)が京都市d区e町f地所在のコンビニエンスストアL(以下「本件店舗」という。)前に差し掛かった。
        原告Aら4名は,順次本件店舗に入店した。
        数分後,原告Aら4名は,何も購入することなく本件店舗から出たが,その際,Eは,本件店舗から,調理麺,おにぎり等7点を,レジを通すことなく持ち出し,万引きした。
        Eの万引きに気付いた本件店舗の店員被害者Iは,原告Aら4名を追いかけ,声をかけた。
        その後,被害者Iは,本件店舗前路上で,F,G及び原告Aから,こもごも,胸ぐらを掴まれ,顔面を殴打され,身体を足蹴りされる等の暴行を受け,さらに,これを制止しようとした本件店舗の店員被害者J及び同Kも同様に暴行を受けた。(乙11ないし13)
        これらの暴行により,被害者Iは,加療約1週間を要する頭部顔面打撲等の,同Jは,加療約1週間を要する左顔面打撲等の,同Kは,加療約1週間を要する顔面打撲の各傷害を負った。(乙14ないし16)(上記イないしエの事実を,以下「本件事件」という。)

      (3) 原告Aらの身柄拘束等

        9月29日午前6時ころ,原告Aは,E及びFとともに,傷害(共謀による被害者I及び同Jに対する犯行)の現行犯人として逮捕され,京都府五条警察署司法警察員に引致された。
        同日午後5時39分ころ,共犯者Gは,強盗致傷(原告A,E及びFとの共謀による,万引きした商品を取り返されることを防ぎ,逮捕を免れるためにした被害者I,同J及び同Kに対する暴行による傷害)の被疑事実で通常逮捕され,京都府五条警察署司法警察員に引致された。
        同月30日,京都府五条警察署司法警察員は,原告Aら4名につき,強盗致傷の被疑事実(上記Gの逮捕事実と同一)で,京都地方検察庁検察官に送致した。
        10月1日,原告Aに対して,勾留場所を五条警察署留置施設として勾留状が発布され,同月10日,勾留期間が同月20日まで延長された。E,F及びGも,同様に勾留され,勾留期間が延長された。
        同月1日,原告Bは,原告Aの国選弁護人として選任された。

      (4) 捜査の経緯の概要

        逮捕時の弁解録取において,傷害罪で逮捕された3名のうち,原告Aは,「相手の胸倉を掴んだことは認めるものの,怪我をさせるような暴行は加えていない」旨,Eは,「友達を止めただけで手を出していない」旨弁解し,Fは,事実を認めた。
        強盗致傷罪で逮捕されたGは,殴ったことは認めたが,Eが万引きしたことは知らなかったと述べた。(乙32,34,36,38)
        9月29日に行われた司法警察員の取調べで,被害者Iは,Eが万引きをした旨,Fと原告Aに殴られた旨を供述し,被害者Jは,Fから殴られた旨及び原告AかGのどちらかが被害者Iを殴打するところを見た旨,被害者Kは,Fから殴られた旨及び原告Aが被害者Iの胸倉を掴んだり殴っているのを見た旨,Gが被害者Iを殴っているのを見た旨をそれぞれ供述した。(乙57ないし59)
        9月29日,司法警察員は,本件店舗に備付けの防犯ビデオに原告Aらの犯行が撮影されていることを確認し,デジタルカメラで重要な場面を撮影し,その写真55葉を添付した捜査報告書を作成した(以下「本件ビデオ写真報告書」という。)。
        10月2日,司法巡査は,このビデオテープ(以下「本件ビデオテープ」という。)を本件店舗の店長から任意提出を受けて領置した。(乙8,163ないし166)
        Eは,万引きの事実について,逮捕当初は,覚えていないと供述していたが,やがて,この事実を認めるに至った。
        もっとも,万引きは一人でしたことであると供述し,F,G及び原告Aとの共謀の事実は否認した。
        他方,本件店員らに対する暴行については,Eは,これを否認し,暴行を振るったF,G及び原告Aとの間の共謀についても否認した。(乙93,112,134)
        Fは,本件店舗から出た後,Eが万引きしたことに気付き,Eを守るため,本件店員ら3名に対して暴行を振るったことを認めた。(乙2,4,10,122,125,135ないし137)
        Gは,10月9日に行われたC検事の取調べの際には,本件店舗の店員を殴ったことを認めたものの,よく覚えていない旨供述していたが,その後,被害者Iを殴ったことを認めるに至った。もっとも,Eが万引きをしたことに気付いていたことについては最後まで明確には認めなかった。(乙3,5,6,111,124,138,139)
        原告Aは,捜査段階を通して,被害者Iの胸倉を掴んで揺する等の暴行を加えたことは認めたものの,被害者Iを殴打,足蹴りしたことは否認し,本件店舗から出た後にEが万引きをしたことに気付いたことは認めたものの,Eと万引きを共謀したことについては否認した。(乙1,9,92,116,121,156,159)

      (5) 原告Aに対する取調べ等

        C検事は,本件事件の捜査の担当となり,10月9日午後1時16分から28分までの12分間,京都地方検察庁で原告Aを取り調べた(以下「10月9日取調べ」という。)。(甲149)
        原告Bは,同月10日,京都地検検事正に対し,10月9日取調べにおいて,C検事によって違法な取調べがなされた疑いがある旨を記載した通知書(以下「本件通知書」という。)を発送し,本件通知書は,翌11日に京都地検検事正に配達された。(甲5)
        同月15日,本件事件捜査の担当がC検事からD検事に変更された。
        D検事は,同月15日午前10時01分から午前10時43分までの42分間京都地方検察庁において,及び同月17日午後7時18分から午後7時42分までの24分間五条警察署において,それぞれ原告Aを取り調べた(以下,同月17日の取調べを「10月17日取調べ」という。)。(甲142,143)
        原告Bは,同月18日,京都地検検事正及び検事総長宛に,10月17日取調べにおいて,D検事によって違法な取調べがなされた旨を記載した抗議書(以下「本件抗議書」という。)を発送し,本件抗議書は,翌19日,京都地検検事正及び検事総長に配達された。(甲8,9)

      (6) 原告Aら4名の処分状況等

        D検事は,10月19日,Eについて,窃盗の単独犯と認定した上で不起訴とし,F及びGについては,原告Aとの共謀による傷害罪として京都地方裁判所に公判請求し,原告Aについては,刑事処分相当との意見を付して京都家庭裁判所に送致した(以下「本件家裁送致」という。)。
        なお,送致書の「審判に付すべき事由」欄には,「送致書記載の犯罪事実」と記載され,司法警察員作成にかかる京都地検検事正宛の9月30日付送致書(罪名「強盗致傷」)が引用されていた。また,送致書の「参考事項」欄には,F及びGが傷害罪で公判請求したことが記載されていたが,Eを起訴猶予としたことは記載されていなかった。(甲11,25,乙17)
        京都家庭裁判所は,同日,原告Aにつき観護措置決定をすると共に,その住居地を管轄する岐阜家庭裁判所に移送する旨の決定をした。
        これに先立つ同月18日,原告Aは,原告Bを付添人に選任した。(乙167)
        同月22日Gが,同月26日Fがそれぞれ保釈された。
        11月14日,岐阜家庭裁判所は,原告Aについて,原告A,F及びGとEとの間で窃盗についての共謀の事実を認めることができず,Eが盗品の取り返しを防ぎ,逮捕を免れ,又は罪証を隠滅するために暴行脅迫をした事実があったとはいえず,Eと原告A,F及びGとの間で暴行について共謀が成立したということもできないから,原告Aについて強盗致傷罪は成立しないとし,F及びGとの共謀による被害者I,同J及び同Kに対する傷害の犯罪事実を認定した上,保護観察に付する旨を決定した。(甲12)
        F及びGは,12月11日に開かれた第1回公判期日において,いずれも公訴事実を認めた。12月18日,Fについて懲役1年(執行猶予3年),Gについて懲役10か月(執行猶予3年)の各判決が言い渡され,いずれも確定した。(乙20,21)

3 争点及び当事者の主張

    本件の主たる争点は,C検事及びD検事に国家賠償法1条1項の適用上の違法行為があったか否か及び原告らに損害が認められるか否かであり,争点についての当事者の主張は次のとおりである。

    (1) 10月9日取調べにおけるC検事の言動は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か

    (原告Aの主張)
      C検事は,10月9日取調べにおいて,原告Aが「被害者Iを殴っていない」旨の供述したのに対し,机を蹴って威嚇し,
      「そんなん嘘や,おまえらの事なんて信じへんわ」と大声で怒鳴りつけ,「お前らは腐っている。くず」と侮辱した上,「お前としゃべてても,話にならへん。
      お前らが何と言おうと強盗致傷で持って行く。とことんやったるからな」
      と脅迫した。
      このような取調べは,取調検事としての職務上の法的義務に違反するもので,国家賠償法1条1項の適用上,違法である。
    (被告の主張)
      原告Aの主張事実は否認する。
      C検事は,被害者Iの胸ぐらを掴んだだけで,殴打,足蹴りについては覚えていない旨の原告Aの供述が不合理であると判断し,原告Aを更生させるためにも真実を語らせる必要があると考え,正直に話すように諭したが,原告Aが,覚えていないとの供述を維持するため,
      「君は,根性が腐っとるな。ちゃんと思い出そうとする努力をしているのか。本当にきちんと思い出す気持があるのか。」
      等と言い,これ以上取り調べても進展はないと考え,原告Aに対し,
      「君の言っていることは全く信じられない。これ以上君としゃべってても話にならへんので今日は帰っていい。ちゃんと思い出してくれ。」
      と述べて,取調べを終了したにすぎない。

    (2) 10月17日取調べにおけるD検事の原告Aに対する発言は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か

    (原告らの主張)
      D検事は,10月17日取調べにおいて,原告Aに対し,
      「君の弁護人は,弁護士になってから何年目か知っているか。少年の君になめられるのが嫌やから年数言ってないけど,1年経ってへんねんぞ。あの弁護士は,刑事のこと何もわかってないで。あんな弁護士がついて君も運が悪いな。」,
      「このまま行ったら,家裁へ行って,鑑別所に入り,逆送になって,刑事裁判になる。裁判になったらたくさんの人を調べるのに時間がかかるから,君が話すのは7回目くらいになる。そうなったら,成人式なんて到底でられへんな。」,
      「自分は覚えがなくても,警察や検事,相手がやられたって言ってるやん。自分は覚えていなくても,やったかもしれないって言ったらまるく終わるやん。」,
      「弁護士と話すなら,私はもう帰る。私を信じるのか,弁護士を信じるのか。」,
      「あんな人のことをよく信じるね。君はかわいそうだよ。」
      と述べた。
      被疑者には,弁護人依頼権(憲法34条前段)が保障されている。
      この弁護人に依頼する権利は,身体の拘束を受けている被疑者が,拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり,人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。
      したがって,右規定は,単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく,被疑者に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。
      被疑者・被告人は,法律の専門家である検察官とは異なり,通常法的知識に乏しいので,法律の専門家である弁護人の保護なくしては防御権を適切に行使しえず,保護者としての弁護人が適切な弁護活動をすることによって当事者主義が初めて実質化する。
      よって,弁護人は,被疑者・被告人の単なる代理人ではなく保護者としての地位にある。そして,弁護人が保護者としての役割を果たすためには,「他から不当な干渉を受けることなく有効に弁護活動をする権利」(以下「弁護権」という。)が保障されている必要がある。
      なぜなら,このような権利がなければ,弁護人は保護者として弁護活動を全うすることができず,その結果,被疑者の弁護人依頼権及び弁護人選任権(刑事訴訟法30条)は結局のところ有名無実化してしまうからである。
      したがって,被疑者の弁護人依頼権及び弁護人選任権を実質化するためには,このような権利と表裏一体のものとして弁護人に弁護権が保障されるのである。
      このような弁護人の弁護権は,敷衍すれば,「弁護人が,その固有権として,捜査機関などの公権力からの妨害を受けることなく,被疑者・被告人に対して刑事手続上の実質的な援助を与える権利」である。この弁護権は,①接見交通権など,明文上弁護人の固有の権利として保障されている弁護活動を行う権利を内包し,②捜査機関などの公権力からの妨害を受けないという性質から,自由権としての側面を有する。
      被疑者と弁護人との間に信頼関係がなければ,弁護人依頼権も弁護権も画餅に帰する。
      被疑者と弁護人の関係は,ほとんどの場合当該刑事事件の受任を契機として始まるから,当初から十分な信頼関係が成立していることは少ない。したがって,弁護人は,被疑者との接見その他の弁護活動を通じて,弁護人の保護者たる地位を説明し,取調べ等に向けて適切なアドバイスをし,あるいは家族等との連絡役となって,被疑者から十分な情報を得て,被疑者と意見を交換したりしながら,被疑者との信頼関係を構築していくのである。
      このように,被疑者と弁護人との信頼関係は,被疑者の弁護人依頼権を具体化し,同時に弁護人が弁護権を行使していくための不可欠の前提となっており,このような被疑者と弁護人との信頼関係は,捜査機関から不当な干渉をされないという意味で,法的な保護を受ける。
      そうすると,捜査機関が,弁護人の弁護活動を契機として被疑者に違法不当な対応や不利益な処遇を行い,もって被疑者と弁護人との信頼関係を破壊し,あるいは動揺させようとして被疑者に不当に働きかける行為は,弁護活動に萎縮的効果を及ぼすものであって,被疑者の弁護人依頼権及び弁護人の弁護権を侵害する違法な行為となる。
      したがって,検察官には,被疑者と弁護人との信頼関係を破壊し,動揺させることのないよう注意する職務上の法的義務がある。
      D検事の上記ア記載の発言は,原告Aと原告Bの信頼関係を破壊することによって,虚偽の自白を獲得しようとしたものであり,原告Aの弁護人依頼権及び原告Bの弁護権を侵害し,取調検事としての職務上の法的義務に違反する行為であって,国家賠償法1条1項の適用上,違法である。
    (被告の主張)
      原告の主張アの事実は否認する。
      D検事は,原告Aが,勾留の満期に釈放されると思っている口ぶりであったことから,そうではないことを伝えるために,原告Aに対し,今後の手続について,家庭裁判所に送致されること,鑑別所に入ることがあること,審判の結果,逆送され,刑事処分を受けることがあること等を説明するとともに,原告Aが成人式に出席したいと話していたことから,「成人式は晴れの舞台であり,嘘をついてやましい気持のまま出る資格はない。君は,成人式に出る資格がない。」と説諭し,折から,原告Bが接見を求めているとの連絡が入ったので,原告Aに対し,「先生が来ているけど会いますか。接見しますか。」と尋ねたところ,原告Aが「会う。」と答えたので,「私は,じゃ帰ります。」と告げて,取調べを終えたにすぎない。
      原告Bは,弁護人には「弁護権」が保障されていると主張するが,その主張には根拠がない。
      そもそも弁護人には「固有権」があると解されているが,これは,接見交通権(刑事訴訟法39条1項),証拠書類・証拠物の閲覧・謄写権等,弁護人の権限として法が特別に規定した権利であり,これを超えて,「捜査機関などの公権力からの妨害を受けることなく,被疑者・被告人に対して刑事手続上の実質的な援助を与える権利」が一般的に認められるものではない。
      被疑者と弁護人との信頼関係は,接見交通権が保護されたことに伴って付随的に受ける事実上の利益にすぎず,国家賠償法上,直接に法的保護の対象になるものではない。
      したがって,本件において,D検事の行為によって,国家賠償法1条1項における権利侵害行為があったか否かは,原告Aと同Bの信頼関係の破壊により,刑事訴訟法39条1項によって保障された被疑者又は弁護人の接見交通権が侵害されるに至ったかどうかによって判断されるべきものである。

    (3) 本件家裁送致は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か

    (原告らの主張)
      検察官が,
      ①収集した資料の証拠評価を誤るなどして,経験則上到底首肯しえないような不合理な心証を形成し,客観的には当該犯罪の嫌疑が認められないのに,当該犯罪の嫌疑があるものとしてその少年事件を家庭裁判所に送致した場合,もしくは,
      ②少年が被疑事実を認めなかったこと等に対する報復を目的として,
      その少年事件を重い罪名で家庭裁判所に送致した場合には,その家裁送致は,検察官の職務上の法的義務に違反する行為と言うべきである。
      D検事は,
      万引きをしたEについては不起訴とし,
      本件店舗の店員に暴行を加えたF及びGについては,強盗致傷罪ではなく,傷害罪で起訴した。
      それにもかかわらず,少年である原告Aの事件だけを,強盗致傷という罪名で家庭裁判所へ送致し,かつ,刑事処分相当との意見を付した。
      しかしながら,原告Aに対する法律記録を検討しても,原告AとEとの間に窃盗についての共謀を認定し得るだけの証拠はなく,暴行行為に及んだ原告A,F及びGとEとの間に,暴行についての共謀を認定しうるだけの証拠もなかった。
      つまり,本件においては,捜査が終了した段階で,原告Aについて,客観的に強盗致傷の嫌疑は認められなかった。
      したがって,D検事は,検察官が,捜査資料の証拠評価を誤るなどして,経験則上到底首肯しえないような不合理な心証を形成し,客観的には強盗致傷罪の嫌疑が認められないのに,これがあるものとして,その罪名で本件家裁送致をしたものである。
      また,D検事は,原告Aに対する法律記録を検討しても,強盗致傷罪の嫌疑がなかったにもかかわらず,原告Aが被疑事実を認めなかったことに対する報復及び原告Bが本件通知書や本件抗議書を発したことに対する報復を目的として,原告Aの事件を強盗致傷の罪名で家庭裁判所に送致したものである。
      本件家裁送致は,原告Bによる被疑者弁護活動の一切が無駄であったという決定的なメッセージを伝え,被疑者と弁護人との信頼関係を破壊する行為である。
      これにより,本件事件のその後の付添人活動に萎縮効果が及ぶことはもとより,原告Bの今後の刑事弁護活動に対しても萎縮効果が生じることになる。
      よって,このようなD検事の行為は,被疑者の弁護人依頼権及び弁護人の弁護権を侵害しないよう注意すべき検察官の職務上の法的義務に違反し,国家賠償法1条1項の適用上,違法である。
    (被告の主張)
      D検事は,
      窃盗の実行行為者であるEについては,F,G及び原告Aとの間に窃盗ないし暴行の共謀が成立したことを公判において立証するに足りる証拠が存在するか否かという観点から,これらを肯定する根拠となる事実と,否定する根拠となり得る事実を総合的に勘案した結果,これらを公判において立証する証拠は不十分と判断し,窃盗の単独犯と認定した上で,被害品の大半が還付されていることなどを考慮して不起訴とし,
      F及びGについては,Eとの間の窃盗の共謀を公判において立証する証拠は不十分であるが,原告Aとの間の暴行の共謀を立証するに足りる証拠はあると判断して,それぞれ傷害罪で公判請求し,
      少年である原告Aについては,他の共犯者らと異なり,Eとの間の窃盗の共謀を認定する根拠となる事実が認められたことから,最終的に審判において傷害罪として縮小認定される可能性も視野に入れつつ,非行事実の認定については家庭裁判所の判断に委ねる趣旨で,強盗致傷の罪名で家庭裁判所に送致したものである。
      よって,D検事は,本件家裁送致にあたり,経験則上首肯し得ないような不合理な心証を形成したことも,原告Aに対する報復目的もなく,職務上の法的義務違反の事実はない。

    (4) 原告らの損害の有無

      原告Aの損害
        (原告Aの主張)
          (ア)原告Aは,10月9日取調べにおけるC検事の強圧的,威嚇的且つ虚偽的な取調により,恐怖感を抱き,著しい精神的苦痛を味わい,10月17日取調べでは,D検事の言動により,原告Bの能力に疑問や不安を抱き,原告Bへの信頼を大きく揺るがされ,虚偽自白寸前までの心理状態に追い込まれ,極めて大きな精神的苦痛を被った。
          また,本件家裁送致に対しては,E,F及びGに対する処分とバランスを大きく欠いており,多大な精神的苦痛を被った。
          このような,原告Aの精神的苦痛を金銭で評価すると,金300万円を下らない。
          (イ)C検事及びD検事の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は30万円が相当である。
        (被告の主張)
          争う。

      原告Bの損害

        (原告Bの主張)
          (ア)10月17日取調べにおけるD検事の上記言動によって,原告Bは,強い屈辱感を受けると共に,原告Aとの信頼関係を不必要なまでに気にかけなければならない心理状態に置かれ,強い精神的苦痛を被った。
          また,本件家裁送致によって,原告Bは,自分が弁護する原告Aのみが強盗致傷罪という重大な罪名で処分されたことにより,自己の弁護活動,とりわけ検察庁に対して行った,本件通知書及び本件抗議書の発送等の本来極めて正当な抗議活動がこの結果を招いたのではないかとの疑念を抱き,その後の弁護活動に取り組むについても心理的に大きな影響を受けた。
          このような原告Bの精神的苦痛を金銭で評価すると,金300万円を下らない。
          (イ)D検事の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は30万円が相当である。
        (被告の主張)
          争う。

第3 当裁判所の判断

1 10月9日取調べにおけるC検事の言動は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か
    (1)証拠(甲3ないし5,8,20,21,原告A本人,原告B本人)によると,10月9日取調べにおいて,原告Aが,本件店舗の店員を殴ったり,蹴ったりはしていない旨,また,Eが万引きしたことは,本件店舗から出た後に気付いた旨,それぞれ供述したのに対し,C検事は,
    「そんなん嘘や。誰がお前らのことを信じる。」と大声で言い,脚を組んで椅子に深々と腰掛けていた体勢から,上側の脚で机の天板の裏側を蹴り上げ,「ドン」という大きな音を立てたこと,
    更に,C検事は,原告Aに対し,
    「Mだけか,まともなのは。」「お前もNもくずや,腐っている。」「誰がお前らのことなんて信じるんや。」「お前らが何て言おうと,強盗致傷で持っていく。」「とことんやったるからな。」等と言い,挙げ句に,「お前としゃべっていても話にならんから帰れ。」と言って,取調べを打ち切ったこと,以上の事実が認められる。
    なお,上記の「M」とはFのことであり,「N」とはGのことと解される。

    (2)これに対し,被告は,上記事実を否定し,証拠(乙23,証人C)中には,被告の主張に沿う部分がある。
    しかしながら,次の事情に照らすと,上記証拠中の(1)の認定に抵触する部分は採用できず,他に,(1)の認定を左右するに足る証拠はない。

      証拠(甲4,20,21,乙114,115,119,120,135,138,141ないし143,155,158,原告B本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

        (ア)日本司法支援センター(法テラス)からの依頼で原告Aの被疑者国選弁護人に就任した原告Bは,10月1日に原告Aと接見し,原告Aが,①E,F及びGと共謀していない,②Eが万引きをすることは知らなかった,③殴る,蹴るという暴行はしていないと主張していることを知り,原告Aに対し,「覚えがないのなら覚えがないときちんと言うように。」とアドバイスした上,原告Aが少年であって,不安な様子であったことから,弁護人として,原告Aに対する取調べ状況を把握する必要があると考え,同月4日には,原告Aに対し,「被疑者ノート」と題する冊子を差し入れ(甲4,以下「本件被疑者ノート」という。),取調べがあったその日のうちにこれに書き込むよう指示した。
        (イ)「被疑者ノート」は,取調べに対する牽制,弁護人による取調べ状況の理解,被疑者の自覚と励まし,公判における証拠としての利用等を目的として京都弁護士会刑事委員会が作成したもので,一日毎に,スケジュール(取調べ開始時間,終了時間を含む),取調官の名前,取調べ状況,供述した内容,調書作成の有無,調書の内容,取調べにおいて気になったこと等の記載欄がもうけられていた。
        (ウ)原告Aは,同月4日から,本件被疑者ノートへの記入を始めた。同月4日以降,原告Aの取調べが行われたのは,同月4日,同月9日,同月11日,同月12日,同月15日及び同月17日であったが,原告Aは,取調べが行われたすべての日の取調べ状況等を被疑者ノートに記入した。本件被疑者ノートには,取調べの状況のみならず,取調べの感想,自分の精神状態,親に対する想い等が書かれている。
        (エ)本件被疑者ノートの同月9日の頁には,(1)の認定事実と同旨の内容が記載されている。
        (オ)原告Bは,同月10日に原告Aと接見し,原告Aから,(1)の認定事実と同旨の事実の報告を受け,ひどい取調べであると感じ,その日のうちに本件通知書を発送した。本件通知書には,(1)の認定事実と同旨の事実が記載されている。また,原告Bが,原告Aと接見しながら記入した「接見ノート」(甲21,以下「本件接見ノート」という。)には,原告Aから報告を受けた内容として,(1)の認定事実と同旨の内容が記載されている。
        (カ)C検事は,同月5日にFを,同月9日に原告Aを取り調べる前にGを取り調べていた。
        上記取調べの際,Fは,Eを助けるために自ら本件店員を殴打したことを認めていたが,Gは,Eが万引きしたことは知らず,本件店舗の店員を殴ったことは認めるが,よく思い出せないと供述していた。

      上記アの(ア)ないし(オ)の事実によると,本件被疑者ノートの同月9日の頁の記載内容は,原告Aが当日に記入したものと認めるべきである。また,上記ア(カ)の事実によれば,C検事は,同月9日において,Fの供述態度には好感を持っていたが,原告A及びGの供述態度には好感を持っていなかったと推認できるから,(1)の認定事実のうち,FやGに言及した部分は,当時の捜査の進展状況と符合するということができる。そして,上記アの(ア)ないし(ウ)の事実によれば,原告Aが,敢えてこれに嘘の記載をする動機があることを裏付ける特段の事情が認められたり,取調べ過程が録画されていて被疑者ノートの記載が事実と異なることが証明されたりすれば格別,そうでない限り,本件被疑者ノートの記載内容の信用性を高く評価すべきところ,上記特段の事情を認めるに足る証拠はない。

      よって,(1)の事実は,優に認定することができる。

    (3)C検事の言動は,職務上の法的義務に違反するか

      我が国の刑事訴訟法は,検察官,司法警察職員等が被疑者を取り調べることを認めている(刑事訴訟法198条1項)。
      取調べは,単なる弁解録取ではなく,真実の発見を目標として行われるものであると解される(犯罪捜査規範166条参照)から,取調官が,虚偽の供述をしていると思われる被疑者に対して真実を述べるように説得することは許されると解される。
      しかしながら,捜査手続といえども,個人の尊厳を基本原理とする日本国憲法の保障下にある刑事手続の一環であること,
      刑事訴訟法が事案の真相を明らかにするについて,公共の福祉の維持と基本的人権の保障を全うすることを基本原則としていること(同法1条),
      我が国が批准している市民的及び政治的権利に関する国際条約7条が,何人も品位を傷つける取扱いを受けないことを定めていること,
      警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構え,捜査の方法,手続その他の捜査に関し必要な事項を定めることを目的として定められた犯罪捜査規範(昭和32年7月11日国家公安委員会規則第2号)167条2項は,
      取調べに当たっては,冷静を保ち,感情に走ることなく,被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするよう務めなければならない旨,同条3項は,取調べに当たっては,言動に注意し,相手方の年齢,性別,境遇,性格等に応じ,その者にふさわしい取扱いをする等,その心情を理解して行わなければならない旨それぞれ定めているところ,
      これらの準則の趣旨は,検察官が行う取調べにおいても参照されるべきであると解されること等に鑑みると,取調官が取調べの場で被疑者に対し,その尊厳や品位を傷つける言動をすることは許されず,
      取調官には,取調べをするに当たって,被疑者の尊厳や品位を傷つける言動をしない職務上の法的義務があるというべきである。

      次に,国家が無辜の民を罰することがあってはならず,そのために,取調官たる者は,虚偽の自白を誘発する危険のある取調べを巌に慎むべきものである。
      また,取調官が取調べにおいて,被疑者の人権を侵すことがあってはならない。
      刑事訴訟法は,虚偽の自白を排除し,被疑者の人権を擁護するために,任意性に疑いのある自白の証拠能力を否定する厳格な自白法則を採用している(刑事訴訟法319条)。
      そうすると,供述の任意性に疑念を抱かれるような取調べ方法を採用してはならないのは,取調官としての職務上の法的義務というべきである。
      なお,犯罪捜査規範は,その趣旨を,「取調べを行うに当たっては,強制,拷問,脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。」と定めているところである(168条1項)。
      ところで,10月9日取調べがなされた当時,原告Aは少年であったところ,少年は,成人に比べて,社会経験が乏しく,傷つきやすく,自己を防御する能力も低いのが一般であると考えられる。
      犯罪捜査規範も,少年事件捜査については,「少年の健全な育成を期する精神をもってこれに当た」るべきこと(203条),「少年の特性にかんがみ」「取調べの言動に注意する等温情と理解をもって当たり,その心情を傷つけないないように務めなければならない」こと(204条)を定めている。
      これらに鑑みると,少年を被疑者として取り調べるに当たっては,取調官は,上記の,被疑者の尊厳や品位を傷つける言動をしない,供述の任意性に疑念を抱かれるような取調べ方法を採用しないという職務上の各法的義務を,成人被疑者を取り調べる場合以上に厳格に守るべきものである。

      以上の観点に立って,C検事の言動について検討する。

        (ア)「お前もNもくずや,腐っている。」との発言について被疑者に対する取調べの場において,取調官が被疑者に対してした,「くず」「腐っている」との発言は,特段の事情のない限り,その尊厳や品位を傷つける発言であるというべきである。一般に,他人に対して発した言葉の評価は,その言葉だけを捉えるのではなく,その言葉が含まれる文脈やその言葉が発せられた状況の中で考察されるべきであるが,上記発言は,C検事が原告Aに対して,原告A自身が本件店舗の店員に対して殴る蹴るという暴行を振るったことや,万引きについてのEとの共謀の事実について自白を迫り,原告Aがこれを認めないで対峙している緊迫した状況の中で発せられたものであることを考えると,文脈や状況の中で考察しても,上記特段の事情があるとはいえないし,他に,上記特段の事情があることを認めるに足る証拠はない。
        (イ)机の天板の裏側を蹴り上げた行為及び「誰がお前らのことなんて信じるんや。」「強盗致傷で持っていく。」「とことんやったるからな。」との発言について
        C検事が机の天板の裏側を蹴り上げた行為は,大きな音を出し,あるいはC検事自身の苛立ちを原告Aに示すことによって原告Aを威嚇する目的によってなされたものとしか解することができず,原告Aに恐怖感を与え,これによって虚偽の自白を誘発しかねないものである。また,C検事の「誰がお前らのことなんて信じるんや。」「強盗致傷で持っていく。」「とことんやったるからな。」との発言は,原告Aをして,C検事に対してどのような弁解をしても,C検事の見込みに反する限り,これを全く聞き入れて貰えないとの絶望感を与え,投げやりな気持から,あるいは,C検事に迎合しようとする動機から,虚偽の自白を誘発しかねない発言である。そうすると,C検事のこれらの言動は,供述の任意性に疑念を抱かれるような取調べ方法であるとの評価を免れない。
        (ウ)以上によれば,C検事の10月9日取調べにおける原告Aに対する言動は,取調検事として取調べの対象である被疑者に対して負担する職務上の法的義務に違反し,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を免れないというべきである。

2 10月17日取調べにおけるD検事の原告Aに対する発言は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か
    (1)証拠(甲3,4,7ないし10,20,21,24,原告A本人,原告B本人)によると,次の事実が認められる。

      10月17日取調べにおいて,D検事が原告Aに対し,被害者Iに対して殴打,足蹴りをしたのではないかと尋ねたのに対し,原告Aは,これを否定した。
      そこで,D検事は,原告Aに対し,
      「このままいったら重い罪になるぞ。」
      「鑑別所に送られ,逆送にされて,刑事裁判になって,判決が7回目くらいになるぞ。それを望んでるのか。」
      「成人式にも出られないぞ。」と言い,
      「自分が覚えなくても,やったかもしれないって言ったら丸く終わるやん。」と自白を勧めた。
      更に,原告Bについて,
      「君の弁護人は弁護士になって何年目か知ってるか。
      少年の君になめられるのが嫌やから言ってないけれど,あの弁護士は1年経ってないぞ。
      刑事のこと全然分かってない。あんな弁護士がついて君もかわいそうやな。」
      「あんな人のことをよく信じるね。君は本当にかわいそうだよ。」
      と言った。
      取調中に,原告Bが原告Aとの接見を求めている旨の連絡が入り,原告Aが原告Bとしゃべりたいと言うと,
      D検事は,原告Aに対し,
      「弁護士と話すなら,私はもう帰る。私を信じるのか,弁護士を信じるのか。」
      と言って,取調べを終了した。
      その直後,原告Bが待つ五条警察署の接見室に原告Aが入室したが,
      原告Bは,原告Aの様子がいつもと違って訝しげであると感じた。
      原告Bが「どうしたん。」と尋ねたところ,
      原告Aは,原告Bに対し,直前の10月17日取調べでD検事から言われたアの内容を伝えた。
      原告Bは,強い屈辱を感じたが,まず原告Aの信頼を取り戻さなければならないと考え,
      原告Aに対し,確かに自分は弁護士になって1年しか経っていないけど,弁護士である以上全力を尽くす等と話すとともに,
      自分が原告Aのために頑張って弁護活動をしていることを理解してもらうため,
      原告Aの両親に作成してもらい,原告Aに里心がつくことを避ける目的から原告Aが家裁送致になってから見せようと考えていた嘆願書をその場で原告Aに示した。
      原告Aは,10月17日取調べにおけるD検事の発言を聞いて,原告Bに対する不安感を抱いたが,
      原告Bとの接見で,原告Bが自分のために弁護活動をしてくれていることを知り,原告Bを信じようと思った。

    (2)これに対し,被告は,上記(1)アの事実を否定し,証拠〔乙24(D検事の陳述書),証人D〕中には,原告Aに対し,(1)アの発言をしていないとの部分がある。
    しかしながら,次の事情に照らすと,上記各証拠中の(1)アの認定に抵触する部分は採用できず,他に,(1)アの認定を左右するに足る証拠はない。

      証拠(甲4,7ないし9,20,原告B本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
        (ア)本件被疑者ノートの10月17日の頁には,(1)アの認定事実と同旨の内容が記載されている。
        (イ)原告Bは,10月17日取調べの直後に原告Aと接見し,原告Aから,(1)アの認定事実と同旨の事実の報告を受けた。原告Bが,原告Aと接見しながら記入した本件接見ノートには,原告Aから報告を受けた内容として,(1)の認定事実と同旨の内容が記載されている。
        (ウ)当夜,原告Bは,京都弁護士会の刑事弁護委員会のメーリングリストに,
        「検事が被疑者に『あの弁護士は何年目か知ってるか。少年の君になめられるのが嫌やから年数言ってないけど,実は1年しかやってないんやで。あの弁護士は刑事のこと全然分かってない。あんな先生がついて,君も運が悪いな。あんなひとのことをよく信じるね。ほんと君はかわいそうだよ。』と言ったとのことです。検察修習の成績そんなに悪かったのかな・・・,もっと刑事のこと勉強します。」
        との内容のメールを発信した。
        (エ)翌10月18日,原告Bは,(1)アの認定事実と同旨の事実を記載した本件抗議書を発送した。
        (オ)原告Bは,10月17日の接見までの間に原告Aに対し,自分の弁護士としての経験年数を話したことがなかった。

      上記アの事実及び1(2)アの事実によると,本件被疑者ノートの10月17日の頁の記載内容は,原告Aが当日に記入したものと認めるべきである。そして,上記アの(イ)ないし(エ)の事実によれば,原告Aが,敢えてこれに嘘の記載をする動機があることを裏付ける特段の事情が認められたり,取調べ過程が録画されていて被疑者ノートの記載が事実と異なることが証明されたりすれば格別,そうでない限り本件被疑者ノートの記載内容の信用性を高く評価すべきところ,上記特段の事情を認めるに足る証拠はない。

      他方,乙24(D検事の陳述書)及び証人Dの供述の信用性を高く評価することができない。その理由は,次のとおりである。

        (ア)証人Dは,10月17日取調べで原告Aに対し,原告Bの弁護士としての経験年数を述べたことはなく,そもそも,原告Bが司法研修所の何期生であるかも知らなかった旨供述する(第6回口頭弁論における証人調書9頁,第7回口頭弁論における証人調書9頁)が,
        原告Aが原告Bの弁護士としての経験年数をD検事又は原告B本人から教えられる以外の方法で知りうるとは考えがたいこと,
        原告Bが10月17日までの接見において原告Aに対し,これを教えたとも考えがたいことに照らすと,
        D検事から教えられた旨の原告Aの供述の信用性は高いといわざるを得ず,
        翻って,証人Dの上記供述部分は採用できない。

        (イ)証人Dの供述中には,本件ビデオテープには,原告Aが被害者Iを殴打している部分が写っていたのに,原告Aがその点について不合理な否認を続けていたとの趣旨の部分がある(第6回口頭弁論における証人調書3頁)が,
        次の事実によれば,本件ビデオテープに上記殴打場面が写っていたとの部分は信用できず,
        このことは,証人Dの供述全体の信用性の評価に影響を与えざるを得ない。

          本件ビデオテープに原告Aが被害者Iを殴打した場面が写っていたのであれば,本件ビデオテープは,原告Aにその点について自白を求めるについて決定的証拠である。
          しかるに,証拠(証人C,同D)によれば,C検事もD検事も,原告Aの取調中に本件ビデオテープを再生して,原告Aに上記場面を示したことがないことが認められる。
          証拠(乙8)によると,司法警察員が本件ビデオテープのうち重要な場面をデジタルカメラで撮影した本件ビデオ写真報告書には,上記殴打場面の写真が存在しないことが認められる。
          仮に,司法警察員が上記殴打場面の重要性が理解できず,上記殴打場面を撮影しなかったとしても,これは,その後の原告Aの否認を覆す決定的証拠であるから,D検事としては,司法警察員に対し,上記殴打場面を撮影して捜査報告書として残すことを指示するのが通常と思われるが,証拠(証人D)によれば,D検事は,その指示をしなかったことが認められる。
          証拠(証人D)によれば,
          本件ビデオテープは,F及びGの傷害事件の証拠として刑事裁判所に提出されたが,
          原告Aの家裁送致の記録には添付されなかったこと,
          F及びGの刑事事件が終局した後,本件ビデオテープは廃棄され,現存していないことが認められる。
          本件ビデオテープを刑事裁判の証拠とする必要があったとしても,被害者Iに対する殴打の事実を否認する原告Aの弁解を覆す決定的証拠である本件ビデオテープについて,せめてダビングテープを作成して家裁送致記録の一部としなかった理由は明らかでなく,不合理であるといわざるを得ない。
          証拠(乙121)によると,10月12日ころ,原告Aは,本件ビデオテープの映像を見せられたこと,
          同日付の司法警察員に対する供述調書には,その点について,本件ビデオテープの映像を見せてもらったが,
          「私が見た限りではビデオの中で私が店員を殴った場面はありませんでした。」と記載されていることが認められる。
          この記載内容から,原告Aが店員を殴った場面がないとの原告Aの主張を取調警察官が否定できなかったことが窺われる。

    (3) D検事の発言は,職務上の法的義務に違反するか

      憲法34条前段は,「何人も,理由を直ちに告げられ,且つ,直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ,抑留又は拘禁されない。」と弁護人依頼権を定めている。
      この権利は,身体の拘束を受けている被疑者が,拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり,人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。
      したがって,右規定は,単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく,被疑者に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである(最高裁平成11年3月24日大法廷判決・民集第53巻3号514頁参照)。

      被疑者・被告人には,憲法及び刑事訴訟法によって,自己を防御するために様々な権利が与えられている。
      とはいっても,被疑者・被告人と捜査機関では圧倒的な力の差がある。
      被疑者・被告人が法律の専門家である弁護士の援助を受ける機会を持つことが実質的に保障されて,被疑者・被告人の防御権は始めて実効的なものになり,憲法31条の適正手続の保障が全うされる条件が整うということができる。

      弁護人に選任された弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に務めなければならない(日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」46条)。弁護人が被疑者・被告人のために行う弁護活動は,被疑者・被告人の憲法上の権利である弁護人依頼権を保障するために行われるのであるから,正当な弁護活動を行う利益は,法的保護に値し,これを「弁護権」と呼ぶかどうかは別として,この利益を侵害された弁護人は,裁判所に対し,不法行為法上の救済を求めることができるというべきである。

      弁護人は,被疑者・被告人の弁護人依頼権を実質的に保障するために誠実に努力すべき責務を負っているのであるが,これを実現するためには,被疑者・被告人との間で信頼関係を築き,これを維持することが不可欠である。
      信頼関係がなければ,被疑者・被告人は弁護人に対し,弁護人が適切な助言をするために必須の情報である本当の事実や自分の本音を話すことがないし,弁護人が適切な助言をしても,これに耳を傾ける気持になれないからである。
      そして,被疑者・被告人が弁護人から援助を受ける機会を持つことが実質的に保障されることが,憲法31条の保障下の刑事手続きを全うするための条件なのであるから,警察官,検察官,裁判官その他刑事司法に携わる者は,弁護人が被疑者・被告人と信頼関係を築くことをみだりに妨害してはならず,築かれた信頼関係をみだりに毀損,破壊してはならない職務上の法的義務があるというべきであって,このような妨害,毀損,破壊行為は,被疑者・被告人の弁護人依頼権を侵害して違法であるばかりでなく,弁護人が弁護活動を行う利益を侵害して違法であるというべきである。

      ところで,被疑者の取調べの際の検察官等の取調官の発言は,その性質上,被疑者の弁護人に対する信頼感に対して,一定の影響を与え得ることは避けられない。 したがって,取調官の発言が被疑者と弁護人との信頼関係を「みだりに」毀損,破壊する行為であるか否かは,その発言をした動機,目的,取調べにおける局面,被疑者の属性(年齢,前科等)等を総合勘案して判断されるべきである。

      これを10月17日取調べについてみる。
        (ア)(1)で認定した10月17日取調べにおけるD検事の発言(以下「本件D検事発言」という。)は,原告Aに対し,原告Bの弁護士としての経験が浅いことを教えることにより,原告Aに対し,原告Bの能力に対する不安を与えるものであって,原告Aと原告Bとの信頼関係を毀損,破壊しようとする行為であることは明らかである。
        (イ)そして,弁論の全趣旨によれば,10月17日取調べが原告Aに対してなされた最後の取調べであることが認められるところ,本件D検事発言の全体をみると,D検事は,原告Aに対して最終処分をするに当たり,原告Aが被疑事実の一部について否認を続けているのは原告Bの影響があるものと考え,原告Aの原告Bに対する信頼を毀損し,併せて,このままの状況では,身体拘束が長くなる結果,成人式にも出席できなくなるとの不安を与え,経験の浅い弁護士よりも検察官の勧めに従って否認している部分について自白をすれば,身柄拘束の長期化を回避できることを暗に告げ,原告Aに対し,自白を迫ったもの推認することができる。
        そうすると,D検事が,原告Aと原告Bの信頼関係を毀損する行為に及んだ動機,目的に全く正当性を見出すことができず,これに,原告Aが少年であって,捜査機関に身柄を拘束されるのは初めての経験であったから,五条警察署留置施設で不安な日々を送っていたと推認され,原告Aが自らを適切に防御するためには,成人や累犯者の場合以上に,弁護人の適切な援助の果たす役割が肝要であることを考え合わせると,本件D検事発言は,被疑者と弁護人との信頼関係を「みだりに」毀損しようとしたといわざるを得ない。

      以上によれば,本件D検事発言は,取調官として取調べの対象である被疑者及びその弁護人に対して負担する職務上の法的義務に違反するものであって,国家賠償法1条1項の適用上,違法であるというべきである。

本件家裁送致は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か

    (1)検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,家庭裁判所から送致を受けた事件について公訴を提起する場合を除き,これを家庭裁判所に送致しなければならない(少年法42条)。送致を受けた家庭裁判所は,「非行事実」を「要保護性」とともに審判の対象とするが,ここに審判の対象である「非行事実」とは,送致書に記載された犯罪事実(以下「送致事実」という。)に限られるのではなく,刑事訴訟法上の「公訴事実」に該当する事実,即ち,送致事実と同一性を有する非行事実全体に及んでいると解せられる。

    (2)本件において,原告らは,本件家裁送致が違法であると主張しているが,原告らも原告Aについて少なくとも暴行罪が成立することは争うものではないし,少年法は,いわゆる全件送致主義を採用しているから,検察官が本件で家裁送致したこと自体を違法と主張するものではなく,送致に当たり,送致事実を「強盗致傷」としたことが違法であると主張するものである。

    (3)公訴提起は,公訴権を独占している検察官が嫌疑の有無,処罰の必要性等を勘案した上,裁判所に対し,特定の刑事事件について審判を求める意思表示である。
    審判の対象は,「訴因」であるが,検察官がこれを維持できないと判断すれば,公訴事実の同一性の範囲内で,訴因を変更することができる。
    被疑者が起訴価値のある特定の犯罪を犯したことについては充分な証拠がある場合において,検察官が,その犯罪と公訴事実を同一とする範囲内で敢えて重い訴因を構成して起訴した場合,重い罪名で起訴されたこと自体が被告人の名誉を侵害すること,被告人には,その後の審理で重い訴因に対して防御しなければならない負担が生じること等に照らすと,裁判所による重い訴因事実の認定を期待し得るだけの合理的根拠が欠如している場合には,その起訴は違法と評価すべきである。

    他方,検察官が特定の犯罪事実について充分な証拠のある少年の被疑事件を家庭裁判所に送致する場合において,その犯罪事実と事実を同一とする範囲内で敢えて重い犯罪事実で送致した場合においても,少年は,重い犯罪事実について防御しなければならない負担を被ること,家庭裁判所によって重い犯罪事実を認定された場合,それは保護処分の選択や検察官送致をするか否かの判断に影響を与えるから,重い犯罪事実で送致されたこと自体が少年に強い不安を与えると考えられること等に照らすと,重い犯罪事実を基礎づける証拠の有無,検察官が重い犯罪事実で送致した動機等,諸般の事情によっては,その家裁送致が違法と評価される場合があり得るというべきである。
    そこで,家裁送致を違法と評価すべき基準について検討するに,
    検察官が少年を起訴するについては,「公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料する」ときである必要がある(少年法45条5号)のに対し,
    家裁送致するについては,「犯罪の嫌疑があるものと思料する」ときであれば足り(同法42条),

    求められる嫌疑の程度には差があるというべきこと,刑事裁判においては,検察官は,訴因を立証するために必要な証拠を公判に提出して,自らの主張を裁判所に認めさせるべく訴訟活動をするのに対し,
    少年審判事件においては,検察官は,捜査記録一切を家庭裁判所に送付し(少年審判規則8条2項),検察官関与決定(少年法22条の2,なお,本件では同決定はなされていない。)がなされた場合を除き,事実認定を家庭裁判所に一任するものであるから,検察官の主張(刑事裁判における訴因,少年審判事件における送致事実)が裁判所による最終的な事実認定に与える影響は,刑事裁判におけるよりも,少年審判における方が小さいと考えられること,
    刑事裁判は公開の法定で審理されるのに対し,少年審判事件は非公開であり,審判に付された少年を特定し得る事項を報道することが禁止されている(少年法61条)から,検察官によって重い罪名を付けられたことによって名誉が毀損される程度は,刑事裁判におけるよりも少年審判における方が軽いというべきこと等,刑事裁判と少年審判では,その手続構造に様々な違いがあり,被告人と審判に付された少年とでは,権利侵害の程度にも違いがある。

    これらを総合勘案すると,検察官が特定の犯罪事実について充分な証拠のある少年の被疑事件を家庭裁判所に送致する場合において,
    ①検察官が,経験則上到底首肯し得ないような不合理な心証を形成して重い罪名で家裁送致した場合,又は
    ②検察官が少年や弁護人に対する報復等,違法・不当な目的をもって敢えて重い罪名で家裁送致した場合には,その家裁送致が違法となると解するのが相当である。

    (4)これを本件について以下検討する。

      証拠(各項末尾に記載)によると,次の事実が認められる。
        (ア)本件ビデオテープには,Eが本件店舗内の陳列台から万引きする商品を手にとり,これを持ってその場を立ち去った際その後方のごく近接した場所に原告Aがいたこと,F,G及び原告Aの3名のうち,このときEの傍にいたのは原告Aのみであったことが映っていた。
        そして,このときの原告Aの身体の向きや視線は,見ようによっては,本件店舗の店員の様子を窺っているように見えた。(乙8写真番号⑳ないし23,26)
        (イ)Eが万引した商品は,調理麺3点,おにぎり3点,手巻き寿司1点であり,Eが一人で食べるには量が多いと考えられた。(乙43)
        (ウ)被害者Iは,検察官に対し,Eが上記被害商品を本件店舗外に持ち出した後,本件店舗前路上のゴミ箱に被害品を置き,何かを食べていることが本件店舗のガラス越しに見えたが,その際,F,G及び原告Aがその傍にいた旨,これを見た被害者Iが,被害者Jや同Kに対し,Eが持ち出した商品がレジを通っていないことを確認したが,その様子を原告Aら4名が本件店舗のガラス越しに見ていた旨,供述していた。
        (エ)被害者Iは,検察官に対し,原告Aら4名が本件店舗前路上から立ち去ろうとしたので,本件店舗外に出て,Eの後を追ったところ,Fが被害者Iの前に立ち塞がってこれを妨害し,その後,F,G及び原告Aから暴行を受けた旨供述していた。(乙11)
        (オ)D検事は,原告Aら4名に強盗致傷罪が成立するためには,窃盗の実行行為者であるEと本件店員らに暴行に及んだことが明らかなF,G及び原告Aとの間に,窃盗又は暴行について共謀が成立する必要があるところ,上記(ア)ないし(エ)の証拠は共謀の事実を裏付けるが,他方,原告Aら4名は,いずれも窃盗の共謀の事実を否定していること,Eが本件店員らに暴行を加えた事実がなく,かえってEは,Gや原告Aが暴行を加えることを制止していたことは,上記共謀の事実を否定する根拠になると考えた。
        そして,D検事は,E,F及びGについては,窃盗又は暴行についての共謀の事実を公判において立証するには証拠が不十分であると考え,Eについては,窃盗罪を認定した上,起訴猶予とし,F及びGについては,原告Aとの共謀による傷害罪で公判請求をした。
        他方,原告Aについては,F及びGと異なり,(ア)の事実がEとの窃盗の共謀について有力な証拠になることから,最終的には審判で傷害罪として縮小認定される可能性も視野に入れ,もし家庭裁判所で検察官送致の決定がなされた場合には,新たな証拠を収集できない限り,強盗致傷罪では起訴できないであろうと考えつつ,強盗致傷の犯罪名で本件家裁送致をした。

      D検事の上記判断の結果,成人であって本件事件の端緒を作ったEが起訴猶予とされ,成人であるFとGが,とりわけFは原告Aよりも激しい暴行を振るったことが明らかであったのに,いずれも傷害罪で起訴されたのに対し,少年である原告Aが強盗致傷罪で家裁送致されたのであるから,不均衡であるとの印象を与える。
      また,原告らとしては,原告Aが送致事実の一部について否認を通したこと及び原告Bが本件通知書や本件抗議書を発送したことに対する報復の目的で本件家裁送致がなされたと受け止めたのも無理からぬところである。
      しかしながら,原告Aには,窃盗についての共謀を認めるについてFやGにはなかった裏付け証拠があったことに鑑みると,本件家裁送致について,D検事が,経験則上到底首肯し得ないような不合理な心証を形成して重い罪名で家裁送致したとまで認めることはできない。
      また,本件家裁送致の際の送致書の「参考事項」欄に,F及びGの処分結果を記載しながら,Eの処分結果を記載しなかったのは片手落ちの印象を与えるが,家裁がこれに関心を持つことは当然に予想されるし,証拠(甲25)によれば,現に,10月23日京都家裁書記官から京都地方検察庁検察事務官宛にEの処分結果について照会があり,検察事務官がこれに回答したことが認められるから,上記「参考事項」欄にEの処分結果を記載しなかったからといって,原告らに対する報復の目的を推認するのも不十分である。
      証拠(証人D)によると,D検事は,自らの取調べについて弁護人から文書で抗議されたのは,本件抗議書が初めてであったこと,本件抗議書が送られてきたため,D検事は,上司に対する説明に手間をとられたこと,D検事が,刑事裁判で有罪を獲得するには証拠が足りないと認識しつつ,その罪名で家裁送致したのは初めての経験であること等の事実が認められるが,だからといって,D検事が,原告らに対する報復を目的として敢えて重い罪名で家裁送致したと推認することはできないし,他に,その事実を認めるに足る証拠はない。

      よって,本件家裁送致が国家賠償法1条1項の適用上,違法であると認めることはできない。

4 原告らが受けた損害について

    (1)精神的損害
      証拠(原告A本人)及び弁論の全趣旨によると,原告Aは,C検事の10月9日取調べによって,恐怖を感じるとともに,尊厳や品位を傷つけられ,また将来に対する不安から,やっていないことでもやったと言った方が楽になるのではないかと考えてしまう精神状態に追い込まれたこと,D検事の10月17日取調べによって,将来に対する不安から,やってないことでもやったと言った方がいいのかなと思い悩むとともに,原告Bの助言に従っていて大丈夫なのかとの不安感を抱くのを余儀なくされ,精神的苦痛を被ったことを認めることができる。そして,原告Aが被ったこれらの苦痛の内容,程度,その他本件で現れた一切の事情に鑑み,原告Aの精神的苦痛は,金40万円をもって慰謝されるのが相当であると判断する。
      証拠(原告B本人)によると,原告Bは,原告Aから,D検事の原告Aに対する10月17日取調べにおける発言を聞かされ,弁護士の経験年数という原告Bにはどうしようもできないことを理由に中傷することに腹立たしい思いをするとともに,D検事が原告Aに対し,原告Aから報告を受けたこと以外にも自分の悪口を言っているのではないか,原告Aは,差し障りのない内容だけを自分に報告しているのではないか等との不安に陥り,原告Aの自分に対する信頼が揺らいでいると感じ,これをつなぎ止めるために懸命な説得をすることを余儀なくされたことが認められる。
      そして,原告Bが被ったこれらの苦痛の内容,程度,その他本件で現れた一切の事情に鑑み,原告Bの精神的苦痛は,金20万円をもって慰謝されるのが相当であると判断する。

    (2)弁護士費用
      本件事案の内容,認容額等を勘案すると,C検事及びD検事の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告Aについて4万円,原告Bについて2万円が相当である。
以上によれば,原告Aの被告に対する請求は,金44万円及びこれに対する不法行為の後である平成19年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告Bの被告に対する請求は,金22万円及びこれに対する不法行為の後である平成19年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ正当として認容すべきであり,その余はいずれも失当として棄却すべきである。仮執行宣言は,認容金額に照らし,必要性を認めがたいので付さない。

京都地方裁判所第1民事部  
裁判長裁判官 井戸 謙一
裁判官 小堀 悟
裁判官 若原 央子

2月 25, 2010 at 04:35 午後 事件と裁判 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010.02.24

大学にキャリア教育を義務づける

朝日新聞より「学生への「職業指導」、大学・短大に義務化へ 文科省

学生が自立して仕事を探し、社会人として通用するように、大学や短大の教育課程に職業指導(キャリアガイダンス)を盛り込むことが2011年度から義務化される。

文部科学省が25日、設置基準を改正し、大学側もカリキュラムや就職活動などの支援体制の見直しに入る。

義務化の背景には、厳しい雇用状況や、職業や仕事の内容が大きく変化するなかで、大学側の教育や学生支援が不十分という指摘がある。

さらに新卒就職者の3割が3年以内に離職するなど、定着率の悪さも問題になっていた。

このため、大学教育のあり方を議論していた中央教育審議会(文科相の諮問機関)でも、学生支援の充実や、職業指導を明確化する方向性を打ち出していた。

就職支援に関して、各大学や短大は、就職支援センターやキャリアセンターを学内につくって対応している。

義務化で、卒業後を意識したカリキュラムやプログラムにし、すでに一部の大学で導入されている職業を考える授業やインターンなどを単位として認定するなどの動きが広がりそうだ。

また就職指導への教育は、7年ごとに受ける第三者の認証評価機関などの評価対象にもなり、結果が公表される。受験生の大学選びの理由の一つになる可能性もある。

日本学生支援機構のまとめでは、就職セミナーやガイダンスなどを実施する大学は全体の91.8%、短大で95.7%。職業意識を育てることを目的にした授業科目を開設している大学は74.3%、短大は72.4%となっている。

具体例として、金沢工業大学では、入学時から4年生まで、必修の科目として将来の進路を考えるカリキュラム「社会で自分を活(い)かして生きていく力」を実施している。
また、東京女学館大学では、コミュニケーション能力、IT能力など社会人として必要な10の能力「10の底力」を定めて4年間で基礎、専門科目を通じて伸ばす試みをしている。

ただ、義務化で、大学の正規授業での職業指導が重点化されると、「就職」が目的化してしまい、本来の学問・研究がおろそかになるという懸念もある。
また、もともと就職指導に重心を置いた専門学校との境目がなくなるという指摘もある。(編集委員・山上浩二郎)

所属しているNPOの活動としてキャリア教育に関わって数年になりますが、大学にキャリア教育を義務づけるというのでは、遅いのではないか?という気がします。

今の教育では受験勉強に顕著ですが、「これだけで良い」的な指向が強すぎると考えています。

キャリア教育だと目新しく感じますが、人生設計のことです。
若い人にとって人生設計は、良くいえば夢であり悪い言い方だと妄想です。

つまりは「妄想を育てろ」「豊かな妄想力を競う」といったことがキャリア教育の前提です。

アメリカでは大学入学審査で、アルバイト歴を評価するから、ベビーシッターの経験は非常に重要視されているといいます。
日本ではつい最近まで、アルバイトの話題に触れること自体を禁止していた県立高校があったくらいです。

「これだけ勉強すればOK」という発想は「引き算」であると考えます。
これに対して「こんな妄想」「あんな夢」というのは「足し算」でしょう。

つまり、大学進学まで「いかにムダをせずに勉強するか?」に集中し、「引き算型勉強の達人」の大学生に今から「足し算型ではなくてはダメだ」と社会が要求するから、入社早々に退職する若者が出て来るのでしょう。
しかし、社会一般あるいは企業内でも、「無駄をはぶく」=「リストラ」になっていて、社会の要求段階で「無駄なく豊かな人材が必要」といったことをリクエストするから、派遣ビジネスに向かうのです。

これでは、ニワトリとタマゴの関係になっていて「大学にキャリア教育を義務づけたから良くなる」という種類の話しではありません。
大学に入ってくる段階で、すでに知的にひからびているような若者が少なく無いのが現実ですから、そこをどうするか?が手間は掛かるけど、一番有効なことでしょう。

  • 受験科目を総合力を見るものに切り替える、必要があります。
    マークシートで採点できるような内容は、試験するだけ無駄です。
  • 情報発信の訓練を小学生レベルから強化する。
    ディベートなどやらせた方がよい。
  • 社会体験の重視。
    アルバイト経験を大学入試で評価する。受験勉強だけしてきました=落第、にするべきです。

このような能力のある社会人のタマゴ状態の大学生にキャリア教育をするのは、大いに有効でありましょう。
しかし、現在の大学生は社会とは隔絶して「お勉強」だけを20年間やってきたのですから、キャリア教育をしても「学校のキャリア教育に合格した」というタイトルが付くだけになると考えます。

文科省が、教育だけの観点から社会を仕切るがごとき事を実行するから、変なことになるのだと思っています。
その代表格が、法科大学院であります。
話しを逆にして、経産省がキャリア教育基準を作って文科省に押しつける方が現実的だと思うのですが・・・・・・。

2月 24, 2010 at 09:47 午前 教育問題各種 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010.02.22

高速道路の逆走事故対策

朝日新聞より「関門道で乗用車逆走? タンクローリーと衝突、男性死亡

22日午前6時40分ごろ、山口県下関市の関門自動車道上り線で、無職(52)の乗用車とタンクローリーが衝突し、さらに後続の車3台が玉突き衝突した。乗用車の運転手は頭などを打って間もなく死亡。
タンクローリーを運転していた北九州市小倉南区の男性(41)は軽いけがで、積んでいたガソリンなどの流出はなかった。県警は乗用車が関門橋方向へ逆走し、正面衝突したとみて調べている。

県警などによると、「乗用車が逆走している」との110番通報を受けて出動した高速隊員らが事故現場を見つけた。

現場は中国自動車道下関インターチェンジ(IC)から北九州市側へ約600メートルの関門自動車道。乗用車は同ICから高速に入り、逆走したとみられるという。

この影響で、関門橋を含む門司―下関IC間の上り線が約3時間半にわたって通行止めになった。

高速道路の逆走事故が日常的になってしまって、珍しい事ではなくなってしまいましたが、こうなると逆走させないではなくて、逆走車が来ることを知らせる方が対策としては現実的ではないでしょうか?

基本的には、出口から進入するのですから、センサーで拾ってより手前の情報表示板に警報して、必要であれば通行止めにする、といった方法があるでしょう。

出口で逆行する車をセンスするのは、比較的簡単だと思います。
それで、せめて警報を出すのはアリでしょう。

2月 22, 2010 at 01:04 午後 事故と社会 | | コメント (13) | トラックバック (1)

2010.02.21

カナダの洋上学校帆船がブラジル沖で沈没

大石英司の代替空港の記事「※ ブラジル沖で帆船沈没、生徒ら64人救出 日本人女子高生も
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100220/amr1002201153002-n1.htm

>昨年9月にカナダを出発し

 これも、どういう学校なのか知りたいですよね。商船学校の類にも思えないけれど。

というのがあったから、ちょっと検索してみました。
CNN.co.jp より「カナダ船が沈没、乗員乗客64人全員を救助 ブラジル沖

(CNN)
 カナダ空軍当局者は19日、南米ブラジル沖の大西洋上でカナダ人生徒らが乗る船が沈没したが、乗員乗員乗客64人全員を救助したと発表した。

この船は、カナダのウェスト・アイランド・カレッジが洋上で授業を行う10カ月間の履修コースで航行していたもので、2月8日にブラジル北東部レシフェを出発し、ウルグアイのモンテビデオに向っていた。

同大学によると、沈没の原因や正確な日時は不明。しかし、同船は18日から救難信号を発していた。

生徒らは3隻の救命ボートに分乗し大西洋上を漂っていたところを、近くを通りかかった商船2隻に救助された。
その後、ブラジル海軍の艦船に収容されていた。

e-Nikka.ca より「洋上学校の「コンコルディア号」ブラジル沖で転覆、生徒ら救助

航海しながら船上で学ぶカナダのスクールシップ「コンコルディア号」が2月18日、南米ブラジル沖およそ500キロの大西洋上で強風にあおられ転覆した。

乗っていた生徒48人、教員8人、乗組員8人の合計64人は、付近を航行中にSOSをキャッチして駆けつけた商船2隻に救助された。

コンコルディア号はノバスコシア州にある学校、ウエスト・アイランド・カレッジ・インターナショナルが所有する帆船。

1922年に建造されたもので、全長57.5メートル、マストの高さが35メートルで、15の帆がある。

コンコルディア号は2009年9月、ノバスコシア州ルーネンバーグを出航、イギリス、地中海などを巡ったあと、大西洋をアフリカ西海岸沿いに南下、南米ブラジル方面に向かっていた。航海期間は10カ月の予定だった。

「フローティング・クラスルーム」と呼ばれる船の中で日常生活をしながら学習するユニークな教育方法で、今回の「クラスA洋上教育プログラム」には、トロントの女子生徒キートン・ファーウエルさん(17歳)、ニューマーケットのアリスン・グラントさん(18歳)ら48人の生徒が参加していた。

授業料は生徒一人 4万ドルといわれる。

遭難の一報が入った後、生徒たちの救助に関する情報がカナダ側に長時間伝わらなかったため、保護者たちがやきもきさせられる場面もあった。

PRIVATE SCHOOL SEARCH OUR KIDS GO TO SCHOOL というポータルサイトのようなところに「West Island College International - Class Afloat」がありました。

下の方に「VIEW E-BROCHURE」をクリックすると学校案内といえるPDFにリンクしています。
ここに、航路が出ているのですが、これがすごい。

Lunenburgルーネンバーグカナダ
St.Pierre & Miquelonサンピエール島ミクロン島北アメリカ東端
Hortaオルタアゾレス諸島(大西洋中央)
Dublinダブリンアイルランド
La Corunaラコルーニャスペイン
Lisboaリスボンポルトガル
Ajaccioアジャクシオコルシカ島
Agadirアガディールモロッコ
Las Palmasラスパルマスデグランカナリア(アフリカ沖)
Dakarダカールセネガル
Praiaプライアカーボベルデ(セネガル沖)
Cabedeloカベデロブラジル(南アメリカ東端)
Puerto Madrynプエルトマドリンパタゴニア
Tristan da Cunhaトリスタンダクーニャ南大西洋の中央
Cape Townケープタウン南アフリカ
Walvis Bayウォルビスベイナミビア
St.Helenaセントヘレナ南大西洋の中央
Natalナタールブラジル
Port of Spainポートオブスペイン
Hamiltonハミルトンバーミューダ
Rhode Islandロードアイランドアメリカ
Lunenburgルーネンバーグカナダ

要するに、大西洋南北に往復する間に、東西に往復するという、まるで大西洋を縫っているような航路です。
もう一隻の船があるようですが、一人4万ドルで50人参加だから売上げとしては、18億円ぐらいですね。それで10ヶ月の航海、というのはベラボーに高いとは言えないでしょうが、しかしあっちこっちに上陸するとは言え10ヶ月間の50人の学校というのは、学校としては良いと言えるものなのでしょうか?

まあ、色々な意味で驚きのニュースです。

2月 21, 2010 at 02:12 午後 教育問題各種 | | コメント (0) | トラックバック (0)