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2010.09.11

郵便不正事件・無罪判決

サンケイ新聞が「郵政不正事件」で複数の記事を出しています。

夕方のNHKニュースが、記者会見の中継をしていたのには驚きました。
「郵政不正事件・最終弁論」に書きましたが、

最終弁論で、弁護側は

「被告は(証明書を発行する)最終決裁権者。正規に証明書を発行することも可能で、偽造を指示する理由などない。荒唐無稽(こうとうむけい)な構図だ」
と、検察側主張の矛盾を指摘した。

これは、強烈でいわば動機も、機会も無い。と言えます。
検察は「控訴勝負」とか言っているようですが、控訴審で新たな証拠が出ないと、控訴審の判断が事実となりますから、全くの門前払いになる可能性があります。

問題が大きすぎて、今後どうなっていくのかが興味津々です。
以下に、サンケイ新聞の記事を載せますが、注目したところを示します。

【郵便不正】村木元局長に無罪判決 検察側構図をことごとく否定

2010.9.10 14:04

障害者団体向け割引郵便制度をめぐり偽の証明書を発行したとして、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)の判決公判が10日、大阪地裁で開かれた。横田信之裁判長は「検察の主張は客観的事実と符合しない」として無罪(求刑懲役1年6月)を言い渡した。検察側の描いた構図や供述調書の信用性をことごとく否定し、検察の「全面敗北」といえる厳しい内容になった。

村木元局長は捜査段階から一貫して無罪を主張。
大阪地検特捜部は上司や部下らの供述調書を根拠に、村木元局長が証明書偽造を元係長の上村勉被告(41)=同罪で公判中=に指示したと立証しようとしたが、公判に出廷した上村被告ら検察側証人が次々と供述を覆し、村木元局長の関与を否定した。横田裁判長は5月、公判証言と異なる調書43通のうち34通の証拠採用を却下していた。

判決で、横田裁判長は供述調書について

「人間の供述は認識、記憶、表現の3段階で誤りが混入する可能性がある」
と述べ、検察側が証拠の柱とした供述調書について
「相互に符合しても、その他の客観的証拠に符合しなければ信用性を高めるものにはならない」
と指摘。調書に頼った捜査への警鐘を鳴らした。

事実関係ではまず、事件の発端とされた障害者団体「凛の会」元会長、倉沢邦夫被告(74)=1審・同罪は無罪、検察側控訴=による石井一参院議員(76)への口利き依頼について検討。
倉沢被告の手帳に面会予定が記載されていた日時に石井議員がゴルフに行っていたとして「予定変更の記載がなく、手帳という客観的証拠上は面談した事実は存在しなかった疑いがある」と判断した。

また、口利き依頼に基づく上司から村木元局長への指示も否定。上村被告が独断で証明書を偽造し、凛の会発起人の河野克史被告(69)=1審有罪、被告側控訴=に渡したとしても

「一般人なら不自然だが、上村被告の性格、行動傾向を前提にすると不合理とはいえない」
と指摘した。

村木元局長が倉沢被告に偽造証明書を手渡したとの検察側主張についても、2人の手帳をもとに

「客観的証拠と符合せず、不合理」
と指摘し、村木元局長の関与を否定した。

村木元局長は障害保健福祉部企画課長だった平成16年6月、障害者団体としての実体のない凛の会が割引郵便制度の適用を受けるために必要な証明書を上村被告に偽造させたとして起訴された。

【郵便不正】村木・元厚生労働省局長と文書偽造事件の経過

2010.9.10 14:16

平成15年秋自称障害者団体「凛の会」(現・白山会)設立
16年6月上旬凛の会の偽証明書作成
21・4・16大阪地検特捜部が郵便法違反容疑で凛の会設立者の倉沢邦夫被告らを逮捕
21・5・26稟議書を偽造したとして厚生労働省の上村勉元係長らを逮捕
21・6・14証明書を偽造したとして村木厚子元局長ら4人を逮捕
21・7・4村木元局長ら4人を起訴
22・1・27村木元局長が初公判で起訴状の内容を否認
22・4・27大阪地裁が倉沢被告の文書偽造について無罪の判決(郵便法違反罪は有罪)
22・5・11凛の会元会員、河野克史被告に懲役1年6月、執行猶予3年の判決
22・5・26村木元局長の公判で大阪地裁が大半の供述調書を証拠採用せず
22・6・22村木元局長の公判で検察側が懲役1年6月を求刑
22・6・29村木元局長の公判が結審
22・9・10村木元局長に無罪判決

【郵便不正】判決の骨子

2010.9.10 16:18

一、村木厚子元局長は無罪

一、元局長が「凛の会」を障害者団体と認める偽造証明書を発行した事実はない

一、部下だった元係長が証明書を作成したことは認められる

一、元係長が元局長の指示で証明書を作成した事実はない

一、凛の会側や元係長との共謀は認められない

【郵便不正】郵便不正事件とは

2010.9.10 16:20

【用語解説】郵便不正事件

障害者団体が発行する定期刊行物を支援者らに送る際、月3回以上発行などの条件を満たせば1通8円(正規料金120円)で郵送できる割引郵便制度を悪用し、定期刊行物を装った企業広告が格安で大量発送された事件が発端。

制度の適用を受ける際に必要な厚生労働省の証明書の偽造にかかわったとして、虚偽有印公文書作成・同行使罪で村木厚子元局長と元係長の上村勉被告、障害者団体「凛の会」幹部2人の計4人が昨年7月、起訴された。

【郵便不正】「無罪請負人」の異名 村木元局長の弘中弁護士

2010.9.10 16:59

村木厚子元局長の主任弁護人を務める弘中惇一郎弁護士(64)=東京弁護士会=は、検察側の証拠や構図の矛盾点を鋭く突く手法に定評があり、法曹界では「カミソリ弘中」「無罪請負人」と呼ばれる。

これまでにロス疑惑銃撃事件の三浦和義・元会社社長や薬害エイズ事件の安部英・元帝京大副学長=いずれも故人=などの無罪判決を勝ち取った。

現在は郵便不正事件のほか、受託収賄やあっせん収賄罪などに問われた衆院議員の鈴木宗男被告(62)=1、2審有罪、7日に上告棄却決定=の控訴・上告審や証券取引法違反罪で起訴された元ライブドア社長、堀江貴文被告(37)=1、2審いずれも有罪、上告中=の上告審を担当している。

【郵便不正】検察、当初は有罪を確信…論告前に無罪覚悟

2010.9.10 17:05

郵便不正事件をめぐる一連の公判は、取り調べを受けた証人が次々と供述を覆し、検察は劣勢に立たされた。

公判部副部長や捜査に当たった特捜検事が公判を担当し、取調官6人に証言させるなど異例の態勢で立証を試みたが、供述調書の大半が証拠と認められなかった。

当初、有罪を確信していた検察からも、論告求刑公判前には無罪を覚悟する声が聞かれた。

全23回の公判から、主な局面を当時の検察内部の反応を交えて振り返る。

第4回公判(2月4日)

村木厚子元局長から偽造証明書を受け取ったとされた凛の会の倉沢邦夫被告(74)が出廷。
自身の手帳を見ながら、検察側の主張する平成16年6月上旬に受け取った可能性はないと答えた。

検察幹部は

「倉沢被告は手帳に予定をすべて書いていたわけではない。
元局長から手渡されたこと自体は生の記憶としてあり、公判でも一貫して供述した」
と話した。

第5回(2月8日)

当時の村木元局長の上司、塩田幸雄・厚生労働省元部長が、石井一参院議員から要請され元局長に便宜を指示したという検察側の構図を否定し「壮大な虚構」と証言。
これについて検察幹部は「元局長が否認し通すので、ああいう証言にならざるをえないのだろう。巧妙な言い訳だ」。

第8、9回(2月24、25日)

厚生労働省元係長の上村勉被告(41)が証人尋問で、元局長から指示はなく独断で証明書を偽造したと主張。

「供述調書は検事の作文」と発言した。

取り調べ時のやりとりを記す「被疑者ノート」のコピーが法廷のモニターに映しだされ、後に証拠採用された。

「(上村被告が)単独犯としての動機が不自然。被疑者ノートこそ作文で、勾留後に書き足したのではないか」と検察幹部。

第11回(3月4日)

石井参院議員が出廷。倉沢被告と会ったとされた日は「ゴルフ場に行っていた」と明かし、自身の手帳やゴルフ場の伝票で裏付けられることが判明した。

“アリバイ”成立について、検察幹部は

ゴルフの後に会った可能性はあるが、取り調べ検事が手帳を確認しなかったのはミスといわれても仕方ない
と漏らした。

第14回(3月18日)

捜査官が調書作成前に作った取り調べのメモを「廃棄した」と証言。
後に6人全員の廃棄が発覚した。

《メモがなければ公判で弁護側と戦う武器がない。残しておくべきだった》と検察幹部。

第20回(5月26日)

横田信之裁判長が、検察側から証拠請求のあった捜査段階の供述調書43通のうち、34通を却下した。

この際に検察幹部は

非常に厳しい判決が予想される。なんとなく結果が見えた。
控訴審勝負になる
と話していた。

第21、22回(6月22、29日)

検察側が懲役1年6月を求刑し、弁護側の最終弁論を経て結審した。

ここまで崩れるとはまったくの想定外。率直に言って論告に無理はあったが、最終弁論はよくできていた
と検察幹部は言う。

第23回(9月10日)

無罪判決が言い渡された。

【郵便不正】「取り調べに屈してしまった」 村木元局長の元部下

2010.9.10 18:04

村木厚子元局長の無罪判決を受け、かつての部下と上司がそれぞれコメントした。

捜査段階で元局長から指示があったとの供述調書が作成された元係長の上村勉被告は

「無実の人に無罪の判決が出てほっとしました。無実の人を冤罪(えんざい)に陥れようとする取り調べに屈してしまったことを深くおわびします」。
また、検察が元局長に指示したと位置づけた塩田幸雄元部長も
「無罪判決を心から喜んでいます。常に国民に信頼される検察庁であってほしいと願います」
とした。

【郵便不正】「強引な取り調べ明らかに」 日弁連会長が検察を批判

2010.9.10 19:20

厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)に大阪地裁が10日、無罪判決を言い渡したことを受けて、日本弁護士連合会の宇都宮健児会長は談話を発表。

「検察官の強引な取り調べにより、あらかじめ描いたストーリーに沿った内容の供述調書に押印させるという違法な捜査が明らかになった」
と検察側の手法を批判した。

また、宇都宮会長は村木被告の逮捕・勾留(こうりゅう)が続いたことに関し

長期間休職をせざるを得ない状況に追い込まれ、回復できない損害を被った
とし、無罪主張の容疑者、被告に対する勾留・保釈の運用を改めるよう求めた。
さらに、取り調べ全過程の録音・録画の必要性を指摘した。

【郵便不正】「調書裁判」の終焉? 特捜事件でも法廷重視

2010.9.10 20:21

村木厚子元局長(54)の無罪判決に大きな力を発揮したのが、元係長の上村勉被告(41)が「調書は作文」などと拘置所で記録し続けた「被疑者ノート」だった。

大阪地裁は、検察側が証拠請求した供述調書の大半を却下した上、10日の判決では残された調書の信用性もほとんど認めない判断を示した。

国民参加の裁判員裁判の導入で調書よりも法廷のやりとりが重視されるようになり、判決も「調書裁判」の終焉(しゅうえん)を示唆したといえる。

被疑者ノートは取り調べの可視化(全過程の録音・録画)を求める日本弁護士連合会が平成16年に作成、全国で使用されている。

上村被告も弁護人からの差し入れを受け、昨年5月26日の逮捕から7月4日の最終起訴まで検事に言われたことや自分の考えを詳細に書き込んでいた。

「不明なら、関係者の意見を総合するのが合理的では。いわば、多数決」。
上村被告は逮捕の5日後、検事にこう言われて調書への署名を求められた-と記入し、法廷でも同じ証言をした。

取り調べ検事は否定したが、大阪地裁は5月の証拠採否決定の際、公判証言の信用性を認め、あらかじめ想定した調書への署名を強要する取り調べを批判。

上村被告のすべての調書を証拠として認めなかった。

かつての刑事裁判は、公判供述が捜査段階での検察官調書と食い違っても、調書を信用して事実認定されることが多く、弁護士から「調書裁判」とも批判されてきた。

しかし、昨年5月から裁判員制度が始まり、裁判官が調書を証拠採用する基準は厳格化した。
「調書却下の例はここ数年、はるかに増えてきた」というのが弁護士らの実感だ。

今回の公判は、裁判員制度の対象にはならない知能犯罪の特捜事件についても、同じように法廷のやりとりが重視されることを印象づけた。

【郵便不正】弁護側の“捜査”無罪引き寄せる

2010.9.10 21:09

村木厚子元局長の弁護団は、大阪地検特捜部が見過ごしていた物証を精査し、積み上げられた厚い供述調書の「壁」を突き崩した。

偽造証明書の文書ファイルの記録から、検察の主張が文書の保存状況と矛盾していることを指摘。

事件関係者の手帳や持っていた名刺などの物証を丹念に調べる作業も怠らなかった。
今回の無罪判決は弁護側の周到な“捜査”が引き寄せたといえる。

弁護人が着目したのは、元係長の上村勉被告(41)が作成した偽造証明書の文書ファイルに関する記録。

作成日時は平成16年6月1日未明となっており、

「村木元局長が6月上旬、上村被告に5月中の日付で証明書を作成して持参するよう指示した」
とする検察側主張と明らかに矛盾していることを指摘した。

また、特捜部がよりどころとした凛の会元会長、倉沢邦夫被告(74)の手帳の記述についてもうのみにせず、反証を試みた。

特捜部が村木元局長らの起訴後に形式的な事情聴取しか行わなかった石井一参院議員の協力を得ることに成功。

石井議員の手帳の記載を精査し、口利き依頼があったとされた日時に石井議員が千葉県のゴルフ場にいたことを突き止めた。

逆に倉沢被告の手帳に記載がなかった村木被告からの偽造証明書の受け取りについては、倉沢被告への反対尋問で日付を一つひとつ徹底的に確認。

受け取った可能性のある日が「ない」との証言を引き出し、「村木元局長から証明書を受け取った」という倉沢被告の記憶が実は不確かなものに過ぎないと印象づけた。

さらに、特捜部が行わなかった厚生労働省企画課など数カ所の“現場検証”をし、写真や図面を地裁に提出。

倉沢被告が村木元局長に会うために通った-と証言した通路が当時の企画課にはなかったことや、村木元局長を見たという場所からは実際は姿が見えないことなどを明らかにし、倉沢被告の証言の信用性に疑問符を付けた。

弁護側は6月29日の最終弁論で

「大阪地検特捜部は客観的証拠を軽視もしくは無視し、関係者を呼び出してはストーリーに沿った調書を作成することに力を注ぎ、冤罪(えんざい)を発生させた」
と批判。

今回の判決はこれに呼応するように

客観的証拠に照らして供述に不合理な点がある場合には、供述の信用性は大きく低下する
と指摘し、無罪との結論を出した。

【郵便不正】石井一議員「検察必要か問題提起した」

2010.9.10 21:10

「一体この事件は何だったのかと言いたい。検察の存在が必要かどうか社会に問題提起した事件だ」。
村木厚子元局長の無罪判決を受けて会見した石井一参院議員(76)は顔を紅潮させ、語気を強めた。

石井議員は判決について

「無罪になったのは当然」
とし、
「“議員案件”として私がかかわった事実がないと証明され、非常に気分がすっきりした」
と感想を述べた。その上で
「事実と違うことを認めるよう強要する捜査手法はおかしい。犯罪を製造しているようなものだ」
と検察を批判した。

一方、報道についても

「マスコミは検察捜査の検証をするだけでなく、自らの報道の検証もすべきだ」
と話した。

【郵便不正】村木元局長「これ以上、私の時間を奪わないで」

2010.9.10 21:12

これ以上、時間を奪わないで-。大阪地裁で10日、無罪が言い渡された厚生労働省の村木厚子元局長(54)。昨年6月の逮捕から1年3カ月、無罪判決を勝ち取ったが、笑顔になったのは閉廷後だった。検察の取り調べに何度も心が折れそうになりながら、家族の存在と支援者の励ましを受けて無罪主張を貫き通した。

「(1年3カ月は)価値があったと思うが、もうこれで十分」。控訴しないよう検察に求めた言葉と目線は力強かった。

「被告人は無罪」

横田信之裁判長が主文を告げると、傍聴席から拍手が起きた。だが、村木元局長自身は表情を崩すことはなかった。4時間近くにわたって判決文が読み上げられる間、淡々とメモをとり続けた。一方、3人の検察官は終始、厳しい表情で判決に聞き入った。

閉廷後の会見には村木元局長は一転して笑顔で登場。無罪判決を聞いた瞬間について「心臓が1回、大きな鼓動を打った。うれしかったが、どういう理由を述べるのか聞きたいと思い、緊張が解けなかった」と振り返り、「もう一度、元いた職場に戻りたい。(検察側が控訴して)これ以上、私の時間を奪わないでほしい」と訴えた。

「将来の次官候補」として順調に歩んできたはずの人生が暗転したのは昨年の6月14日。大阪地検特捜部に呼ばれ、検事から障害者団体「凛(りん)の会」や厚労省の証明書について尋ねられた。「記憶にない」と否定すると「あなたを逮捕します」。きつく締まった手錠と腰縄に、逮捕されたことを実感した。

「私の仕事はあなたの供述を変えさせることです」。逮捕直後、検事にそう告げられた。

凛の会元会長の倉沢邦夫被告(74)に証明書発行を依頼されたか-と聞かれて「記憶にない」と答えたが「会っていない」と書かれた。

何度訂正を求めても応じてもらえず、「わなにはめられているんじゃないか」と不安になった。

「裁判になったら長くなる」「否認していると実刑が出る」と検事から何度もいわれた。否認を貫く自信を失いかけた時、社会人と当時高校生の娘2人の顔が思い浮かんだ。「もしここで負けてしまったら2人が将来苦境に立たされた時にがんばれなくなる」。娘たちのためにも何としてでも耐え抜こうと決心した。

起訴まで無罪主張を貫き通せたのは支援者からの励ましも大きかった。
接見時に弁護士が「信じているからしっかり闘いなさい」などと支援者らのメッセージが書かれた寄せ書きをアクリル板越しに見せてくれた。
毎日増えていくメッセージに自信を取り戻し、人の優しさや家族の絆を再確認した。

今年2月、厚労省元係長の上村勉被告(41)の証人尋問を傍聴した次女(19)から掛けられた言葉が今も印象に残る。

「ママ、私、もう上村さんのことを怒ってないよ」。母親に罪を着せた怒りよりも、そういう供述をさせられた苦しみに思いをはせられるようになった娘の成長がうれしかった。

「閉廷後、娘にちょっとだけ肩をもんでもらいました」。この日の会見で最大の笑顔を見せたのは、やはり娘の話題に触れた瞬間だった。

【郵便不正】捜査手法の見直し必至

2010.9.10 21:15

村木厚子元局長に対し、大阪地裁が10日言い渡した無罪判決は、大阪地検特捜部が捜査段階でとった供述調書の信用性を全面否定した。

特捜部への批判には直接言及しなかったものの、取り調べ手法に事実上、見直しを迫ったといえる。

今後は取り調べの「全面可視化」を求める声が高まる可能性はあるが、検察側の反発は必至で、すでに幹部やOBからは現場の萎縮(いしゅく)を危惧(きぐ)する意見や、今回を特殊なケースと考えるべきだという声が上がっている。

 ■メモ

供述内容の具体性、迫真性は後で作り出すことは可能」。
横田信之裁判長は特捜部が証人たちから取った整合しすぎる供述調書を、こう批判した

判決は争点となった各証人の供述内容について、手帳や文書データのファイルなど物的証拠と照合するところから検討。

調書単独では不自然に見えなくても、裏付けがない場合は公判供述に比べ「信用性は認められない」と判断した。

検察側にとっては、取調官全員が取り調べメモを廃棄していたことが、調書を補強する材料がなかったという点でも不利に働いたとみられる。

メモの保管については最高検が平成20年7月と10月、各地検に2度にわたって通知したが、警察の場合は公判への出廷を見越して捜査段階から詳細なメモを残しておくよう規則で定められている。

検察OBによると、検察庁にこうした規則がないのは

「容疑者の表情やしぐさに集中するため取り調べ中にメモをとらない伝統があるため」
という。
今後は警察同様、調書の作成過程を記録に残す手法への転換が求められる可能性がある。

■自白

村木元局長の当時上司だった塩田幸雄元部長(59)は、石井一参院議員(76)と電話した交信記録があると聞かされ、検事の作った調書に署名したが、交信記録がなかったことが公判で判明。
「ない」物証を「ある」と偽った“引っかけ”だった

判決は電話に関する塩田元部長の供述について、こうした手法には触れず「検察官の強い誘導もなく供述した」と認定したが、「取り調べ時点で塩田元部長が思いこんだ可能性がある」とも指摘した。

信用性が全面否定された今回の調書は、聴取対象となった証人たちの否定を押し切る形で作成されたが、そもそも特捜検事は否認調書を作成しない傾向にある。

ある検察幹部はその理由を「本人が弁解を聞き入れてくれたと考え、自白をしなくなるため」と解説するが、今後は否認調書を作らないやり方が、かえって不適切な取り調べを疑わせる事態にもなりかねない。

 ■可視化

こうした問題を解決できるのは、全過程を録音録画する全面可視化とされている。

村木元局長の無罪判決直後、大阪弁護士会は

「もし全面可視化が行われていれば、元局長が身体拘束されなかったことは明らか」
との声明を発表。
日弁連と民主党の議員連盟も相次ぎ声明・談話を出した。

だが、法務省政務三役らの勉強会は今年6月の中間報告で、報復の恐れや羞恥(しゅうち)心から容疑者が真実の供述をためらったり、調書の作成を前提としない情報の獲得が困難になったりすることへの危惧を示している。

ある検察OBは

「捜査の現場が萎縮しないか心配している」。
幹部の一人は
冤罪(えんざい)を生み出さないという意味では大切かもしれないが、事件が全然できなくなる。可視化は劇薬であり、毒薬だ
と指摘した。

【郵便不正】「コメントは何もない」小林検事正

2010.9.10 21:20

厚労省文書偽造事件の判決公判に臨む検察側=10日午後、大阪地裁 大阪市福島区の大阪地検では幹部らが夜まで対応を協議。小林敬検事正が「コメントは何もない」と言葉少なに話すなど重苦しい雰囲気に包まれ、記者会見もなかった。

ニュースで無罪判決を知ったという地検幹部は

「供述調書を積み重ねて立証していくのが特捜事件の手法なのだから、それを否定されるとつらい」
とぽつり。
別の幹部は
「予想された判決だが、裁判所もどこかに落とし所を見つけてくれると思っていた」
と不満げに話した。

一方、ある検事は

「普通なら絶えず見通しが正しいか検証しながら捜査を進めるが、今回はそれがおざなりで強引だった」
と振り返った。

【郵便不正】検察は「シロにする捜査」も必要

2010.9.10 21:36

厚労省文書偽造事件の判決公判に臨む検察側=10日午後、大阪地裁 大阪地裁が厚生労働省の村木厚子元局長に言い渡した無罪判決は、検察側が描いた構図をことごとく否定した。「調書主義から口頭主義への転換」という裁判員制度の導入がもたらした刑事裁判の大きな変化を象徴するものとなった。

逮捕当初、検察幹部は

「証拠でがんじがらめ。有罪は確実」
と強い自信をみせていた。「がんじがらめの証拠」とは、検察が描いた“ストーリー”に合わせて得た供述調書だった。しかし、公判では相次いで供述を翻され、調書の証拠採用を却下された。検察捜査に対する国民の信頼は失墜したと言わざるを得ない。

判決は

「異なる人物の供述調書が相互に符号した場合でも、客観的事実に合わなければ十分な信用性があると認定できない」
と指摘。構図に合わせた供述を取ることで事実を「作り上げる」検察の捜査手法の見直しを迫ったものといえよう。

そもそも法廷のやりとりを重視する「口頭主義」は刑事裁判の原則でありながら、これまでは裁判官が検察官調書に強い証拠能力を認め、有罪判断の根拠としてきた。その慣例に「調書さえ取ってしまえば有罪をとれる」という甘えが生じ、裏付け捜査がおざなりのまま強引な取り調べにつながったのか。

検察が突っ走った背景にあるのは

「一係長が誰の指示も受けず、公文書を偽造するはずはない」
という同じ公務員としての思いだ。決裁を取らずに部下が独断でするわけがない。その思い込みが事件の構図をゆがめたのだ。

思い込みが人の人生を狂わせる-。検察はその怖さを常に認識しながら慎重に捜査すべきだ。自らに不利な証拠にも目を向け、必要ならば勇気ある「撤退」もする。そうして初めて国民の信頼を取り戻すことができるだろう。(梶原紀尚)

9月 11, 2010 at 11:24 午前 事件と裁判 |

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