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2010.05.12

パロマ湯沸かし器事故で有罪判決・その3

山口利昭弁護士が「パロマ工業元社長・有罪判決への感想」を書かれています。

本文はリンクを読んでいただくとして、わたしが注目したところを示します。

本事案に特有の問題点として、製品の欠陥はかなり事故に対しては限定的な寄与しかないにもかかわらず、製造元会社の経営トップに過失犯は認められるのだろうか?といった疑問もありましたが、判決はこれを肯定しております。

当判決では、パロマ工業社と修理業者(関連会社といっても良いかと思います)との平時における業務上の関係性をかなり詳細に論じたうえで、パロマ工業社が十分な安全対策を講じていれば、たとえ関連会社の不正改造に起因する事故であったとしても重大な結果を回避することはできたとしています。

ここはかなり規範的な評価がなされている、といった感想を持ちました。

なお新聞報道では「製品に欠陥がないにもかかわらず、メーカーは責任を負うか?」といった問題提起をされているものもみかけられますが、当判決はそこまで言っておらず、修理業者が容易に不正改造できるような安全装置自身が被害発生に一定の寄与をしていた、と言及しております。

この点にも企業としては注意が必要であります。

パロマ工業社だけで事故を防止できるのではなく、ガス事業者や経産省などの事故防止対策が万全でなければ防止することはできなかったのではないか、といった疑問もありましたが、
判決では詳細な事実認定のもと、
事故防止は他の事業者や行政当局に頼るべきものではなく、被告人らによる積極的な行動でも十分に防止できたのであり、被告人らの「刑法上の義務」であった、としています。
製品事故を知ったメーカーとしての有事の「被害拡大防止義務」についても触れられており、
重大な製品事故を認識した経営者としては、
マスコミを利用して製品の使用停止などを広報すべきであり、
また徹底した製品回収に努めなければならない
ことが具体的に明示されています(結果回避可能性に基づく回避義務違反)。
製品事故が多発している状況を知った経営者としては「より上位の者(組織)によって事故防止対策が行われる必要がある」とされ、全社的なリスク管理体制が構築されている必要性が謳われているのが印象的であります。

製品利用者への切迫した危険性の認識ということではなく、製品に関連する事故が多発している状況を認識している以上は「未必の故意」ではありませんが、結果の予見可能性は認められる・・・とされるようです。

たしかに品質管理部長は事故発生の原因事実を認識していたようですが、経営者が容易に品質管理部長と同様の情報を共有できたのかどうか、またたとえ共有しえたとしても、パロマ工業社としては、一定程度の安全対策は講じていたようですから、それらの対策によって少なくとも経営者の(事故発生にかかる)予見可能性が低減されるのではないか、とも考えられそうであります。

しかしそのあたりは予見可能性の判断において考慮されていないようです。

つまり誤使用の可能性があろうと、他の事業者による不正改造が原因であろうと、自ら供給している製品の重大事故発生の事実を認識した以上は、安全対策を最優先すべき経営者の義務(しかも高度な義務)があることが、このあたりから理解できそうに思われます。

山口弁護士は以下のようにおっしゃっています。

私の個人的な感想としては、経営トップへの刑事責任が認められ、企業側にとっては相当厳しい判決が出たなぁ・・・というところです。

控訴された場合、結論がどうなるのかは、私もわかりません。

事件の内容から考えると、刑事罰が全くもって不当である、とは言いがたいと思います。
15件の死亡事故で、時効になっていなかった唯一の事件だとのことです。

ガス器具なのですから、死亡事故は避けられないでしょう。
その中に、メンテナンス不良があった場合にどうするか?と言うことが問題になったわけです。

山口弁護士の説明では、責任は限定されないとしたから、下請けの会社のメンテナンス不良についても責任があるとされました。
ここも微妙なところで、出荷時には正常に作動していたものを、メンテナンスの必要上安全装置をカットすることになった、ところにメーカーの設計上の責任がある、と裁判所は認定したのではないかとも思います。

このような認定に対して、メーカーは反論できるのだろうか?
実際、その後の製品は改良されていて、問題ある製品が、設計上の問題で、メンテナンスとして、安全装置を殺す場合があった、ということです。
これで、メーカー側に全く責任が無い、とは言いがたいと思いますね。

とは言え、メーカー側に責任があるとして、それが刑事罰に相当なのか?というのは法律論的には議論のあるところでしょう。

やはり、これは事故であって、事故原因の解明と対策を最優先するべきであり、回収のルールやメンテナンス業者との関係性など、実務的に整備するべきことは沢山あるはずで、本来は消費者庁がユーザー側からの問題提起をするべきでしょうね。
経産省側つまり製造・供給側の視点としては、「事故は起こさない」と言った抽象的な目標になってしまいそうです。

5月 12, 2010 at 08:23 午後 事件と裁判 |

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コメント

商品の使用者の安全のみを考えて行動することが経営者に義務付けられているのでしたら、個人の「業務上過失」が妥当でしょう。
しかし、会社の経営者は、社員の生活も、ステークホルダーの債権も、会社の将来的発展も、・・・と、いろいろ考えなければいけません。その立場から、総合的に判断して、小林元社長は、リコールを先延ばしにしたはずです。
ですから、被害拡大の責任を取って刑事罰を受けるのが妥当なのでしたら、小林元社長個人ではなく、パロマ工業という会社が受けるべきなのでしょうが、現在の刑法典では、法人を裁くことができません。
いっそ、独禁法や特商法のような特別刑法を新設して、法人に責任を持たせるようにすれば、会社としての判断の結果責任を社長個人に押し付けるような矛盾は、解消できるのではないでしょうか。
パロマの場合は、同族会社ですから、個人と法人の区別が少しあいまいな面もありますが、大会社の「サラリーマン社長」がたまたま就任中に起きた事故の刑事責任を負わされることになったら、社長のなり手がいなくなります。それどころか、自分の任期中だけでも事実を隠して、退職金を満額もらおうとする不心得者が出て来る可能性だって、今の制度では、あり得ると思います。

投稿: mimon | 2010/05/12 23:19:28

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