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2010.04.07

名張毒ぶどう酒事件・全然知らなかった。

イザ!記者ブログ・にしてんま傍聴日記より「半世紀に向けて

にしてんま傍聴日記は、サンケイ新聞の司法担当記者だった福富正大記者が書いているブログです。

今回のエントリーは、「名張毒ぶどう酒事件再審へ」ニュースに関しての記事です。

足利の次は、名張でしたか。


 4月25日のJR福知山線脱線事故の発生5年に向けた準備が佳境を迎える中、どうしても言及しておきたくて、業務終了後にしこしこと更新に励んでおります。


 ついに、名張毒ぶどう酒事件の第7次再審請求をめぐり、最高裁の決定が出た。高裁への差し戻しである。
 決定は4月5日付。なぜ新年度が始まったばかりのこのタイミングでの決定なのか不思議だったんだが、さっき最高裁のHPで第3小法廷の構成をみたら、腑に落ちた。藤田宙靖判事が4月5日付で定年退官だからなんだな、きっと。
 ちなみに毒物カレー事件の上告審が係属していたのも第3小法廷で、カレーよりも毒ぶどう酒の方が先に結論が出るだろうという観測だったのだが。


 さて、名張毒ぶどう酒事件についてはこれまでにも、

  ◇平成18年12月25日付「扉は開くか」
    http://fukutomim.iza.ne.jp/blog/entry/92258/
  ◇平成18年12月31日付「できる限りの長生きを」
    http://fukutomim.iza.ne.jp/blog/entry/94914/
  ◇平成19年1月15日付「Happy Birthday」
    http://fukutomim.iza.ne.jp/blog/entry/102135/

の各エントリで触れてきたのだが、フクトミがこの事件を取材したのは、名古屋高裁刑事2部の異議審からである。

 平成17年4月に名古屋高裁刑事1部が再審開始決定を出したときには、すでに大阪府警担当を終えて司法担当になっていたのだが、まったくの不意打ちで何もできなかった。判決ではなくて決定なので出るのは突然だし(高裁から連絡を受けた弁護団も、メンバーがそろわなかったぐらいだという)、弊社の場合中部本社がないため名古屋は大阪本社の管轄なのだが、大阪の司法担当が名古屋まで出張ることは当時あまりなかったし(これを教訓にその後フクトミは広島やら奈良やらの裁判に首を突っ込んでいくようになったのだ)、そもそも再審開始決定を、しかも地裁でなくて高裁が出すなんて思いもしなかった(ここしばらくの足利事件布川事件をみるとうそのようだ)。

 だが、検察側の異議申し立てを受けた異議審の決定は事前に出る日取りが決まっていたから、それなりの準備をして名古屋に乗り込んだ。まさか再審開始決定が覆るなんて思いもせずに。決定書を受け取った後に高裁庁舎から出てきた鈴木泉弁護団長の姿は、いまも忘れることができない。

 ちなみにまったくの余談ながら、異議審決定を出した門野博裁判長はその後、東京高裁に異動し、平成20年7月には布川事件の第2次再審請求の即時抗告審で水戸地裁土浦支部の再審開始決定を維持。その後も昨年12月に狭山事件の第3次再審請求審で検察側に取り調べ時のメモの開示を勧告するなど再審開始に前向きな判断を続けて示した後、今年2月に定年退官した。


 ここで余談ついでに。刑事裁判に興味がある方(そもそも弊ブログをご覧になっているような方はそういう方なのだろうが)でも、即時抗告審とか異議審なんて言葉はあまり目にする機会がないと思う。
 公開の法廷で言い渡す「判決」であれば、不服申し立てする際の手段はみなさんご存知の控訴と上告である。つまり

   地裁判決→控訴→高裁判決→上告→最高裁判決

という流れだ(刑事事件の場合、最高裁判決に対して判決訂正申し立てもできるが)。
 これに対し書面だけの「決定」の場合、不服申し立ての手段は抗告になる。つまり、通常の再審請求の場合、

   地裁決定→即時抗告→高裁決定→特別抗告最高裁決定

という流れになる。ところが、名張毒ぶどう酒事件の場合、確定判決が高裁判決なものだから、再審請求は高裁にしなければならない。で、高裁の決定に対しては即時抗告ができない代わりに異議申し立てが認められていて、その場合の異議審は高裁で行われる(当然、審理する部は別になるが)。だから

   高裁決定(刑事第1部)→異議申し立て→高裁決定(刑事第2部)→特別抗告最高裁決定

という流れになっているんである。


 で、先ほど記した確定判決が高裁判決だという点が、名張毒ぶどう酒事件の大きな特徴でもある。つまり奥西勝死刑囚死刑を宣告したのは名古屋高裁で、1審の津地裁は無罪を言い渡しているのだ。現在100人余りいる確定死刑囚のうち、1審が無期ならともかく無罪だったケースなど、奥西死刑囚ただ1人である。有期懲役だったケースすらない。
 奥西死刑囚は昭和44年9月10日の名古屋高裁判決の当日、自宅から裁判所に向かっている。逮捕後、無罪判決を受けて釈放されていたからだ。なんで高裁判決の日付がすらすら出てくるかというと、フクトミの誕生日の翌日だからである。以来、奥西死刑囚は獄中にある(死刑囚となったのは、正確には昭和47年の上告棄却後だが)わけだが、その月日の長さが、しみじみと実感できるわけである。

 さて、特別抗告から3年余りを経て出された今回の決定であるが、その評価は難しい。フクトミが決定書そのものにまだ目を通していないこともあるのだが。


 再審開始には「新規性」と「明白性」がある証拠が必要とされる。第7次再審請求において、弁護側が提出した新証拠は5点ある。ぶどう酒のびんに関するものが3点と、中身のぶどう酒そのものに関するものが2点だ。詳しくは以下のようになる。

  ①開栓実験
    同種のびんで実験した結果、栓の開け方によっては封緘紙を破ることなく、再び栓を閉じることで元通りの状態に戻せることが判明した
  ②四本足替栓の鑑定
    びんの内栓の4本の足のうち折れ曲がっていた1本について、人間の歯で折り曲げることは不可能で、「内栓を歯でこじ開けた」とする自白とは一致しない
  ③封緘紙の破断状況
    自白通りにびんの外栓を火ばさみでこじ開けても、封緘紙は自白のようには破れない
  ④ニッカリンTの成分
    混入された毒物が自白通りのニッカリンTなら、その副生成物がぶどう酒から検出されるはずなのに検出されていない
  ⑤ニッカリンTの色
    ニッカリンTには赤い着色料が含まれており、当日出された白ぶどう酒に混入したなら赤くなっているはずだが、その形跡がない


 もっと詳しく知りたい方には再審開始決定と異議審決定、それから今回の決定の要旨をアップできればいいのだが、とてもじゃないが4月25日が過ぎないと無理である(過ぎたからといっていつアップできるかは確約できませんが)。かいつまんで言えば、これらのうち再審開始決定はの①②④の3点を新証拠と判断し、自白の信用性に疑問があると結論づけた。もちろん異議審決定は5点いずれも退けている。これに対し、今回の決定が証拠価値を認めたのは④の1点だけである。そこのところが、難しい。


 弁護側にとってみれば、もちろん棄却よりもはいいし、再審開始への道がつながったことは事実だ。ただ、その道は、再審開始決定と今回の決定の証拠評価の違いをみても分かるように、太く短い道とはいえない。特別抗告審に3年を費やしたことも考えれば、最高裁に再審開始決定を出してほしかったところだろう。

 今後、名古屋高裁で差し戻し審が行われ、その末に再審開始決定が確定したとしても、それから再審公判が待っている。再審公判では足利事件山県氷見市の強姦冤罪事件のように、検察側が最初から白旗を掲げて無罪論告するなんてことには、まずなるまい。

 来年1月14日で、奥西死刑囚は85歳になる。来年3月28日で、事件は発生から半世紀である。
 あの帝銀事件でさえ、事件発生から39年後、第18次再審請求中の平沢貞通元死刑囚の獄死によって冤罪の主張は途絶えている(死後も第19次の再審請求が行われてはいるが)。

 フクトミは、名張毒ぶどう酒事件の再審こそが記者生活の最後のテーマと思い定めていた。この事件には、江川紹子さんの「名張毒ブドウ酒殺人事件 六人目の犠牲者」という高い高い山がそびえたっている。それを乗り越えることはできなくとも、来年3月28日のタイミングに合わせて、きっちりとしたモノを書き記したいと思っていた。

 現場にも足を運んだ。名古屋にも何度も行った。とりあえずは勝手に取材しているだけだから、異議審決定と特別抗告の2回を除けば、出張ではなくて自費である。もう記者として思い残すことがない、と言えるだけのモノを書きたいと思っていた。

 だが、いまの立場では難しかろうなあ。

 もうこんな時間だ。帰宅したら弁護団の活動を追ったドキュメンタリーのDVDを見ようかと思っていたのだが、無理ですな。ちょっとだけでも寝よう。

この中で、

名張毒ぶどう酒事件の場合、確定判決が高裁判決なものだから、再審請求は高裁にしなければならない。
で、高裁の決定に対しては即時抗告ができない代わりに異議申し立てが認められていて、その場合の異議審は高裁で行われる(当然、審理する部は別になるが)。だから

   高裁決定(刑事第1部)→異議申し立て→高裁決定(刑事第2部)→特別抗告→最高裁決定

という流れになっているんである。

これは全く知らなかったし、

死刑を宣告したのは名古屋高裁で、1審の津地裁は無罪を言い渡しているのだ。

現在100人余りいる確定死刑囚のうち、1審が無期ならともかく無罪だったケースなど、奥西死刑囚ただ1人である。有期懲役だったケースすらない。

昭和44年9月10日の名古屋高裁判決の当日、自宅から裁判所に向かっている。

逮捕後、無罪判決を受けて釈放されていたからだ。

これも知りませんでした。

福富記者が

フクトミは、名張毒ぶどう酒事件の再審こそが記者生活の最後のテーマと思い定めていた。

この事件には、江川紹子さんの「名張毒ブドウ酒殺人事件 六人目の犠牲者」という高い高い山がそびえたっている。

それを乗り越えることはできなくとも、来年3月28日のタイミングに合わせて、きっちりとしたモノを書き記したいと思っていた。

現場にも足を運んだ。名古屋にも何度も行った。

とりあえずは勝手に取材しているだけだから、異議審決定と特別抗告の2回を除けば、出張ではなくて自費である。

もう記者として思い残すことがない、と言えるだけのモノを書きたいと思っていた。

というのも、よく分かります。
是非とも、キッチリとしたものを書いて欲しい。

4月 7, 2010 at 11:02 午前 事件と裁判 |

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受信: 2010/04/07 21:31:25

コメント

冤罪を訴えている事件に滋賀県「日野事件」があります。
捜査も裁判もひどい事件ですが、開かずの扉のようです。

投稿: tambo | 2010/04/07 17:25:35


関係者はみんな真犯人が誰か知っている


再審を認めた裁判官は出世コースから外れてしまう
http://www.asyura2.com/09/revival3/msg/288.html

名張ぶどう酒毒殺事件の真犯人は?
http://www.asyura2.com/09/revival3/msg/289.html

日本の農村は怖い _ 狭山事件の背景
http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/340.html

投稿: 777 | 2012/07/07 9:27:03

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