ウナギ偽装事件は解明されるのか?
サンケイ新聞より「【衝撃事件の核心】裏ガネ、口止め、幽霊会社-ウナギ偽装工作に見える「性善説崩壊」」
なんとも長大な記事で、読むのが大変です。
中国産ウナギの偽装表示事件は、今ひとつすっきりしませんが、この記事によるとかなり怪しいですね。
架空会社。奇妙な代金の流れ。茶箱に入れられた1000万円の札束…。
中国産ウナギの偽装表示事件は、単なる偽装表示にとどまらず、経済事件ともみるべき異様なカラクリが表出している。警察捜査は全容を解明できるだろうか。
この事件の直前には飛騨牛ブランド偽装が発覚、昨年から「ミートホープ」「白い恋人」「赤福」「船場吉兆」…と食品偽装が絶えない。「口に入るものにウソはつかない」という常識は今や昔、“性善説”は崩壊している。(菅原慎太郎)中国ギョーザ? 謝罪にも“偽装”疑い濃厚の「魚秀」
「認識していました。申し訳ありません」
中国産ウナギの蒲焼きを「愛知県三河一色産」と偽装表示して販売していた水産物輸入販売会社「魚秀(うおひで)」(大阪市)。社長は、農水省の表示是正指示を受けた後の6月25日、記者会見で頭を下げて謝罪し、偽装表示の動機をこう説明した。
「(中国)ギョーザ事件などで中国産の売れ行きが不振となり、在庫をさばきたかった」
一見、もっともらしい動機ではある。が、これを聞いた農水省幹部は怒りを露わにした。
「ギョーザ事件なんて理由は、うちの調査では出ていない。在庫はその前からあったはずだ!」
実は農水省は調査を通じ、ギョーザ事件発覚の今年1月30日以前から魚秀が大量の在庫を抱え、社長や同社福岡営業所長ら幹部が、偽装販売を準備していたことを確認済みだった。社長自身も農水省にそう認めていたというのだ。
一見素直に謝罪したかのようだったが、あたかもギョーザ騒動での“風評被害”に理由を押しつけた社長。謝罪の中身すら“偽装”をほどこした魚秀の体質に農水省は激怒したのだ。
「事実を隠して、同情を買い、事なきを得ようとしたとしか思えない」
農水省関係者は怒りを隠さない。
口座記録が残らぬようカネを流していた
魚秀の偽装の異様さは、手の込んだその「手口」だった。
魚秀は中国産ウナギの蒲焼きを「愛知県三河一色産」と表示して、256トン分を水産大手「マルハニチロホールディングス」の子会社「神港魚類」(神戸市)に販売し、そのうち49トンを市場を流している。
その際、産地を偽装するだけではなく、製造者の欄には「(有)一色フーズ」という架空会社の名前を記載していた。しかも「愛知県岡崎市一色町字一色119-20」という架空の住所も表示していた。
農水省が初めに偽装情報を入手したのは今年5月23日ごろである。兵庫農政事務所の食品表示110番に「一色産の蒲焼きが安く売られている。一色フードという会社を調べたが、見あたらない」という情報提供があったのだ。これは、内部告発ではなかった。
農水省が一色フードを確認したところ、住所は架空の番地で存在しない。「岡崎市一色町」という地名はあるが、ウナギの産地「一色」として知られる愛知県一色町とは別で、そこから30キロ近く離れた山中にあった。表示された会社らしき建物もなかった。
「これはおかしい」
農水省幹部が疑いを深めた。調査の結果、本当の製造者は魚秀と分かった。
奇妙なカラクリはこれだけではない。魚秀は神港魚類から代金を受け取る際にも、自分たちが本当の製造者と分からないように巧妙な工作を行っていたのだ。
代金7億7000万円は神港魚類から商社2社の銀行口座を経由したうえ現金化され、商社社長らから魚秀の社長らに手渡しされていたのである。商社から魚秀へのカネの流れは口座記録には残らないように細工されていたわけだ。
しかも魚秀側は、商社に発行した領収書に「魚秀」の名は書かず、「一色フード」と記載していた。商社社長らには偽装を知らせず、代金から手数料計約4000万円を差し引かせる条件で、商取引の体裁を取り繕って協力させていた。
「高知の水産会社」「利益の分配」…農水調査では解明できず
こうした構図は農水省の調査で解明されたが、依然として多くのナゾが残されている。例えば-。
出荷された偽装蒲焼きは高松市の倉庫で偽装ラベルを貼った箱に詰められたが、社長らは箱詰めを行う業者を探す際に、高知県の水産卸会社役員に相談するなどしている。
関係者によると、この役員は魚秀の非常勤役員も務め、「裏の仕事をする勢力にも顔が利く」とされる人物なのだという。魚秀による一連の偽装では、他にも大きな役割を果たしたとみられているが、農水省の調査で詳しい実態は分からなかった。
魚秀が得た不正利益についても同様だ。
中国産ウナギは元値が4億4000万円程度。これを「一色産」と偽装表示して売却したことで、魚秀には2商社への手数料を差し引いた7億3000万円が入っている。したがって3億円近くが魚秀の不正利益だった計算になる。
ただ、この中から、水産卸会社役員や箱詰め業者へ1億円が流れたとみられているが、それ以上の詳細は解明しきれなかった。
「我々はあくまで行政調査。ここからは警察に任せるしかない」
農水省幹部はそう話している。
中国茶に1000万円! 共犯者か、被害者か
関係先の家宅捜索に踏み切った兵庫県警と徳島県警は今後捜査を本格化させるとみられるが、こうした不審点の解明に加え、大きなポイントは他にもある。
魚秀からウナギを買って市場に流した神港魚類は偽装を知っていたのか、知らなかったのか。
魚秀と神港の両者の言い分は、大きく食い違う。
神港魚類が知っていれば「共犯」になり、知らなければ「被害者」だ。
魚秀の社長は、「1月に福岡営業所長と神港魚類の担当課長が話し合って偽装を計画した」と主張し、農水省や徳島県警の任意の事情聴取にも同様の説明をした。つまり神港側も「共犯」だというわけだ。
これに対して神港魚類は当初、「担当課長は5月下旬に業界の噂で何となく知り、会社としては6月12日に農水省の立ち入り検査を受けて初めて知った」との立場だった。その後、担当課長は以前から偽装を知っていたのではないかと推測させるような事実が次々と発覚しているが、真実はまだ分からない。
社長は5月27日、新港魚類の担当課長に対して中国茶の入れ物に1000万円を入れて渡している。この金の“趣旨”についても、両者の主張は大きく食い違っている。
担当課長は、これをお茶だと思い持ち帰り、あとから現金だと知った-と主張する。偽装を知ってしまったことに対する「口止め料だと思った」という。
これに対し社長の認識は、偽装販売に協力してくれたことに対する「謝礼」だ。
「1000万円の札束はズシリと重い。お茶と間違うだろうか」
農水省幹部は神港魚類の言い分に首をひねるが、社長の言い分も鵜呑みにすることもできない。
真実はどちらなのか、はっきりと分からないまま、農水省は調査を終えた。
事実解明という点では、中途半端と言わざるを得ない状態で農水調査は終わっている。それは、表示の是正を最大の目的にした日本農林規格(JAS)法に基づく調査の限界を示している。
限界を逆手にとられた「飛騨牛偽装」
農水省や自治体は、偽装表示の疑いがある業者に立ち入り検査をする権限はあるが、事情聴取はあくまで任意。逮捕権限はない。
偽装が判明すれば、消費者のために表示の是正を業者に指示し、業者の名前を公表する。
が、できるのはここまで。
業者が指示に従わなければ命令を出し、それでも従わなければ刑事告発する。告発を受ければ捜査当局が業者を摘発することになるが、業者がその前に指示に従えば原則として刑事罰は問えない。
さらに、偽装表示の中でも農水省が是正指示できるのは、「産地」や「内容量」など対象が限られてくる。すべての偽装を是正させることができるわけではないのだ。
それを逆手にとった形になった事件が、「飛騨牛」ブランド偽装だ。
岐阜県養老町の食肉卸販売「丸明」は、5段階の等級で3等級以上の黒毛和種の牛肉しか「飛騨牛」と認められないのに、2等級の肉を「飛騨牛」と表示して販売していた。
従業員らによる内部告発で発覚したが、社長は岐阜県や農水省の調査に、自分が指示していたことを認めた。だが、今のところ県などもこの偽装について是正指示という「行政指導」をしていない。
なぜならば、「飛騨牛」は「飛騨牛銘柄推進協議会」という業界団体の自主ルールで決まる等級に過ぎないため、JAS法上の「偽装」と見るのが困難だからだという。
「それを分かった上での行為ではないか」
農水省幹部は疑いの目を向けている。
“逆ギレ”飛騨牛最大手トップ
丸明は岐阜から全国に出荷される飛騨牛の約3割を手掛ける最大手。社長も剛腕経営で知られ、「飛騨牛の普及とともに事業を急成長させた」(食肉業者)と、実績や名声を誇っていた。
だが、偽装の判明により、丸明は直営レストランと販売店が次々と営業停止に追い込まれ、大口取引先との取引停止も決定した。
当初は「知らない」「従業員がやった」と偽装への関与を否定していた社長は6月26日、「大変な迷惑をおかけしました。すべての責任は私にある」と自らの指示を認めた。会社側は、古くなった牛肉の加工日の表示を最大で5日後に改竄したほか、消費期限が切れた牛肉を新しい肉に混入して出荷した偽装も認めた。
しかし、その一方で社長らは、牛肉や豚肉の産地を偽装したことについては「全く指示していない」などと否定。「(牛に添付される)個体識別番号に誤りがあった可能性はあり、調査している」と反論した。
会見場にいた従業員が「社長の指示で豚肉も偽装した」と発言すると、社長は「偽装はありません!」。挙げ句の果てに会見を打ち切り、従業員の問い掛けにも答えず立ち去ってしまった。
退任を表明している社長だが、疑惑を払拭し“けじめ”をつけたとは言い難かった。
逃げ得、捜査困難、ウソ続けるトップ…性善説は崩壊した
一度偽装が発覚すれば、小手先のウソでその場をしのごうと思っても、結局は会社や経営者が大きなダメージを受けるのは、過去の例から見ても明らかだ。
豚肉や鶏肉を混ぜた挽肉を牛肉と偽ったミートホープ事件、秋田県の業者が廃鶏を比内地鶏と偽った事件、船場吉兆の不正競争防止法違反事件…。最近では警察が摘発に乗り出すケースも目立つが、それでも偽装や経営者のウソは絶えない。
行政側が調査を始めた途端に逃亡する業者もおり、「逃げ得」もはびこる。昨年9月には、魚秀と取引したウナギ卸会社が産地偽装を行った疑いが浮上し、農水省が調査したが、業者はすぐに会社を清算して役員らは行方不明になった。
行政側は「最後は警察で摘発を」と期待するが、刑事事件化するには業者が利益目的で虚偽表示をしたことを示す膨大な証拠の収集が必要で、捜査機関といえども簡単に着手できないのが現実なのだ。ウナギ偽装に限っても、昨年9月以降で発覚は12件目だが、刑事事件化は魚秀が2件目に過ぎない。
農水省は、適正な表示について業者や業界団体へのセミナーなどを行っているが、捜査関係者は冷ややかだ。
「初めから偽装をしようとする人に、そんなことをしても抑止効果は薄いのでは」
もはや“性善説”が限界に達していることを示唆している。
平成17年に発覚した一連の耐震偽装事件では、行政・立法側が“性善説”から“性悪説”へと大きく舵を切り、法改正などで各方面のハードルを上げた。
では、食品偽装に対する処方箋はどうするのか。
政府・与党は現在、消費者庁の設立によって行政権限の拡大などを検討しているが、抜本的な対策になるのかは不透明である。
7月 5, 2008 at 03:22 午後 事件と裁判 | Permalink
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