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2008.06.18

発信者情報開示手続の改善について

今話題の(^_^;)小倉秀夫弁護士のブログ la_causette にわたしの興味を強く惹く意見がアップされました。
発信者情報開示の運用の見直しの必要性

発信者情報開示の手続に関しては,そろそろ,開示請求者側の代理人として,主たるアクセスプロバイダやレンタルサーバ業者(商用ブログ事業者やレンタルサーバ事業者を含む。),巨大電子掲示板管理者等に,運用の改善を求めた方が良いかなという気にはなっています。壇先生や久保先生などもお誘いした方が良いかもしれません。

とりあえず,弁護士が代理人についているのに本人の写真付き身分証明書の写しの交付を要求するのはやめてもらいたいし(本人から委任を受けていないのに委任状を偽造してまで発信者情報の開示請求をするなんてリスク犯しませんよ),投稿者のメールアドレスとして捨てアドが登録されていて意見照会ができない場合や,意見照会の結果真実性の抗弁の存在を基礎づける資料の提出がなかった場合には,速やかに発信者情報の開示に応じていただきたいものです。意見照会の結果のコメントが「申し訳ありません。発信者情報だけは開示しないで下さい」なのに,「当該犯罪を犯していないとの公的な証明書が提出されない限り,権利侵害が明白とは言えないので,開示には応じられません」という回答はもう止めてもらいたいものです。

また,IPアドレスと投稿時間しか把握できていないレンタルサーバ業者等について言えば,発信者情報の開示請求を受けたら,当該投稿に用いられたIPアドレスからアクセスプロバイダを探し出して,当該投稿にかかるアクセスログを消去せずに保管しておくようにアクセスプロバイダに連絡し,そのような連絡を受けたアクセスプロバイダは当該投稿のなされた時間帯に当該IPアドレスの割り当てを受けていた人物を特定するのに必要な限度でアクセスログを切り分けて保管するようにしてもらいたいものです。

ブログ事業者等には,匿名プロキシサーバを経由してのコメント投稿を禁止するようなシステムを採用してもらいたいものです。ブログのコメント欄で名誉又は名誉感情を毀損されるのはブログ主だけとは限らず,むしろ第三者の名誉又は名誉感情がコメント欄で毀損される例も少なからずあるので,匿名プロキシサーバ経由のコメントの投稿を認めるか否かをブログ主の選択に委ねるのも如何なものかという気がしつつあります。

小倉弁護士の意見は良く言っても少数派ですから、話題になるというか敵も増えちゃうようですが、わたしはリアルな知り合いで色々と話もしている仲ですから、面白い意見を言う方と捉えています。
このエントリーもなかなか興味深いものです。

最初にわたしの基本的な考え方を述べますと、「発信者情報開示の運用が問題だ」というところはまったく同感で、見直しというかいわば洗練は不可欠であろうと思っています。
この部分については、小倉弁護士が「そろそろ見直し」との意見であるなら、わたしはもっと過激で「最初から分かっているダメなところ」であると思います。

いくつか引っかかったところをネットワーク管理者の立場から意見を述べます。

弁護士が代理人についているのに本人の写真付き身分証明書の写しの交付を要求するのはやめてもらいたい

わたしは実行することはしませんでしたが、同じ意見を出した事があります。
今は、わたしは絶対にそういう意見を出さないでしょう。

この部分は、弁護士さんにはご理解いただけないだろうと思います。
その現れが次の部分です。

本人から委任を受けていないのに委任状を偽造してまで発信者情報の開示請求をするなんてリスク犯しませんよ

この部分は、わたしは今では弁護士さんの仕事をかなり理解していますから、同意できるのですが以前はそう考えなかった。
要するに「本物の弁護士かどうか分からない」とか「弁護士がウソを言うのではないのか」といった、ある意味で当然の疑念が先に出るのです。
弁護士を名乗ってそういうことをするのは、弁護士にとってとんでもないリスクになる、ということ自体が知られていません。

だから「そんなリスクは犯しませんよ」ではまったく説得力がないのです。

【追記】

もう一つ、弁護士さんは当然のこととしているのに、庶民が理解していないことがありました。

弁護士は依頼人の立場で対応する

冷静に考えると、誰でも分かることですが庶民が誰でもきちんと理解してはいないでしょう。むしろ「弁護士は法律の専門家なのだから常に中立の立場だろう」と思っているところがあります。

このために、通知を受け取った側が「これは弁護士を自称したクレーマーではないのか?」と反射的に思ってしまう。
もちろん、クレーマーという表現がまずくても苦情をいうことに代わりはないわけですが、「弁護士は仲裁して当然だろう」とどこかで思うわけです。

このために、最初に「これは本当に弁護士のいうことか?」と反応してしまうわけで、その現れが「別途証明をよこせ」になるのでしょう。
こんな事だから「弁護士だからリスクを冒しません」はまったく世間には知られていないと考えるべきで、これを元に強調しても話は進まないでしょう。

むしろここは逆で、弁護士会からの保証書のようなものをセット出だすような方向で考えた方が現実的かもしれません。
一番困るというか途方に暮れるのが「弁護士本人以外のどこに相談すればよいのか?」分からない。なのです。

投稿者のメールアドレスとして捨てアドが登録されていて意見照会ができない場合や,意見照会の結果真実性の抗弁の存在を基礎づける資料の提出がなかった場合には,速やかに発信者情報の開示に応じていただきたいものです。

この二つを一つにされてしまうと、困ってしまうのですが

「意見照会ができない場合」に発信者情報開示をするというのは、発信者情報をプロパイダが持っているけど、意見照会したら返事がない。という場合ですよね?
これは、プロバイダがどうこうできることではないのだから、プロバイダはさっさと発信者情報を開示するべきでしょう。
正直な話が、こういう対応をするプロバイダには「何を考えているのだ?」と聞いてみたいところです。

「意見照会の結果真実性の抗弁の存在を基礎づける資料の提出がなかった場合には,速やかに発信者情報の開示に応じていただきたい」

これをプロバイダに求めるのは、無理でしょう。
確かに実務的には難しい問題で、例えば全くの白紙を内容証明郵便で送りつけてきた,なんて極端なケースにプロバイダが対応できるものか?と想像してみると、頭を抱えるだけですよ。

だからと言って「じゃ、発信者情報開示にするぞ」と言えるのか?というと、プロバイダが発信者にペナルティーを課したことになるわけで、それは出来るものなのだろうか?
むしろ、実務的にはプロバイダの会員規約に違反していると判定する方が、プロパイダの立場としては優先するだろう。
その結果として、問題の発言をプロバイダが削除する、というのは実例があります。

プロバイダに取っては、プロバイダ責任制限法と会員規約の二つが大きな柱で、その背景に著作権法などがあるといった理解をしているのでしょう。
このために、プロバイダに取っては、このレベル(?)の問題に対して、プロバイダ責任制限法で行くか、会員規約で行くか、を決めるのは、大きな判断の分かれ目です。。

IPアドレスと投稿時間しか把握できていないレンタルサーバ業者等について言えば,発信者情報の開示請求を受けたら,当該投稿に用いられたIPアドレスからアクセスプロバイダを探し出して,当該投稿にかかるアクセスログを消去せずに保管しておくようにアクセスプロバイダに連絡し,そのような連絡を受けたアクセスプロバイダは当該投稿のなされた時間帯に当該IPアドレスの割り当てを受けていた人物を特定するのに必要な限度でアクセスログを切り分けて保管するようにしてもらいたいものです。

この追跡不可能問題は、一番最初からありましたよ。
わたしは最初はプロバイダの説明を聞いても「なぜ追跡できないのか」理解できませんでした。

プロバイダ責任制限法の最初の説明の時に「追跡できます」と素直に聞いていたから、現実にぶつかってビックリしましたが、考えてみると要するに一種の名簿のようなものですから、データを押さえないわけです。
割と「分からなくする」「データを持たない方が良い」になっているのですね。
実際に、発信者情報開示請求が起きた頃には、データの整合性が分からなくなっている。

こういった傾向は、個人情報保護法などとの関係で、今後もどういう方向に向かうのかなんとも言いがたいですね。

少なくともプロバイダが「分かりました。データを保存します」と言っても実効性はないでしょう。

ブログ事業者等には,匿名プロキシサーバを経由してのコメント投稿を禁止するようなシステムを採用してもらいたいものです。ブログのコメント欄で名誉又は名誉感情を毀損されるのはブログ主だけとは限らず,むしろ第三者の名誉又は名誉感情がコメント欄で毀損される例も少なからずあるので,匿名プロキシサーバ経由のコメントの投稿を認めるか否かをブログ主の選択に委ねるのも如何なものかという気がしつつあります。

この部分は、実務的にはよく分かるし「そうやった方が良いのかもね」と思わないでもないですが、一律規制のような考え方では実行しがたいですね。
もし、実施しようとした場合は、匿名プロキシーお断りなわけで、これ自体はあっちこっちであることだから、問題ないでしょうが、それをブログ事業者が実施するというのはやはり無理じゃないかな?

じゃあ当初の「発信者情報開示手続の実務の改善」はどういう方向で進めるべきなのか?と言うと、ネットワーク管理者がプロバイダ責任制限法について勉強をすること、それに合わせて弁護士さんや総務省などもネットワーク管理者に実務についての指導をすること、が必要だと思います。

現実には、ネットワークに強い法務社員がいるような会社ぐらいしか、まともに対応できないのです。

プロバイダ責任制限法は元々、法律判断の一部をプロバイダ等に任せるという側面があるわけですが、その判断基準の実務教育なんてのは、上記のような「元々出来る会社」ぐらいしかやっていないわけです。
それ以外の最終的には個人までのネットワーク管理者は蚊帳の外のまま、現在に至っているのですから運用面がいつまで経っても改善されなくて当たり前、と言えます。

いわば法律の運用という観点で見れば、超根本的とも言えるところですが、それができていないのは現実です。

6月 18, 2008 at 09:51 午後 セキュリティと法学 |

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コメント

こんにちは。現場を全く知らないのですが、幾つか気になったことを。

串ですが、docomoはi-modeもフルブラウザも匿名串です。プロバイダによっては未だ串を使っているかもしれません。おかげで見れないサイトが。。。

プロバイダにとって怖いことは、客に逃げられることだと思います。

プライバシーが守られない、ということも客離れを招きかねません。

法的に問題はなくても、道義上の問題はあり得ます。何より客に嫌われることは避けたいでしょう。

客がメールを一週間見ないことなど、よくある話だと思います。

また、理解の問題は客との間にも存在します。実際に、とあるプロバイダ自身が設ける掲示板上で情報開示問題を巡ってプロバイダと(当事者でない)客との間で揉めたことがあります。


あと、法的実務に疎いプロバイダ担当者にとって、弁護士のリスクより、後の法的問題が気になるでしょう。過失ありとされると目もあてられません。

慎重になるのは仕方がないかと。


もう一点、プロバイダの情報開示はてっきりプロバイダ規約に記載されている、弁護士法、第23条の2を利用すると思っていたのですが、違ったのですね。

投稿: 多分役立たず(HNです) | 2008/06/20 16:34:52

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