精神鑑定書流出事件のトンデモ
サンケイ新聞より「【僕はパパを殺すことに決めた】筆者が講談社を批判」
奈良県で起きた医師宅放火殺人事件の加害少年の供述調書を引用したノンフィクション「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)について、「取材源との約束に反した本作りを行ったことは、重大な出版倫理上の瑕疵(かし)がある」と断じた調査委員会(委員長・奥平康弘東大名誉教授)の報告書には「事実誤認がある」として、同書の筆者、草薙厚子さんが21日、東京都内で会見し、調査委に抗議する申入書を送ったことを明らかにした。
草薙さんは「(調書のコピーをしないなど取材源との)約束は事実でない。報告書は乱暴な作りだと思う」と指摘。申入書では、事実認定に使われた草薙さんのICレコーダーの会話記録は無断使用であり、本人への事実の確認もなかったとして、謝罪や事実の訂正を求めている。
「精神鑑定書流出事件」の続きであるわけですが、経過を並べます。
- 奈良市で医師の自宅に17歳の長男が放火して家族3人が死亡する放火殺人事件が起きた
- 少年は精神鑑定を受けた
- 精神鑑定調書をそのままコピーした本を草薙氏が著し、講談社から発売された
- 鑑定した医師は医師が秘密を漏洩したとして、刑法の秘密漏示罪で起訴された
- 講談社は第三者調査委員会(委員長=奥平康弘・東大名誉教授)で調査した結果、取材手法に「重大な瑕疵」と発表
読売新聞より「取材手法に「重大な瑕疵」、少年調書漏えいで講談社調査委」
奈良県田原本町の医師方の放火殺人事件を巡り、長男(17)の供述調書などを引用した単行本「僕はパパを殺すことに決めた」が出版された秘密漏示事件で、出版元の講談社が設置した第三者調査委員会(委員長=奥平康弘・東大名誉教授)は9日、調査報告書を公表した。
報告書は、著者の草薙厚子さん(43)や同社編集者らについて、取材源の秘匿や取材手法に「重大な問題があった」と厳しく指摘し、「公権力の介入を招いた責任は大きい」と批判した。
調査委は、まず、取材の経緯を詳細に検証した。
報告書によると、草薙さんは、調書の利用について、
- コピーはしない
- 直接引用しない
- 事前に原稿を見せる
という約束で、鑑定医から調書を見せてもらった。
しかし、草薙さんらは鑑定医の留守中に自宅で膨大な調書をデジタルカメラで撮影。
撮影したことは鑑定医に伝えなかった。調書を基に「週刊現代」と月刊「現代」に事件に関する記事が掲載されたが、調書を直接引用することはなく、原稿も事前に見せていた。
ところが単行本の出版に際しては、原稿の事前チェックをさせないまま調書が大量に引用された。報告書は、こうした約束違反の取材手法について、「重大な出版倫理上の瑕疵(かし)がある」と批判した。
調書をそのまま引用するなど取材源を秘匿する工夫がなかった点についても「対応は余りに無防備、無理解だった」と指摘。
結果的に取材源が特定され、起訴されたことについては、「取材源を絶対に守り抜くという強い意志に欠け、公権力の介入を招く脇の甘さがあった」と述べた。さらに、報告書は、供述調書の大量引用で関係者のプライバシーが侵害されたとし、「大量の調書を入手できた高揚感が冷静な判断力を失わせ、十分な周辺取材を行わず、社内のチェック機能も働かなかった」と様々な問題点を指摘。鑑定医を起訴した検察当局については、「情報源を厳しく取り締まるのは、表現の委縮を招く」と危機感を示した。
講談社の横山至孝常務らは東京都内で記者会見し、「出版した意義はあると思っているが、情報源が明かされ、起訴されたことは弁解の余地がない。調査委の指摘を重く受け止め、今後の出版活動に生かしていく」と述べた。
少年の代理人の浜田剛史弁護士は「少年や被害者への配慮が欠けている点が指摘されるなど一定の評価はできる。講談社で、なぜこのような判断が当初できなかったのか非常に残念」と話した。
医師が刑法の秘密漏示罪で起訴されたとのニュースに対しては「どういうことなのか?」という疑問がネット上を飛び交い、ごく常識的には講談社側が取材の範囲で適当と判断した秘密情報の取材について、検察が過度に踏み込んだのではないのか?という意見も多数ありました。
しかし、講談社の調査で秘密漏示というよりも窃取あるいは詐取の形で情報を持ってきたことが明らかになりましたので、「取材方法に重大な瑕疵」と表現し、取材者である草薙氏の取材方法を公開したのでしょう。
それについての草薙氏の「抗議」ということになりますが、医師の主張と草薙氏の主張が両立するのであれば医師への取材は出来なかったでしょう。
当然記事になりませんし、出版もありませんでした。
しかし、事実は出版されそのために医師は刑事訴追されています。
したがって、草薙氏の主張は「草薙氏については草薙氏の主張を守るべき」であり「医師に対しては医師の主張を無視して当然だ」ということになってしまいます。
これは事実関係という種類の話ではないでしょう。
よく自分の責任を軽く見せるために「他人もやっている」という主張をすることがありますが、それですらありません。
強いて言えば「自分は自分、他人は他人」ということでしょうが、マスコミという大衆に接する立場は「第4の権力」ともいわれるもので「自分のことだけ」と言ってしまっては、その時点でマスコミの資格無しであります。
サンケイ新聞の片山雅文記者はイザブログで「他人の権利を侵しても自分の権利は守る記者もどき」と言っています。
この件に関する記事を読むたびに非常に不快な気持ちにさせられるのですが、これまた相当の不快指数です。
奈良県で起きた医師宅放火殺人事件の加害少年の供述調書を引用したノンフィクション「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)の筆者である草薙厚子氏が、講談社が設置した第三者調査委員会(委員長・奥平康弘東大名誉教授)の「取材源との約束に反した本作りを行ったことは、重大な出版倫理上の瑕疵(かし)がある」とした報告書について、「事実誤認がある」として抗議する申入書を送ったというのです。
草薙氏は「(調書のコピーをしないなど取材源との)約束は事実でない」と主張し、事実認定に使われた氏のICレコーダーの会話記録は無断使用であり、本人への事実の確認もなかったとして、謝罪や事実の訂正を求めているそうです。
なるほど、立派な権利主張ですが、彼女にそうしたことを言う資格があるのでしょうか。少年の精神鑑定を行った精神科医、崎浜盛三被告(50)から入手した鑑定書をそのまま引用し、あろうことかコピーの写真を著書の表紙に使うという「暴挙」を犯した結果、崎浜医師は秘密漏示罪で逮捕・起訴され、被告席に座ることを余儀なくされています。
問題の鑑定書を部外者に見せることの是非はここでは取り上げませんが、ジャーナリストなら「どんな内容か知りたい」と手に入れる努力をするでしょうし、これ自体はジャーナリストとして当然の行為だと思います。
ただ、国民の「知る権利」を代用行使してニュースの発掘に当たる新聞記者をはじめジャーナリストが、何よりも守らなければならないことは、取材源の秘匿です。約束があろうがなかろうが、関係ありません。取材源を守るのは、ジャーナリストとしての信義なのです。そんな「いろはのい」も守れない人を、断じて「ジャーナリスト」として認めることはできません。
ましてや、今回は軽率な行為が公権力の介入という事態を招いており、「報道の自由」を守るという観点からも、公権力に口実を与えたという重大な瑕疵があります。
調査委の結論は至極全うなものであり、講談社では出版の管理責任があった担当役員ら4人を減給処分にしています。これとて、崎浜医師が置かれた状況に比べれば軽いでしょうが、草薙氏は逮捕も免れ、処分を受けることもありません(まあ、この世界での信用はなくなったでしょうが)。
他人の権利は侵害しながら、自分の権利だけはしっかり主張する-この類の人はどんな社会にも存在します。もちろん、マスコミの世界も例外ではありませんが、こういう人たちは真のジャーナリストではなく、「もどき」です。
「(問題点を広く認識してもらうため)供述調書を見せたことは後悔していないが、見せた相手については後悔している」。崎浜医師の言葉を重く受け止めたいと思います。
この中に書かれているとおり「撮影した調書を表紙に使う」なんてことをしましたから、単に情報が漏れたという判断ではなくて、物理的に流出した証拠になってしまったのですから、検察としても立件せざるを得ない状況になったと言うべきでしょう。
当初から「トンでもない話だな」と思って、それなりに記事にしていましたが、フタを開けたらもっとビックリというところです。
4月 24, 2008 at 11:16 午後 事件と裁判 | Permalink
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コメント
こちらにお邪魔してコメント申し上げるのは初めてとなります。
エントリー拝読して、呆れ返りました。引用記事の言う『不快指数が高い』どころか、メーター振り切れちゃってます(苦笑)。
いやもう、草薙厚子は社会的に・・・が無理ならば最低でも業界的に抹殺する必要があるな、とさえ感じました。
投稿: 惰眠 | 2008/04/25 12:22:41
ウィキペディアには草薙氏の「武勇伝」がゾロッと載ってますよ。
わたしが最初に気にしたのは「少年A 矯正2500日全記録」の評判だったとも思います。
2004年の話ですね。
投稿: 酔うぞ | 2008/04/25 13:41:54
取材をすると第三者委員会は、切り貼りして創作してたようです。
だから、草薙氏が持っているICレコーダーの内容と違うということです。だから、その出所を公にするべきだと申し入れ書に書いていました。このICレコーダーを持っているのは限られていて、検察か弁護士、講談社しかいないようです。それで、講談社のテープ起こしとも違うということで、創作だということになったのです。講談社の言い分はHPに載っていますが、3つの約束は無かったとしています。そこは、第三者委員会と真っ向からぶつかっています。だから、誰かが、創作した文章を出しているということです。
投稿: ある記者 | 2008/04/25 13:42:15
ある記者さん
今ひとつ分かりにくいので、よろしければ対象して誰が何を言っているか、説明していただけないでしょうか?
投稿: 酔うぞ | 2008/04/25 13:48:46
こういうことじゃないですか?
「草薙氏周辺に」取材をすると『第三者委員会は、切り貼りして創作してた』「と草薙氏は言い張っている」ようです。」
いずれにせよ、問題にする必要もないほど枝葉末節以下のことがらです。草薙厚子と言う人間の程度が知れます。
産経新聞の記者が憤激している通り、この事案の論点は『約束があろうがなかろうが、関係ありません。取材源を守るのは、ジャーナリストとしての信義なのです。そんな「いろはのい」も守れない人を、断じて「ジャーナリスト」として認めることはできません。』であり、『入手した鑑定書をそのまま引用し、あろうことかコピーの写真を著書の表紙に使うという「暴挙」を犯した』ことです。
投稿: 惰眠 | 2008/04/25 15:49:37
取材に協力した医者は、
この少年が、これから人殺し・親殺しとしてだけ社会に見られていくのはおかしい所がある。
として、協力したにも拘らず、草薙は
「僕はパパを殺すことに決めた」という、意図とは全く逆の、センセーショナリズムと、人殺しのイメージの強化に努めてますしね。
投稿: すん | 2008/04/25 22:23:27
例えば「他人の秘密は絶対に明らかにしてはならない」というのを実行するのは不可能なわけです。
その逆に「秘密はあり得ない」とやっても、同じように不可能で。
その中間に現実があって、秘密を守る側も秘密を暴く側も社会的に適当とされている線を踏み越えるでしょうし、そもそも「適当な線」も時代やその他の状況で変わっていきます。
こういう当たり前のことについて、うまく調整することが現実的なのですが、非現実的な対応も何種類かあります、その一つが原理主義でしょう。
ある原理から全く離れないで主張し続けるというのは、回りに摩擦を引き起こします。
代表格がカルト宗教でしょうか。
そんなことを考えてみますと、今回の草薙氏の「抗議(批判)」はこれまでの草薙氏への批判(評判)とさほどずれていないのですね。
草薙氏はもっとうまく出版できたと思います、この手の取材の常道で、ある意味では確立している手法で十分だったでしょう。
しかし現実は今までにない強い批判に遭ったわけで、これまでの草薙氏への批判と同様なことになるのを避けて、うまくやるという選択をしなかったとしか考えられません。
そういう意味では、同じようなことでも繰り返すたびに批判は強くなる、という当たり前の範囲を飛び出して、より一層の批判を覚悟でやったのでしょうか?
ちょっとどういうことなのか、理解しがたいです。
投稿: 酔うぞ | 2008/04/25 23:58:28
>講談社の言い分はHPに載っていますが、3つの約束は無かったとしています。そこは、第三者委員会と真っ向からぶつかっています。
『僕はパパを殺すことに決めた』に関する弊社の見解を見る限り、講談社が「3つの約束は無かった」と主張しているようには見えませんがね。
>①コピーをしない②直接引用をしない③事前に原稿をチェックさせる、という三点の合意があったと調査委員会のインタビューに答えておられます。この点について草薙氏および取材チームは、情報提供にあたって明示的な約束があったとは認識していませんでした。
投稿: と | 2008/04/27 12:24:50
初めまして宜しくお願い申し上げます。私は奈良県に在住して居ります、障害者です。
当方の問題は、掲示板で確認いただきます様にお願いする者です。
まずは、掲示板サイトへ検索に際し、(早川公朗)のみを記入して頂きますれば、ブログが現れますが、其のサイトにあるタイトルで、(政治時事社会問題にもの申す。)記述を確認戴きたく存じます。奈良県行政問題掲示板を検索いただきましても可能です。
宜しくお願い申し上げます。
本日、いとい新聞へ投稿していますので、
糸井重里氏の関係で、御社に投稿した次第であります。
平成20年8月17日
奈良県北葛城郡広陵町馬見北3-7-18
早川公朗(69歳) 電話番号0745-55-5312ファックス共。
投稿: 早川公朗 | 2008/08/17 17:18:46