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2008.03.08

渋滞の証明

YouTube の面白い映像を紹介してもらいました。

この自動車を22台円周上のコースを走らせたら渋滞が発生するというのは、朝日新聞関西版の記事「渋滞、車多いと自然発生 阪大などのチームが実証」に解説があります。

渋滞は道路を走る車の数が一定密度を超えると起きることが、自動車を走らせる実験からわかった。トンネルや坂といったボトルネックなどの特別な外因がなくても自然発生するという。英国のオンライン物理学誌ニュー・ジャーナル・オブ・フィジックスに4日発表した。

名古屋大学情報科学研究科の杉山雄規教授や大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠教授らの研究チームが実施した。大学の敷地内に1周約230メートルの円を描き、これを車線にして乗用車を時速30キロで走らせた。慣れたドライバーが円の上を走るだけなので、渋滞を起こす外因はない。

車間距離によって車の加速度が決まる数理モデルをたてたところ、車が約20台を超えると渋滞が発生すると予測された。

実験では、22台が連なって走った。最初は約10メートルの車間距離を保って走行したが、数分たつと流れの悪くなる部分が現れ、やがて4、5台は一瞬、完全に止まるようになった。前の車両が動けば再び走り出すが、渋滞部分は車の流れと逆方向に順々に後送りされ、時速20キロほどで後方に向けて移動した。

菊池教授は「車の密度が一定値を超えると、ちょっとした速度変化が後の車に次々に伝搬し、渋滞を起こす。ある温度以下になると水が一斉に氷に変わる現象と同じだ」と説明している。

「大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠教授」はおなじみの kikulog さんですから、ご本人の説明があります。
渋滞の論文が出ました(または相転移現象としての交通渋滞より抜粋

大阪版なので「阪大」を強調しているのはご愛嬌ということで。本文はきわめて的確な要約になっています。

ちなみに、この実験は名古屋大の杉山さんを中心として、さまざまな大学のスタッフが集まって行ったものなので(著者8人で所属が9カ所。学生はひとりもいません)、「名大の実験」でも「阪大の実験」でもありません。

【中略】

今回の実験そのもので、2003年に行いました。
これは「現象を見る」だけではなく、きちんとしたデータを取ることを最大の目標に、全周ミラーをつけたビデオカメラなども揃えて臨んだものです。
その成果は論文の中の図になっています。このとき、実験を聞きつけたフジテレビが録画して放映したいというので、実験の一部をテレビ番組に使うことを許可しました。交通バラエティとかいう短命の番組でした。
この番組を見たかたは、つまりこの実験そのものを見たわけです。

なかなか分かりやすい説明ですが、菊池先生の記事でも

[長い長い追記]

誤解されないように繰り返しておくと、この実験は「確認」であって、背景には数理モデルがあります。

かつては渋滞は「ボトルネック」が引き起こすものと考えられていましたが、90年代にいくつかの数理モデル(微分方程式、セルオートマトン、結合写像など)が提案され、そのどれもが渋滞は「相転移」であるという結論を出しました。

もっともよく知られているのが杉山さんたちのOVモデルです。OVモデルは数理的な解析がしやすく、設定によっては厳密解も得られています。

一方、僕たちはセルオートマトンや結合写像のモデルを扱っていました(ちなみに、モデル間の関係は西成さんによってある程度解明されています)。

ちょうど水が0度を境に氷になるように、自由走行と渋滞の間で転移が起きますが、それを決めるのは温度ではなく、密度です。「臨界密度」以上の密度になると、自由走行状態は「不安定」となり、かすかな速度ゆらぎでも渋滞へと転移します。

現象としては、低密度では速度ゆらぎが後ろに伝わるにつれて減衰するのに対し、高密度ではゆらぎがうしろに伝わるにつれて拡大します。渋滞を決める本質的に重要なパラメータは密度であるということです。

このような「相転移描像」が90年代以降に発展した「物理的解釈」です。したがって、数理モデルや数値シミュレーションなどでは、さまざまなことがすでにわかっていたのですが、それを実際にやってみたというのが、今回の実験。

僕たちはみんな理論やシミュレーションをやってきたのですが、数理モデルに基づく「物理的解釈」がなかなか世間(^^)に受け入れてもらえないので、本物でやってみせたという「デモ」だと思ってもらってもいいです。

[さらに追記]

相転移であるという意味は、非渋滞と渋滞の違いは単なる「程度問題」ではなくて、質的に違う「完全に区別のつくふたつの状態」ということです。これは道路行政上の「渋滞」の定義とは違います。

[もうひとつ追記]

もっとちゃんと言うと、「渋滞が安定だが、自由走行も準安定」という密度領域があって、ここでの自由走行が氷でいえば「過冷却」に相当する部分。

極端に簡単なモデル(rule184セルオートマトンなど)ではこの状態がないのですが、高速道路での実測データ上は準安定領域があるように見えるので、準安定を持つモデルのほうがより現実に近いと考えられます。今回の実験で一様走行がしばらく続くのは準安定だからというのが一番もっともらしい解釈だし、そう考えてはいます。

ただし、小さいシステムでもあり、車もいろいろなので、準安定領域はぼけちゃうと思うんで微妙といえば微妙。密度が連続に変えられませんから (一台単位でしか台数を変えられないので)、この実験だけをもとにあまり細かい議論はしないほうがよいのだと思います。
そういう意味で、数理モデルをきちんとやって、理解しておくことが重要なのです。いずれ、もっとでかいシステムで、いろいろ条件を変えて実験します・・・
研究費ができたら(^^;

[追記はここまで]

と、90年代に分かってきた問題のようです、正直な印象として「そんなに最近なの?」でありますが、なにしろ自動車交通での道路の問題はドライバーに全部おっかぶせられているのが実情ですから、これで通用しちゃったんでしょうね。

間違えなくCGなどよりも格段にインパクトある映像だし、現実問題に直結しているところまで来ているのだから、解決策を示すことも出来るようになるでしょうね。
こういうところには注目しなくちゃいけませんな。

3月 8, 2008 at 08:54 午後 日記・コラム・つぶやき |

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コメント

へー、90年代に結論出たんだ。私が大学にいた80年代中ごろにそういうモデルのシミュレーションやってる連中がいたけど、「うまく説明できるモデルがみつからーん」て言ってたんだよな。

投稿: alpha2 | 2008/03/10 14:21:58

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