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2007.11.15

取り調べDVDが証拠不採用

読売新聞より「録画から「任意性に疑い」と調書却下、大阪の殺人未遂公判

大阪地検が取り調べの様子をDVDに録画し、殺人未遂罪で起訴した大阪市西成区、無職蓮井一馬被告(88)の第4回公判が14日、大阪地裁であった。

蓮井被告は捜査段階で自白調書を作成されたが、公判では殺意を否認しており、西田真基裁判長は前回の法廷で上映されたDVDの録画内容から「取調官による誘導や誤導があった。任意性に疑いがある」として、検察側による自白調書の証拠請求を却下した。

裁判員制度を控え、検察当局は裁判員の負担を軽減し、自白の任意性を判断しやすいよう取り調べの録音・録画を試行。公判でのDVDの証拠採用は全国で4例あるが、調書の却下につながったのは初めて。

起訴状によると、蓮井被告は5月、自宅アパートで、共同トイレの修理を巡って住人男性とトラブルになり、果物ナイフで胸などを刺して約3週間のけがを負わせた。公判では、自白調書の任意性を判断するため、検察、弁護側双方がDVDを証拠請求した。

DVDには、自白調書の内容を確認する様子を約35分間にわたって録画した。検察官から「殺そうと思ったのは間違いないね」と聞かれ、蓮井被告が「間違いないです」と認める一方で、「殺そうとは思わんけど」と殺意を否認したり、調書の内容について「わかったようなわからんような……」と言葉を濁したりする場面も収められている。

西田裁判長は「殺意を否定しようとしたのを無視し、調書に沿う供述をするまで質問を続けた」と指摘。「高齢で聴力が著しく低下しているのに早口で次々に質問し、被告に不利な内容を押しつけていた疑いがある」などと批判した。

蓮井被告の弁護人で、「日本弁護士連合会取調べの可視化実現本部」副本部長の小坂井久弁護士は「裁判員制度で、録音・録画が任意性を判断する有力なツールになり得ることが証明された」としている。

どういう意図で検察がDVDを証拠申請したのか分からないというのは、モトケンさん(矢部弁護士)も述べています。
素人考えとして、検察が取り調べ状況の映像を証拠申請するのであれば「強要など問題のある取り調べはしていません」と証明すると思っていたので「全取り調べ状況を示すしかないだろう」と考えていました。
その場合「何時間にも及ぶ映像記録をどうするのか?」とも思っていて検察が抵抗するのも当然か?と思っていたら意外とあっさりと出てきたので「どういう意味なのだ?」とちょっと不思議に思っていました。
そうしたらちょっと前に落合洋司弁護士がこんな記事を紹介して解説しています。
中日新聞より「裁判員が自白調書の任意性を判断・最高裁研修所の研究結果判明

最高裁司法研修所(埼玉県和光市)による裁判員裁判の在り方に関する研究結果の骨子が10日判明し、自白調書の任意性が争われた場合、裁判員が認めない限り証拠採用しない方針が示されることが分かった。裁判官は検察側、弁護側双方の任意性立証を解説したり、自分の考えを説明したりしないことも盛り込まれている。

研究結果の骨子は「裁判員裁判のイメージを示したもの」(最高裁刑事局)とされ、実務上の指針となりそうだ。また骨子は、富山などの冤罪(えんざい)事件で注目されている取り調べの録画を「有効な手段」と評価し、本格導入を促す可能性もある。

司法研修所は本年度、東京地裁などの裁判官計5人に「裁判員制度の下における大型否認事件の審理の在り方」に関する研究を委嘱し、10月までに骨子がまとまった。

骨子によると、まず裁判員裁判の基本的な考え方として

  1. 法廷での供述・証言に基づき審理する「口頭主義」を徹底する
  2. 審理時間を大幅に削減し、公判に立ち会うだけで必要な判断資料が得られるよう工夫する
  3. 裁判官室で供述調書などを読み込む従来の方法は採らない
-などと指摘した。

続いて被告が捜査段階の自白を翻して起訴事実を否認し、捜査段階の自白調書は任意の供述か、取調官の強要によるものかが争われるケースに言及。これまでは取調官の尋問や被告人質問などが長く続き、裁判官が全供述調書を証拠採用した上で供述の変遷を検討して判断してきたが、裁判員裁判では「こうした手法は採り得ない」との見解を示した。

取調官の尋問について「供述経過を証言させ、任意性などの肯定判断を得ることは期待すべきでない。尋問も30分-1時間程度(主尋問)で終える場合に限る」とし、検察側に取り調べ時間、場所などのほか容疑者の体調も含めた経過一覧表の作成も求めている。

その上で自白調書の証拠採用に裁判員が同意する必要性を示し「捜査の実情に関する裁判官の理解を前提にすれば任意性を肯定してもよいケースでも、裁判員が確信する決め手がない場合(検察側は)任意性立証に失敗したと考えるべきだ」と付言した。

この最高裁研修所の発表に対して、落合洋司弁護士は

「供述経過を証言させ、任意性などの肯定判断を得ることは期待すべきでない」ということになると、常識的な意味での「任意」(刑事訴訟上の「任意」は常識的な意味では使われていないので)とは言えない取調べがあったと判断されれば、供述調書の取調べ請求が次々と却下されるということが起きる可能性が高いでしょう。正にその点を、上記の通り、「捜査の実情に関する裁判官の理解を前提にすれば任意性を肯定してもよいケースでも、裁判員が確信する決め手がない場合(検察側は)任意性立証に失敗したと考えるべきだ」と指摘しているものと思います。

この研究成果は、現行の捜査、特に被疑者取調べに対し、大きな変革を求めるものと言っても過言ではなく、その意味には極めて重いものがあります。

諸外国における取調べ改革(可視化など)を尻目に、改革を怠り従来の制度に安易に依存してきたツケが、ここに来て一気に噴出してきた、と言っても過言ではないと思います。

との見解を発表されています。
そこで、改めて最高裁研修所の発表を読んでみると

取調官の尋問について「供述経過を証言させ、任意性などの肯定判断を得ることは期待すべきでない。尋問も30分-1時間程度(主尋問)で終える場合に限る

これに注目が行くわけで、それを落合弁護士が

供述経過を証言させ、任意性などの肯定判断を得ることは期待すべきでない」ということになると、常識的な意味での「任意」
(刑事訴訟上の「任意」は常識的な意味では使われていないので)
とは言えない取調べがあったと判断されれば、供述調書の取調べ請求が次々と却下されるということが起きる可能性が高いでしょう。

と書かれていることから、結局のところ今までの自白の任意性の争いでは、取調官と被告のどちらが信用できるのか?という「雰囲気を争っていた」という意味じゃないのか?と思ったのです。

自白が客観的に見て証拠能力があるのか?という問題であれば、取り調べそのものに立ち会うわけにはいかないのだから、映像記録を残すぐらいしか手がないと思っていたのですが、実は自白の信用性について客観的な判断ではなくて、自白の真実性について争っている検察と被告とのどちらを信用するのか、という間接的な手法で判定していたということになるのでしょうか?

であるとすると、今回の裁判で検察が35分のDVDを出してきた意図も「取り調べは妥当な範囲です」という雰囲気の証拠だったのかもしれません。
いくら雰囲気が妥当でも被告の意志が定まっていないのでは、検察が有罪の証拠とすることは出来ないでしょう。
その点をモトケンさんは

検事の取り調べ技術が下手くそだったのではないか。
何のために録画するのか、という問題意識のピントがずれていたのではないか。
検察官は本件の立証の柱をどう考えていたのか。

などの疑問が頭に浮かびます。

とコメントされています。
刑事裁判だけではなく民事裁判においても一般社会の常識からはすぐに思いつかない(よく考えると妥当であっても)ヘンな「お約束」があります。
わたしは、この何年間か複数の裁判の応援をしてきたので段々と「お約束」の存在やその意味を理解できるようになってきましたが、刑事裁判においても裁判員制度がこれらを分かりやすくすることは全体にとっては良いことかもしれません。

11月 15, 2007 at 10:51 午前 裁判員裁判 |

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受信: 2008/01/13 0:39:12

コメント

辻川圭乃著「実録刑事弁護」という本の中で、
知的障害のある人が罪に問われた事件で、
「調書は筋がとおっているから信用できる、
裁判で述べた被告本人の発言は、つじつまが合わないから信用できない」と
裁判官が判断して、重い罪になったケースが紹介されています。
御本人の自発的なことばをつなげて素直に読むと、本人がどういうつもりだったのか、調書は取調官の作文であることがあきらかだと思えるのですが。
知的障害や発達障害に詳しくない人が裁判員になったら、改善されるのかわかりませんが。

投稿: tambo | 2007/11/15 12:20:56

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