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2006.03.05

裁判員制度・自白を考える

元検弁護士のつぶやきさんの記事「自白の重要性」は法律素人で、まして刑事捜査の実際なんて知らない者にはとても感心させられる内容です。
日本の刑事裁判においては、自白がとても重要です。
それは、単に犯人性の確認(被疑者が本当に真犯人か)だけではなく、犯人に何罪が成立するのかという問題においても重要なのです。
内心の事情というのは、外形的な行動からある程度推認することは可能ですが、外形的行動からは分からない場合もかなりあります。
典型的な場合としては、深夜、路上を歩いている女性を犯人が無言で殴りつけたところで別の通行人に捕まったという事案を考えてみますと(被害者は怪我をしていないとします)、犯人が強姦するつもりだったら強姦未遂、わいせつ行為をするつもりだったら強制わいせつ未遂、金を取るつもりだったら強盗未遂になります。
しかし、このいずれかは無言で殴りつけた段階で捕まってしまいますと、外形的な行為からは判別がつきません。
「金を出せ」とか「やらせろ」などという言葉が出ていて、それを被害者が聞いていれば、被害者の供述から犯人の内心を推認することはできますが、無言であるとそういうわけにはいきません。

そうすると被疑者を取り調べて、どういうつもりだったのかという自供を得なければ、何罪が成立するか決められないのです。

つまり刑法の規定の仕方というものも、取調べと自白の重要性に影響を与えるわけです。
このエントリーを引き取って、弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」さんが「[裁判制度]「自白の重要性」雑感」を書かれています。
全くその通りだと思います。ただ、私が危惧しているのは、そういった現状を、特に裁判員制度の下で維持できるか、ですね。

したがって、自白に依存した立証が多用される制度(正に「自白の重要性」が語られる、我が国の現行刑事司法です)においては、自白の任意性(証拠能力)、信用性(証明力)の評価が極めて重要にならざるを得ず、そういった評価を裁判員に強いるのは、極めて困難(ほとんど不可能)であるというのが、私の率直な意見です。

この問題は、自白に依存した立証を多用させる刑事実体法の内容によるところが大きく、本当に裁判員制度を実効性のあるものにしようとするのであれば、刑事実体法を大改革し、犯罪成立上、客観的な要素を中心に据えて、犯罪体系を構築する必要があるでしょう。その点を放置したまま、裁判員制度を導入しても、裁判官や検察官、弁護士(いずれも専門教育を受け職業として刑事裁判に携わっている)ですら認定に悩む自白の任意性、信用性を、裁判員に的確に判断しろ、というのが無理というものです(例外はあると思いますがごく一部でしょう)。

各地で、裁判員制度を想定した模擬裁判が行われているようですが、やればやるほど、こういった本質的な問題を解決しないまま制度だけを作ってしまった問題点が深刻化するだけではないかと思います。

今のままでは、裁判員制度のカタストロフィが、それほど遠くない将来に確実にやってくると言わざるを得ません。
いや~えらいことになっちゃったな~と思います。
わたしはお二人の見解の内では落合弁護士のお考えは想像していました。

自分が裁判員として判断するときに「自白調書を読みこなせるか」と考えてみると、とても無理だろうと思うのです。
外見的には自白調書は作文であり、事件の真相を現しているものか、検察官の作文なのか区別できるとは思えません。わたしは物証などに重点を置いて自白調書を無視するような判断をすることになるでしょう。
その結果は落合弁護士の指摘する「裁判員制度のカタストロフィ」といったことになるとは思っていませんでした。

自白調書以外の証拠が示されれば良いではないか、と思っていたのです。ところがモトケンさんの説明のように「事件の事実だけでは、犯人の犯意などは分からない」という指摘を聞いて「なるほどね」と思ったのです。

犯意によって刑罰が変わることには世間一般は慣れているでしょうから、自白調書を事実上不要とする刑事裁判という想定が無理だとなります。
そこに裁判員裁判を持ち込むと・・・・・・落合弁護士の指摘の通り「両立しないだろう!!」ですね。
どうなっていくのでしょうか?

3月 5, 2006 at 01:01 午後 裁判員裁判 |

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» 検察取調の録画について トラックバック 酔うぞの遠めがね
昨日、突如として「検察取調の録画・録音を東京地検で試行」というニュースが流れて、法律関係者のブログに評価記事が出ました。 基本は裁判員制度に対応することなので、裁判員制度についての記事を書きましたが、大変な長文になってしまいました。... 続きを読む

受信: 2006/05/10 10:48:11

コメント

私も自白以外の証拠を重要視すればいいと思っていた口です。自白に関しては憲法38条しかしらなかったですし。
自白の任意性を保障するものはやはり取り調べの様子だと思いますので、取調べの様子をビデオ記録というのじゃだめなんでしょうかね。

投稿: chem@u | 2006/03/06 22:23:25

>自白の任意性を保障するものはやはり取り調べの様子だと思いますので、取調べの様子をビデオ記録というのじゃだめなんでしょうかね。

裁判員裁判では「自白調書はこう作られた」とビデオで示すといったことは大変に重要なんじゃないか?と思うのです。

ところが、取調のビデオなどについて検察は否定していますし、元検察官の弁護士さんも「取調の内容が変質する」と言っているのですね。
かなりデリケートな問題なのだということが分かってきましたが、裁判員裁判は来ちゃいますからねぇ、下手すると落合弁護士の指摘のように裁判員裁判自体が崩壊する可能性もありますね。

投稿: 酔うぞ | 2006/03/07 8:04:22

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