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2005.06.10

続2・学術論争ではなくて名誉毀損訴訟になるものか

さらに続きますが「中西準子氏 vs 松井三郎裁判」は読んでいくとどんどん「???」状態になってしまいます。

最初に書いた通り、apj先生の紹介で訴訟が起きたことを知って、感想・見解を述べている益永先生のサイトを読んで、そこから中下弁護士の「プレス・リリース」を見てみた、という順序です。
改めて「プレス・リリース」を読んでみました。
プレスリリースだから訴状とは内容が違うのかもしれませんが、「???」にぶつかりました。

(3)名誉毀損行為の内容 (ⅰ)環境省主催の「第7回内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」(平成16年12月15日~17日、名古屋市で開催)の第6セッション「リスクコミュニケーション」に、中西氏は座長として、松井氏はパネリストの1人として参加した。 (ⅱ)その後、中西氏は、自らのHPに「雑感286-2004.12.24『環境省のシンポジウムを終わって―リスクコミュニケーションにおける研究者の役割と責任』」と題する記事を掲載し、その中で、松井氏が、 ① 「環境ホルモン問題は終わった、次はナノ粒子問題だ」というような発言をした ② 新聞記事のスライドを見せたが、原論文も読まずに記事をそのまま紹介した旨の記述をした。  しかしながら、松井氏は、自身の環境ホルモン研究結果から、ナノ粒子の有害性に言及し、新聞記事のスライドを紹介したのであって、中西氏の上記の記述は事実に反するとともに、松井氏の名誉を著しく毀損するものである。 (ⅲ)松井氏が抗議したため、中西氏は2005年1月20日にこの記事を削除した。しかし、松井氏に対する名誉回復措置は何ら講じられていない。よって、前記(2)の内容を求めて、本件提訴に及んだ次第である。
これが名誉毀損行為の説明をした部分で (ⅰ)は学会での発表があったという説明。 (ⅱ)が名誉毀損となる原因の行動(発表)だと指摘しています。

詳細を見ると

① 「環境ホルモン問題は終わった、次はナノ粒子問題だ」というような発言をした
② 新聞記事のスライドを見せたが、原論文も読まずに記事をそのまま紹介した旨の記述をした。

これの何が名誉毀損になって行くのか想像出来ません。
「環境ホルモン問題は終わった、次はナノ粒子問題だ」は学問上の見解の違いそのものでしょう。
「新聞記事のスライドを見せたが、原論文も読まずに記事をそのまま紹介した旨の記述をした。」これに至っては何が問題なのかすら分からない。一見「原論文を読んだ事実に反するから」と取れるが、「原論文を読んだのに」と書いたら「原論文は読んでいないのに」と名誉毀損で訴えられるかもしれない、ということになる。
つまり事実関係として読んでも読まなくても訴訟になる可能性があるわけで、訴訟をした理由の説明としては、前段階というべきだろう。少なくとも「読みもしないで」という記述に対して元の発表で「原論文によると」とか記述があったという事実関係を争う、という表現以外に無いでしょう。

一言で言うと「ひどい事を言われたので訴訟します」となれば誰だって「ひどい事の内容は?」と思うだろうし、プレスリリースとは「こんなにひどい事です」と説明することでは無いのか。
どう見ても、その説明をしていない。
こんなことだから「時間稼ぎか?」とか思ってしまうわけです。
今後の法廷ではどんな展開になるのでしょうかね?

6月 10, 2005 at 09:23 午前 事件と裁判 | | コメント (0) | トラックバック (1)

続・学術論争ではなくて名誉毀損訴訟になるものか

「学術論争ではなくて名誉毀損訴訟になるものか」の続きを述べます。
この情報は元々は今年の初めにきっかけがあって、すでに第一回口頭弁論は済みました。

わたしは法学者では無いから正確性に欠けますがわたしの理解では、名誉毀損民事訴訟は一般的な形とでも名付けることが出来る、特徴があるとのことです。

裁判には刑事と民事がありますが、刑事裁判においては被告と国が争うわけで、被告が事件を認めると刑罰を受けることになりますから、極力否定するのが普通でしょう。

一方、民事は二者の争いを裁判所が判定するものですから、事件の性質によって色々な形があります。例えば金銭貸借などの争いだと金銭貸借があったのか無かったのか、という争いをすることが多いわけで、金銭貸借裁判などでは「事実関係の争い」を裁判所は判定することから判決は固まっていくのでしょう。

名誉毀損裁判では事実関係として名誉毀損になる例えば文章などがあるか無いか、つまり事実関係を争わないのが普通です。
文章が名誉毀損に当たるのかという争いでは、問題の文章を書いた方の一般的な言い分は「正当な批判文書を書いた」と主張するだろうし、書かれた側は「誹謗中傷の文章だから名誉毀損になる」と主張するでしょう。
つまり「文章を書いた」という事実は争わないわけで、さらに書いた側としては「批判したのだから、相手は怒るかもしれない」ぐらいの判断はしているでしょう。
つまり、書いた側は広い意味では名誉を傷つけるかもしれないとしてやっているし、場合によっては名誉を傷つけることになる、と理解しているはずです。

ではどこを裁判で争うのか?というと、正当な批判であるのか不当な誹謗中傷なのか、を判断することであったり、公共性・公益性の観点から許される範囲であるか、という判断を裁判所に求める、というのが普通の名誉毀損裁判の形です。


さて、「学術論争ではなくて名誉毀損訴訟になるものか」で紹介した争いは、原告がプレスリリースで

中西氏は、「環境ホルモン問題は終わった」と考えておられるようであるが、これは大変な間違いである。
と述べて、これを訴訟提起した理由としている。
これでは被告の中西準子氏にとっても「思っていることが名誉毀損だ」ではたまらないだろう。実際に中西準子氏ご自身の雑記帳で
ところが、よく読むと、「中西氏は、『環境ホルモン問題は終わった』と考えておられるようであるが」(原告代理人)とある。考えておられるようであるが、を提訴の理由にしている、恐ろしいことだ。
と述べておられる。ところで、名誉毀損訴訟の被告になったことで中西氏は
私は、提訴されるという重圧の中で、いつの間にか、自分が何か悪いことをしたのではないか、行き過ぎたことをしたのではないかと、そればかりを考えていた。
と述べている。これが名誉毀損裁判として事実関係を争う珍しい例になるかもしれないと気づいた点です。

もちろん、法学理論としては名誉毀損の条件に故意は無いから名誉毀損に該当する記事を過失で書いて発表した、といったことはあり得るでしょう。しかし、文章などを作り発表するという能動的な行為において、対象となる人のことを全く無視したり失念したりすることはある意味で不自然です。

では、そのような「書き手の側に名誉毀損をする意図がなく、名誉毀損の争いになった例が無いのか?」というと過去にあります。
「言葉狩り」「差別用語」といった問題が激しかった時には単語があることが問題である、とされたこともあります。また、時代の変化によって「書いてはいけない」ということで絶版になった本などもあります。つまり書き手が批判などする意志無く書いた文章が誹謗中傷であるとれれたことはありました。

しかしこれらはごく常識的な名誉毀損裁判の枠組みからいささか外れ気味であるし、裁判で決着を付けようというのであれば、二者間の交渉が決着しないから裁判所に判断してもらう、というのが民事裁判の基本であるのですから、被告が「発表した何が名誉毀損に当たるのか?」と考えてしまうようでは、交渉せずに訴訟を提起したのは間違いないでしょう。

あれやこれやあるとしか言いようがないが、下手すると名誉毀損をめぐる民事訴訟において、名誉を毀損した事実が何かを争うという珍しい裁判になるのかもしれません。

6月 10, 2005 at 12:50 午前 事件と裁判 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.06.08

学術論争ではなくて名誉毀損訴訟になるものか

とっても気になっている裁判が起きています。
元は「インターネット上の表現の自由を考える掲示板(旧:株式会社ウェディング問題を考える掲示板)」で紹介されて知りました。「市民団体による訴訟を利用した学術側に対する言論封鎖?」

この裁判があることを紹介してくれた apj さんは「水商売ウォッチング」で怪しげな水加工装置を批判している、化学の先生です。
apj 先生と同じ分野でかなり指導的な発言力があるとされている中西準子先生が、同じく化学分野の先生に「名誉毀損で訴訟提起された」のだそうです。

これはもう、いきさつをあっちこっちで読むしかないのです。

中西準子先生の感想 雑感306-2005.6.7「第1回口頭弁論の報告」
益永先生の感想 益永茂樹の備忘録
apjさんの感想 中西準子氏の訴訟続報
と並んでいます。

他にも色々な方が感想を述べていますが、共通しているのは「学問上の見解を相違を名誉毀損で訴えるものか?」です。これについてはわたしも全くその通りだと思いますが、実際に訴訟を提起したのですから「やるものか?」ではなくて「なぜやったのか?」を考えるべきでしょう。

原告の見解は、どういうわけか弁護士のプレスリリースという形のようで、その中に中核的な見解が述べられています。
このプレスリリースが掲示されているのは「化学物質市民研究会」の掲示板です。原告は京都大学の先生です。どういう関係なのかは明示されていません。

松井氏が抗議したため、中西氏は2005年1月20日にこの記事を削除した。しかし、松井氏に対する名誉回復措置は何ら講じられていない。よって、前記(2)の内容を求めて、本件提訴に及んだ次第である。

もうここで「えっ!?」である、学者同士が見解が衝突することについて、名誉毀損の措置が不可欠なのか?です。一言で言えば正当な批判と不当な批判という観点がなくて「○○問題を××といったから名誉を毀損された」では学術だけではなく実社会の全般について社会は動かなくなってしまう。さらに驚くべき記述が以下です。
本件は、決して、松井氏が個人的な名誉回復だけを求めて提訴したものではない。松井氏が提訴に踏み切ったのは、次のような理由からである。
(1)批判そのものが悪いというのではない。
むしろ、科学の発展は、建設的批判抜きにはあり得ないといっても過言ではない。
しかし、いやしくも「科学者」である以上、他者を批判するときは、少なくとも他者の意見をよく聞き、事実に基づいて、合理的根拠を示して行うべきは当然である。
本件のように、碌に他者の発言も聞かず、事実も確認せず、一方的に他者の名誉を毀損するような決めつけを行うことは、「科学者」の名に値しない行為である。
ましてや、中西氏は単なる一科学者ではない。科学者を指導育成し、国の科学技術のあり方を決定するという重責を担っている。前記シンポジウムでも、「リスクコミュニケーション」問題の座長を務めていたのである。
本件行為は、そのような立場にある者の言動として、看過できないものである。
(2)さらに、中西氏は、「環境ホルモン問題は終わった」と考えておられるようであるが、これは大変な間違いである。
松井氏らの研究成果からも、環境ホルモン問題は、複雑ではあるが、人の健康や生態系にとって、決して看過できない重大な問題であることが明らかになっている。
したがって、今後も、ますます精力的に研究を進め、有効な対策を講じることが求められている。
中西氏のように、国の科学技術のあり方を決定する立場の人が、そのような誤った認識を持ち、その結果、国が政策決定を誤ることになれば、国民の健康や生態系に取り返しのつかない事態も招来しかねない。
特に、次世代の子どもたちの発達や健康への悪影響が懸念される。
近年、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害やアトピー、喘息などのアレルギー児が増加しているが、その原因のひとつに環境中の化学物質の影響が懸念されているのである。
松井氏は、研究者として、国民の一人として、中西氏のこのような誤りを断じて見過ごすことはできないものと考え、貴重な研究時間を割いて、敢えて本件提訴に踏み切ったのである。
これでは、目的のためには手段を選ばす宣言ではないのか?
少なくとも、論理が中西先生は有名人で影響力がある、その人が自分の見解と反する意見を述べるのは(自分の考える範囲で)世界に危機的な影響力がある。
これは理解できる。それなら自分が中西先生よりも影響力を行使できるようになれば良かろう。
それを「だから裁判所に判断を求める」では学会とか意味無いではないか。
裁判所が学説の序列を決めれば良い。

ここまでは、多くの方々の共通した感想ですが、いくら何でもこういう批判があることを予想しないで、提訴したとはさすがに思えないわけです。何か思惑があるだろうと考えるのですが、裁判になると決着が付くまでは争いは停まりますから「時間稼ぎなのかな?」というのが一番分かりやすい点ですが、「なんのために時間稼ぎをするのか?」という次の疑問になってしまいます。

少なくとも、表現の自由やネット上での言説での争いという概念を超越できるという考え方を持ち込んで(それ自体はいくらでもあるが)学術上の論争になるはずのものをいきなり名誉毀損に持ち込んだ意図は図りかねる、という点で注目するべきでしょう。

6月 8, 2005 at 11:33 午前 事件と裁判 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.06.07

弁護事務所がファックス誤送信

北海道新聞より「破産受理票を誤送信 旭川の弁護士事務所

同事務所によると、四月四日、担当弁護士が女性職員に受理票を債権者六人にそれぞれファクスするよう指示。職員が送信後、担当弁護士がファクスの送信記録を確認したところ、六人のうち一人分だけが別人に送付されていたことが分かった。
ファックスの誤送信は良くある話で最近ではファックスからメールに連絡手段が変わったら誤送信とCCでメールアドレスを公開してしまう、という別の問題も発生しています。

これらは個人情報保護法上の情報流出に当たりますから、なんかもっとうまくやる、事故が起きないようにする、といった対策が必要ですが、有効な対策があるか?となると難しいです。

わたしの住んでいる地域のケアプラザ(福祉法人)から、同報メールを安全に出す方法などを含めた相談を受けていますが、同報メールで事故を起こさないようにとなると、送信専用のメーラを使うしか無いようですね。
調べてみたら「メールマジック」というソフトウェアに当たりましたが、SPAM 発信にも使えるわけで(^_^;)悩ましいものですね。

一宮の小学校の先生の流出事件でも、今回の弁護士事務所からの流出事件でも、記事を読んで「注意しよう」ではいつかは流出すると考えて良いのではないか、と思います。
つまり具体的に「こう対策したから、安全性は高まった」と誰もが判断出来るような対策が良いのかな、と思っています。

6月 7, 2005 at 09:28 午前 セキュリティと法学 | | コメント (0) | トラックバック (0)