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2005.05.28

退職挨拶→個人情報保護法違反?

朝日新聞より岐阜病院の元医師が患者情報持ち出す 院長らを処分
タイトルだけ見るといかにも病院と対立した医師が前の職場からカルテ情報でも持ち出したかのように読んでしまったが、まるで違います。もっと見出しを慎重に付けるべきだよ>朝日新聞社

県立病院での981人分の患者の個人データを持ち出し、これをもとに632通の「退職あいさつ状」を送っていたと、同県が27日発表した。
県の確認に対し、医師は事実を認め「持ち出したデータや患者から届いた礼状、年賀状をもとに『退職あいさつ状』を患者に送った」などとする謝罪文を提出したという。

これは個人情報保護法の実務を検討している時にどうしたものか?ということで話題になっていたことの典型例で、新聞記事になるとは予想していませんでしたが、ここを読んでいらっしゃる方に紹介するのには良い例と言えます。

わたし自身は現在の個人情報保護法は実務レベルでは判断に困るというか、現実的でないところが多々あると思っています。その代表が「名刺一枚落としても役所に届け出る」なんてのですが、もっと根本的な問題があり、かつ全く検討されていないに等しい問題があります。

個人情報保護法は、個人情報を管理することを義務づける法律ですが「誰が何処を管理するのかを調整すること」については全く規定されていません。個人情報を収集する人に管理義務があるのか、収集した情報を集積したところにあるのか、といったところさえ分かりません。というより、個人情報を集めるところ管理するところを分けるなんてことが出来ません。純粋に集めるだけで全く集積も整理もしないということはあり得ないでしょう。その一方で集めているが、その結果を整理して提供する業務というものあるわけですが、提供を受けた側が管理を提供された側の言う通りにするのでは下請けになってしまって、これも現実的ではない。

いささか抽象的に書きましたが、世の中には個人で営業している営業マンという人たちが居ます。この人たちは基本的に自力で顧客を見つけているわけですから、転職時にその名簿持って行くことは少なくとも今までは当然でした。これは退職された企業から見ると顧客を失うのですが、顧客が「○○さんと取引しているのだから」と会社との取引を二番目以下に置いている例は珍しくありません。
また、新製品や新サービスを顧客が受ける当然の権利としても、顧客情報が廃棄されることが望ましいとも言えません。営業マンが個人情報を管理するのであれば、個人情報保護法上は勤務している会社の個人情報管理状態に責任を持つことになります。会社としてはその他の個人情報を保有しているので、営業マンを管理することになります。

こんなことは現実的ではないので、現時点では営業マンの保有する個人情報は会社のモノだということになるような方向ですが、その結果として営業マンは退職時に手帳を置いていくといったことなります。これでは、個人の営業マンは絶滅するしかないわけで、どう考えても社会の活力を失わせる方向にしかなりません。

朝日新聞の記事に戻ってみると、県(病院)側は「個人データを持ち出して」と言っていますが、医師側は「礼状、年賀状のデータだ」と言っています。
個人情報保護法の大問題は情報を区別していないことで、遺伝子情報も氏名も全く同一に扱います。つまり常識的には「年賀状は個人向けだろう」という話しが成立しません。その上に個人向けに礼状が来たとしても病院が受け取って管理するものだ、ということなっているからこんな展開になったのでしょう。法的には病院(県)が正しいのですが、常識としては医師の主張の方が正しいように感じます。こんなことが事件になるのか?というその原因は割とはっきりしています。

あいさつ状には、医師が4月から勤務している県内の民間病院の名前や診察時間なども書かれていた。医師は「患者に何かあったら連絡してくれればと思った」と話しているというが、岐阜病院は「事実上の民間病院の営業案内というとらえ方も不可能ではない」としている。

つまり挨拶状が営業案内に見えるモノだから問題になった、ということでしょう。

それにしてもこういうバカバカしい展開になる法律は問題だと思います。

5月 28, 2005 at 12:01 午後 セキュリティと法学 |

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コメント

退職時にお世話になった方に挨拶状を送るのは社会の常識だと思っていたのですが‥‥。私も他人事ではないです(汗
しかしまぁ、こういう法律の問題をみていると、デジタルミレニアムの弊害にもよく似ているなと思います。いずれも、明らかに本来の目的外の、他人を攻撃するための理屈に使えてしまいます。

投稿: わくたま | 2005/05/29 18:14:47

わくたま様

個人情報保護法というのは厳密にやると社会生活が成り立たなくなるのが明らかだということで、例えば人命に関わる場合に無視しても誰も文句を言えないわけです。
つまりは、個人情報保護法と個人情報保護法に抵触するような行為とのバランス問題だということで、これならわざわざ法律にするものか?とも思えてしまいます。

ワイセツ目的盗撮の罪とかいう法律を作るとか言ってますが、法律を作るほどの事でしょうかね?ノゾキとは別の罪ですよ?どっちもどっちだと思うけど(^_^;)

なんかこのところ法律の作り方は民意を受けてなのだろうと思うのですが、もうちょっとバランスを取る方向があるのではないでしょうかね?

現行の個人情報保護法の範囲ではっきりさせるのだと「この情報は誰のモノだ」という合意をすればよいわけですが、こんなことやると角が立つだけでしょうね。

投稿: 酔うぞ | 2005/05/29 19:06:31

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