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2005.01.08

個人情報保護法を考えてみる 2

その2です。

個人情報保護法自体は割と明快なように見えるからやっかいなものだ、という側面があるのかもしれません。

1月4日のニュースで「個人情報流出:TDL年間パスなど14万人分 恐喝未遂も」というのがあります。
この事件は外部から「個人情報リストを持っている。買わなければマスコミにばらす」と恐喝されたことで始まりました。
TDLの説明によると16人分の個人情報が流出したとのことで、14万人にお詫び状を出しています。わたしの知人も受け取ったとの報告をくれました。言うまでもなく莫大なコストであったでしょう。

この問題について法律の専門家とお話ししましたが、TDLが14万人にお詫び状を出したということは、流出した情報がそれなりに問題のあるものであったろう、ということになりました。
というのは、16人分ですから極端なことを言えばTDLのバスポートを持っている人の名簿を集めて「ほれ個人情報流出だ」とやれる可能性もある、ということです。
しかし実際にこんなことであれば、どこの会社でも14万人にお詫び状を出すなんて手間は掛けないのではないか?と思います。
つまり、もっとクリティカルな情報が流出していたのではないか?ということです。

そこで、個人情報の流出として問題になる個人情報とはナンなのか?に舞い戻ります。
これは「個人情報」が流出と考えるのが問題なのではないでしょうか?
「問題になる個人情報」の流出であるべきでしょう。
問題になる情報が流出したから問題になった、なら理解できますが個人情報が流出しただけでは問題になるかどうか分からない、という当たり前のことです。

ところが新聞報道をチェックしてみると読売新聞の記事に「個人情報2万9500件流出、札幌市の保健所から」とあります。

個人情報を入力したノート型パソコン2台が盗まれたとして、市は7日、札幌中央署に盗難届を出した。人口動態統計のうち、死亡情報約1万9000件、離婚約5000件、出生約3000件、婚姻約2500件が登録されていて、氏名、生年月日、住所、職業などが入力されているが、人数は数万人単位になるものの「不明」という。
記事の中身には「個人情報が盗まれた」とは書かれていません、ノートPCが盗まれたと書いています。しかし、記事のタイトルは「個人情報流出」です。ごく普通に「個人情報が盗まれた」と読めると思います。

その何が問題なのか?というと、個人情報は財物ではありません。
盗むとか詐取するというのは財物に対して出来ることであってこれは最古の法律で「汝盗むなかれ」と書かれているくらいです。
氏名(姓名)は個人情報の代表的なものでしょう。問題は名前の所有者は誰なのか?です。
一見、個人の姓名はその個人のモノのように思えますが、よくよく考えると自分の名前を自分だけで独占していると全く名前として機能しません。他の人はその人の名前を知らないのですから。
つまり、名前(姓名)はその個人の社会的な位置を確定するために社会が共有しているものである。
といった定義の方が実際的なものではないでしょうか?

個人情報保護法に関わってから違和感があったのが「名刺も個人情報です」と言われることです。
ネット用の名刺としてハンドルとメールアドレスしか書いていない名刺を使うことは特に女性には珍しいことではありませんが、ビジネス用途に限っても名刺を出したらそれがDMに使われるのは覚悟の上でしょう。
それを個人情報として管理しなさいという話しになると、説明として出てくるのは「机の中に名刺の束を放り出しておいて、誰かがそれをDM業者に渡したら文句が来ます」なんて説明になっています。
これは、名刺が個人情報だとしてもその取り扱いの一局面の話しであって、名刺そのものや名刺を交換することについて特段の注意をしろという意味では無いでしょう。
ところ「名刺は個人情報」「鍵の掛かるところにしまうべき」といった議論がなんの疑問もなく語られますが、普通はオフィスは鍵が掛かるでしょう。野天でオフィスを開業しているなんて例はほとんどありません。

というわけで「個人情報」という言葉だけが走りすぎていて、その問題点をかえって考えていないのではないか?さらには「個人情報の使い方の問題」を「個人情報の問題」にしてしまっているのではないか?と思うようになりました。

1月 8, 2005 at 05:25 午後 セキュリティと法学 |

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個人情報保護法の施行後は、個人情報取扱事業者(過去六ヶ月以内に5001件以上の個 続きを読む

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コメント

はじめまして、
名刺って広告手段で、自分を知ってもらう道具のはずが、他の人に知られないようにしなければいけないというような変な感じがしますが、いかがなものなのでしょう?

投稿: master | 2005/01/08 19:59:52

酔うぞさん、こんにちは。yuu2です。

 多くの弁護士の方々と研究をされている酔うぞさんと違い、セミナーやベンダーのコンサルさんに教えを請うている素人の理解なのですが、個人情報というか、この法律では「個人情報データベース」。それを構成する「個人データ」&「保有個人データ」を対照としているのではないでしょうか?

 情報漏洩は、悪意のある場合完全には防げない。どれだけ漏洩の防御策をしていたかで法として罪を問うとの主旨の法律と、勝手な理解をしています。
 保有する個人データが、5,000件に満たない場合は、「個人情報取り扱い事業者」とは見なされず、法律の対象外。あるB2B取引しかない製造業の会社でのケースで、社員のメールアドレスなどのデータベースと、展示会などで収集した名刺などからなるデータベース程度しか無い場合は、ホームページなどに収集したデータを公開しないことや、収集する場合に目的を明示するといった数行のポリシィを書いておけば良いとコンサルに指導されたとの話も聞きます...?

 法律の対象にならなくても、情報漏洩の記事がマスコミに載れば、企業の信頼性が問われるご時世ですね。
 連発した事件の対応例で、補償や謝罪のパターンが出来て来つつあり、これを見習う企業が増えて画一的な対応がされだしたと言うのが実情では無いでしょうか?


 

投稿: yuu2 | 2005/01/08 22:42:11

個人情報の伝達速度、広域化、大容量化等通信技術社会への変化が、情報の主体が自分の情報の伝達経路や範囲、なぜといった追跡が不可能となったことで、想像もつかない誰かが自分のことを知っている、その違和感から個人情報保護のアンケート回答では賛成が多かったと思う。しかし、契約やアンケートで氏名と生年月日や住所、電話番号を記載させられることに抵抗があり、かなり前から、自己判断で私はできるだけ架空のデータを記入する。規制の強化によって情報が、特定の機関だけで集中し、個人間の相互コミュニケーションが阻害されるような不審を増徴するような報道や行政のスタンスに危機感を感じる。個人という主体の抹殺、でしかないというのが、氏名や住所、名刺さえ管理必要とする記述から受ける印象だ。もっと、議論されるべきではないだろうか?

投稿: 海老沢幸三 | 2005/02/28 16:00:23

海老沢幸三さん

さっき買ってきたのが「個人情報保護法とコンプライアンス・プログラム」鈴木正朝著 法務商事刊に、バランスについて書いています。

実にいろいろな意見があります。
一週間くらい前に弁護士が多く参加しているMLで「弁護士は個人情報取扱事業者になる」という議論がありました。

これは弁護士は弁護士名鑑を使って業務をしているのですが、弁護士名鑑が個人情報データベースに該当するからだ、という理屈なのですが当然のこととして、弁護士名鑑と電話帳になんの違いがあるのか?という議論になり、電話帳は個人情報データベースではない(住宅地図、カーナビ、電話帳がデータベースでないとされています)なのだ、という説明に弁護士が納得しない、というのが現実です。

上記の本の著者の鈴木さんには個人的に連絡して教えてもらっていますが、上記の本にかいてありますが「個人情報の定義が広すぎる」というのが問題の原因のようです。

遺伝子情報も名刺の情報も同じ規準で判断するとしたのですから、名刺の扱いで遺伝子情報を扱われたらかたまったもんでありませんし、名刺の扱いを遺伝子情報と同じにしたら名刺の役目を果たしません。

どっちに向いてもうまくいかないと言えるもので、これは法律改正を視野に入れるしかないでしょう。

では議論するべきか?となると、法律は出来てしまっているわけで、議論だけしても法律は変わりませんし、法律の施行は4月1日です。
実務的には法律違反になるかもしれないなどといったリスクを各事業者が取ることで、日常業務を動かすしかないだろう、と思っています。

個人情報保護法を厳密に適用すると、名前も聞けないとかになりかねません。営業活動なんて全部ダメということにもなります。
どう考えても、個人情報保護法は企業の営業そのもの禁止するような意味合いは無いはずですから、そういう適用はあり得ないとなるでしょう。

ようするなんのことだか分からない、というべきだと思います。

投稿: 酔うぞ | 2005/02/28 19:09:45

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